仕事からちょうど一週間後。青年は行きつけの喫茶店で、回収人を待っていた。毎月末、律儀に彼女はやってくる。この街の人間にはいろいろ事情があるものだ。彼もその例に漏れない。


 普通より大きくドアベルの音が鳴る。ジーンズにシャツを着て赤のパーカーを羽織ったポニーテールの女がカウンターに軽く手を挙げて挨拶すると、中にいるマスターが青年の座るテーブルに向けて、面倒そうに目配せする。女は遠慮なく青年の向かいに座る。


「いよぅ、運び屋ァ。調子はどうよ?」


「ええ、まあ」


 マスターがクリームソーダを持ってくる。回収人である彼女の分だ。


「今月分です」


「あいよ」


 オマエは楽で助かるわぁと三白眼を細めて、回収人は中身を確かめる。そして満足気にパーカーの内に仕舞う。


「こないだの仕事、上手く行ったみたいで助かったわぁ。やっぱオマエに紹介してよかった」


「それはなにより」


 回収人は、肘をテーブルに突きながらクリームソーダを啜り、マドラーでアイスをつついている。青年はそれを横目に、カップを口に運ぶ。熱くないブラックコーヒーを流し込みながら、窓の外で行き交う人々を見る。


「うっし、サボりおーわり」


「ご苦労様ですね」


「嫌味か?」


 いつものやり取りの後、回収人は席を立ち、律儀に自分の分だけ払って喫茶店を出ていった。


 回収人からの紹介ということは、債権回収に関わる"積荷"であるということだ。それを青年は嫌という程知っている。


 依頼人のあの中年の男が、疲れきった背中をしていたのを、青年は思い出す。


 この街の人間にはいろいろ事情があるものだ。


 青年は、空になったカップを置き、伝票を持って席を立った。

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スマグラーズ・ワーク 魚津野美都 @uo2no32

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