シテン

大木 奈夢

第1話 シテン

 オレの名はシテン。

 おっと。オレ達の世界では、最初に自己紹介をするのはタブーとされている。もちろん例外はあるのだが、場合によっては死刑にも匹敵する極悪な行為なのだ。

 それなのに何故、自己紹介をするのか? 当然の疑問だ。まあ詳しいことは言えないが、極めて稀な例外だと思ってくれ。


 シテンとカタカナで表すと外国人かと思われるかもしれないが、れっきとした日本人だ。日本人なら漢字があるだろうと言われると思ったので、一応『四天』としておこう。完全な当て字だ。


 人の世界では血液型なるものがあって、その人の性格や運勢や相性まで、それで分類できるらしい。

 人というのはそういうことが好きと見え、オレ達の仲間をもそんなふうに分類分けをしてくる。余計なお世話なのだが。


 ここでもう一つ言い訳をしておかなければならない。

 オレ達の世界でタブーとされているのは、最初の自己紹介だけではなかった。最初に長々と説明をすることも裁判員によっては死刑と判断され、それを根拠に裁判官からも同様の判決を下されてしまうことがあったりする。

 取敢えず今回は例外だと思ってもらいたい。頼むから検察官や裁判員や裁判官にチクったりなどしないでくれ。


 人がオレ達の仲間のことをどのように分類しているのか? オレも興味があったので少し調べてみた。


 まずA型だ。こいつは融通の利かない頑固者だ。一人の人間に取り憑いたら何があっても絶対に離れようとしない。

 取り憑くなどと不穏当な表現をしたので悪霊か何かのように思われるかもしれないが、決してそんな悪い存在ではない。

 まあ妖精のようなものとでも言っておこうか。もちろん、そんな可愛いものじゃないという批判は覚悟している。

 この頑固者との付き合いは一見難しそうに思えるが、性格が真っすぐなだけに要領さえわかれば実に気持ち良く交際することが可能だ。


 次はB型。社交的でだれとでも付き合えるタイプ。ただ欠点は人の気持ちを自分流に解釈してしまい、相手の本当の気持ちを斟酌できないのだ。また、過去や未来などという自分の知らないことには一切興味がない。まあ、軽く付き合うには良い相手かも。


 あとAB型というのもある。一応一人の人に取り憑いているのだが、完全にではないので周辺をうろついたりもしてA型ほど頑固ではない。場合によっては憑依する相手を変えたりもする。まあA型に比べれば多少浮気者と言えなくもないが、B型よりはまだましだろうか。


 究極はO型だ。浮気はするする、人の心の中は見放題で、超能力があるのか過去や未来のことも熟知している。その能力でもって神様の如く君臨している。あまりの傲慢さに嫌気をさす人も多いようだ。


 人の世界では他にもRH式のプラス型やマイナス型があり、それ以外の分類の仕方も沢山あるらしいのだが、オレ達の仲間にも前記の分類だけでは分け切れない者が多数いる。


 もともとオレ達の仲間はみんなO型と同じく神のような超能力を持っていたのだが、あまりの力の大きさに恐れをなして各自で自制するようになってしまった。だから自制の仕方やその強さによって性格が分かれてしまったのだ。時々その自制が緩んでいることもあるが、ご愛嬌だと思ってほしい。


 分類について一般論ばかり説明してしまったが『では、お前は何型なのか?』と訊かれると、ちょっと一言では言いにくい。

 実は裁判員の心証があまり良くないのだが、結構破天荒に生きさせてもらっている。

 付き合うのなら真面目なことに越したことはないとは思う。しかし、破天荒にも破天荒なりの魅力というものがあるはずだ。

 人の世界でもそうだが『真面目なのはつまらない。少し破天荒な位の方が良い』という人もいるくらいだから。これを相性というのだろう。


 もっとオレのことを知りたければこの後を読んでくれ。そしてオレの破天荒はこの世界において許されるものなのか、それとも死刑に値するものなのか。


 人の世界では『食わず嫌い』というものがあるという。そして『食わず嫌い』であっても親から怒られる程度ですむと聞く。

 しかし、オレ達の世界における『読まず嫌い』は重罪だ。まあ、死刑とまでは言わないが……。

 とにかく読んでみて『合わない』と思ったら、そこで止めればよい。相性が合わなかったというだけのことだ。


『相性』というのは便利な言葉だ。具体的な理由はわからなくても全て相性のせいにすることができる。

 もし相性が合わず途中で読むのを止めた人がいても、オレはキズつかなくて済む。単に相性が合わなかっただけだと思えるから。


 オレの自己紹介と訳の分からない説明を長々としてきたが、最後に一つだけ忠告しておこう。

 くれぐれも『読まず嫌い』という重罪だけは犯さないように。

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シテン 大木 奈夢 @ooki-nayume

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