第16話 大手通信会社社員、フュルフュールと出会う
西のダンジョンは怖かったけど……楽しかった。
元々RPGゲームは好きだしダンジョン探索に憧れはある。
戦力的には役立たずだし、【収納】スキルのレベルも低くバックアップ要因としても微妙だ。
そんな僕がダンジョン探索に同行できたってだけでも嬉しい。
更に収入的にも美味しい。
最高級のハードスライムジェルと魔石。今月はかなりの黒字だ!
アムが来てからなんか楽しい。ギャルっぽいけどアムは良い子だ。
たまに怒りんぼになるけど、基本的に明るくて天真爛漫って感じで一緒にいるとこっちも明るくなる。
でもアムは……ずっとここにいるんだろうか? 急にどこかに行ったりしないのだろうか。
**
僕はランチの準備をしながら、アムを見つめる。
アムは胸元に下げた、小石ぐらいの魔石結晶を眺めなて嬉しそうにしている。
西のダンジョンでドロップしたのでプレゼントしたのだ。
魔石結晶は、通常の魔石より魔力が多く詰まっている。
それにクリスタルのような材質なのでなかなか美しい。
魔力が詰まっていれば光るし、魔力が切れると輝きを失う。
まあ、アムが持ってるなら魔力が切れることは無いだろう。
アムにプレゼントしたのは小さいので大した値段ではないが、サイズによってはかなり高額である。
なにせ、魔石結晶を身に着ければMPの最大値が上がったような状態になる。
魔力を使う人には便利な装備品だ。
ふと考える。そういえば悪魔って他にいるんだろうか?
ユニコーンの角とハート型の尻尾はあるけどアムは人型で可愛いし愛嬌がある。アム目当てに近いお客さんも増えた。
なんていうかな、悪魔だけど非常に馴染んでいる。
もっと……怖い悪魔っているのだろうか?
「なあ~アム」
「なあ~にぃ~??」
とことこ近づいてきて、カウンターに肘を掛けた。
そういえば……メイクが心なしか薄くなった気がする。
初めて会った時は、ギャルギャルしかったのに。今はちょっと清楚さがある。
あと破廉恥衣装を禁止したので、普段はTシャツと短パンだ。
ロックで強そうなブーツ履いてるし、髪は巻いたり、盛ったり、捻じったり色々してるけどね。
「アム以外にもさ、悪魔っているの?」
「い~るよ~」
「知り合いもいるの??」
「んん~~~」
あんまり悪魔は交流がないのかな??
「アタシは武闘派じゃないからな~~、あんまりいないかも~」
「そうなんだ」
「まあ、パパと……あとはフュルフュールちゃんぐらいかな~」
「ヒュ? ヒュルヒュル??」
「フュルフュールちゃんだよ。めんどくさいからフルフルって呼んでる」
「へ~~、どんな悪魔なの?」
「ロリっ子」
「へ?」
「ちっこくて可愛いの~♪ でもメチャメチャ強いけど~」
「へ、へえ~」
「呼ぼうか? 多分すぐ来るよ」
「え?? で、でも」
「待ってて~、えっとぉ~エルダフール霊峰にいるはずだから~、あっちかな~」
エルダフール霊峰とやらにいるフルフルさん。もう呼ぶことは決定事項らしい。
予想外の展開だけど、会ってみたいってのが本音だ。
「よっと、避雷針が必要なんだよね~、あとはでっかい音が出ちゃうから魔法で抑え込んでっと」
店にある一番大きな剣をアムは持ち、何か魔法を使っている。
魔法剣みたいでカッコイイな。
「フルフルーー! いるーー??」
叫んだ声は魔力に変わり、窓から飛んで行った。
「ど、どう?」
「ん~、聞こえたかな~? あ」
大剣に小さく電気が走った。
「聞こえたみたい~」
「お~」
大剣に雷が走る。
「お、おい、大丈夫か?」
「ん~、ダイジョブダイジョブ」
ヂヂヂヂと鳴り、剣に雷が集結してくる。アムが音を消してるみたいだけどなんかヤバそうだ。
そして剣の真下に魔法陣が描かれる。
「これって……アムがここに現れた時と同じだね」
「フルフルは雷化移動だけどね~♪」
次の瞬間、魔法陣が鮮やかに強い光を放った。
そして白煙を上げる。
収まりつつある白煙の中から声が聞こえる。
「おい。なんのようだ、アム」
「あ~フルフル~♪ 久しぶり~」
収まった煙から、幼女が現れた。仁王立ちしている。
150センチに満たない身長。だが立派な角が生えている。
アムはユニコーンのような角だったけど、幼女の角は立派な鹿の角だ。
髪は茶色く、お召し物も茶色がベースだ。鹿をリスペクトしているのだろうか。
だけど……悪魔ってのは露出狂らしい。
上半身は胸を隠すだけのバンド、下半身は毛皮のパンツ。
パンツってのはパンツスタイルじゃない。本当にパンツだけなのだ。
そして……目付きが鋭すぎる。怖い。
「ハア、で、なんのようだ?」
「んっとね~、デンが悪魔見たいっていうから」
「ううぇ?」
いきなり話を振られちゃった。フルフルさんは俺を睨みつけた。
「我が名はフュルフュール。汝に問う。我を呼び出した理由は」
「いや……えっと」
「答えろ!!」
フルフルは……いやフルフルさんは肘から雷を放出した。
仁王立ちで腕を組んでいるんだけど、組んだ両肘から放出された雷は刃の形を成した。
えっと、殺されるのかな? 僕。
「えっと……、アムに他の悪魔っているのか聞いたところ、フュ、フュルフュール……さんを呼んでもらったみたいです」
「何ィ?」
「えへへ~」
雷の剣はまず仕舞ってくれた。ちょっとほっとする。
その分、角がビリビリしている。
「そんなことのために我を呼んだのか!?」
「だってぇ~、他に友達いないんだもーん」
アムは膨れている。
フルフルさんはちょっと苦い顔をした。
「それはそうだろうが……。ハァ、もうよいわ」
フルフルさんは雷を全て仕舞った。
「フルフルちゃんは怒りん坊なんだから~♪」
「ナイトシェイドエイプと戦っていたのだ。急に呼び出されたから気が立ってしまった」
なんか怖そうな名前が出た。
「デン。フルフルちゃんはね~強いんだよ~。ビリビリパンチでボッコボコだよ」
「正確には雷と嵐を使う。セルフエンチャントしか出来んので、アム程便利ではないがな」
「えへへ~」
フルフルさんは僕を視る。
「して、お前はなんなのだ?」
「なんだ……と言われましても。あ、デンと申します」
「そうか……してアムのなんなのだ?」
「アムの?」
「契約者だよ~」
契約者か。まあそうっちゃそうだな。何を契約してるのか知らないけど。
「契約……だとぉ?」
「そだよ」
「なぜだ?」
なぜなんだろうね。僕も気になるな。
「ん~~、フィーリング?」
「フィーリングか」
「そ、フィーリング」
フルフルさんは、それなら仕方ないって感じだ。そういうもんなのだろうか。
悪魔の事情はよくわからん。
「あ、あとご飯が美味しいんだよ~」
「ほう?」
ご飯で思い出したけど……仕込みやらなきゃ。てかもうすぐお昼だ、やばいな。
「食べますか?」
「うむ、腹減った」
とりあえずハンバーガーを1つ作って渡す。
「はい、どうぞ」
「かたじけない」
ハンバーガーを受け取り、頬張るフルフルさん。
「うん、美味うまい」
「でしょ~」
「ありがとうございます」
ソースにはこだわってますから。まあそれだけなんだけどさ。
4口ぐらいで食べきってしまった。
「もっと食べる?」
「――うむ」
「は~い」
おかわりを作っていると、お客さんが入ってきた。
タルムン商店の人だ。前回タルムンおじいさんから大量オーダーいただいた時に、馬車で取りに来てくれたお兄さん。
「あ、いらっしゃいませ!」
「どうも~、ってうおお!?」
お兄さんはフルフルさんを見て、驚いている。
「む? なんだ?」
「あ、いえ、その……」
睨まれて委縮するお兄さん。なんか顔が赤い。
まあ角が生えた、露出狂のロリガールが仁王立ちで立っていたら驚くだろう。
「フュルフュールさん、ハンバーガーどうぞ」
「うむ、かたじけない。あとフルフルでいいぞ」
フルフルはハンバーガーを頬張りながら、周囲に目をやる。
「そうか、ここは商店なのだな」
「そだよ」
「ふむ、我は商売の邪魔だな。帰る」
「えーもう帰っちゃうの~?」
「お前の主の迷惑になる。契約しているなら迷惑をかけるな」
「は~い」
常識者だな~。小さいのに。
と思ったらこちらを見た。やばい心を読まれたのかな?
「それでは失礼する。今度はアムと一緒に遊びに来い」
「あ、ありがとうございます」
「うむ」
そしてアムの前に。
「アム、魔力寄越せ」
「ほ~い」
アムが魔力をフルフルさんに渡しているみたいだ。あ、アムの胸元の魔石結晶が色を失った。
「では、また」
「あ」
フルフルさんの体が電気を帯び、全身が雷になった。
そして窓から雷は出て行った。
「バイバ~イ」
行っちゃったな。あ……入り口が少し焦げてる。直さなきゃね。
「あ、あのお~」
タルムン商店のお兄さんが困った顔をしている。やべ忘れてた。
「す、すいません、お騒がせしました!」
「いえいえ……、あ、卵焼きバーガーとBLTをいただけますか」
「ありがとうございます、少々お待ちを!」
僕は急いでバーガーを作る。
「ねえねえ~、タムちゃんは~?」
「ん? ああ、会長は腰痛が酷くて事務所でお休みしてるよ」
「そっかぁ~」
「最近、色々動いていたからね。メッセージボックスのおかげで会長は忙しかったみたいだし。
まあ……社長はあんまりいい顔してなかったけど……おっと、今のは忘れてくれ」
「ふ~~ん、覚えとこっと」
「お、おいおい~」
アムとお兄さんの話を小耳に挟みつついそいそハンバーガーを作る。
フルフルさんが来て後手に回っちゃってるぜ。挽回しないと。
「お待たせしました!」
「お、ありがとう」
お兄さんはバーガーを受け取り、帰ろうとドアの方へ。
お兄さんは思い出したかのように振り返る。
「あ~~、そういえばさっきの……女の子は誰なんだい??」
「フルフルのこと~?」
「フルフル……ちゃんって言うんだね」
「フルフルはいつ来るかわかんないよ~」
「そ、そっか。そうなんだ」
少々残念そうなお兄さん。
「ハンバーガー気に入ったみたいだし、また来るかもね~」
「へ、へえ! そっか! そ、それじゃ!」
お兄さんは嬉しそうに店から出ていった。
後日談だが、彼は店に良く来るようになった。
完全にフルフルさんに会いたいからだろう。一目惚れだろうか。
「ん~、タムちゃん……心配だな~」
「そうだね。おっとお昼の準備しなくっちゃ!」
タルムンおじいさんは心配だったが、まずは店を優先だ。
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