第30話 図書館

 ラスベルたちと別れたリン。ひとり、本を探しに図書館へと向かった。

 資金は少なく、書店などで購入できる本は限られている。無料で貸し出しの上で飲食禁止でありながらも何度でも本を読むことができる図書館へと出向いた。


 途中でリンの指名手配書がいくつか見受けられたのだが、気にすることはなく図書館へと足を進めた。誰かにちょっかい出されても返り討ちにすればいいだけなのだから。


 リンは箒をレンタルして、図書館がある南東の方へ向かった。

 箒を跨って移動するのは昔、母に一度だけ乗せてもらったことがあるのだが、一人で乗ったたことは一度もなかった。


 うまく乗れるのか試す。…少しふらつくがいずれ慣れるものだ。

 飛行する箒に乗り移動する快適さはこの上ない。


 足で移動するというのもあるが、魔力が豊富なリンにとっては慣れない体力運動よりも魔力精神で突き進むのは楽で過ごしやすい。


 図書館に着くころには20分もかからなかった。

 魔力の調子はスマートで体調が崩れた様子もない。


 箒をレンタル預け場に名前を書き込んで渡した。もちろん、偽名だが。

 名前は貸し出すときにおじさんから聞いたのだ。


『訳ありの業者さんも偽名で書き込むっていう話だ。ブラックリストでさえ顔を隠してまでの偽名だ。これも商売だ、お客さんの情報は売れん。だから、どんと偽名でも本名でも書け!』


 と気前よく偽名とレンタル費用も安く済んだ。

 リンが平気でうそのような顔でなにか言い訳をしたのが目に見える。


 そんなこともあり、偽名でレンタル預け場に渡した後、早速図書館へと立ち入った。


 3~5つほどの建物(1つの建物に対して約コンビニほどの広さ)ほどで構成された建造物。鉄筋コンクリートの上にいくつかの魔装障壁(人為的で継続的に張れる魔法の装置のこと)と魔性結界(人為的に複数人で作り上げた巨大な壁。網状に何回も重ねることで強度を増している)によって見た目はアレだが、外部からの攻撃も内部からの攻撃も一切通用しないことを宣伝していた。


 異様な光景だが、リンにとっては面白いもののように感じていた程度だった。

 リンにとっての魔法結界とは自然界にどこまでも隠せるかといった方策のことだ。人為的に作られ明らかに目に見えているものに対しては、挑発しているようで弱者だとあきれ返っているのだ。


 どんな魔導士でもすごい結果を張ってもそれが、見た目は雑で荒いようでは魔導士としての名が廃る。


「全く…どこの田舎者なのでしょうね」


 呟く。


 ため息し、図書館の中を改めて見回した。

 迷路のように何層にも分けて作られた通路と本だな。幾つかに重なり、トリックのように本が開閉する本だな。まるで生きているかのように動く階段。


 動くランプのような生物。おそらく魔法生物なのだろう。

 人の手によって動いている様子ではなく、どのあたりで明るいのか自ら調整しているようだ。これも、この図書館を見て回っている生物なのかもしれない。


「田舎者ですみませんが…」


「…へ」


 ぼうっと浮かび上がる首だけの人間。

 思わずきょとんとする。


「……あれ? あまりリアクションが…」


「まあ、慣れっこなので」


「さいですか」


 杖を振って、消えていた身体が徐々に浮かび上がっていく。魔法で首から下を隠していたのだろう。そんな魔法など幼い子供を驚かす程度の遊びに過ぎない。


「なんのつもりでしょうか」


 いきなり初対面にこう呼ばれるのはどういうことなのだろうか。

 

「…田舎者」


 男はそう口にした。


 リンはハッとして、あの時の言葉が聞かれていたことに気が付いた。

 男は何度も連呼するように「田舎者」とブツブツと言っていた。


「田舎者といって不服なの?」


 男は顔を上げていった。


「あなたからしてみれば田舎でしょう。でも、ここでは最新技術なのです。現に、この装置が完成したのは1年前です。それに、いままでこの結界を壊されたことはありません…」


「まあ、壊すほど惨めにはなりたくないわね」


 皮肉な発言だ。


「…ですから、あなたの意見を述べているのではないのです。わたしとして、この装置のすごさを賛否してほしいのです」


 男は両手を背伸びするかのように伸ばしながら力強く言った。


「古いわ」


「古いって…」


「あなたの技術が最新でも私にとっては古いの…それに、ここではっきりと言っていいでしょうか?」


 男は両手を組み、言えるなら言ってみろよと態度をとった。


「まず、荒い。見た目からしてダサいうえ、雑魚が作ったと分かりやすいものよ。魔導士ならもっと、きれいに自然界に溶け込むように作るべきよ。それに、装置で稼働するなんて古いものよ。永続的に発動できる魔法を開発してみてはいかがでしょうか?」


 永続的に発動できる方法。ラスベルと出会う前から知っていた魔法のひとつ。呪本から知った智識なのだが、まさかここで使うことができるとは思いもしなかった。


 しかし、この発言に対して男は涙声で震えていた。


「……そんなこと…知っているよ。同僚や先輩からも後輩からも言われたよ。けどよ、俺だって必死なんだよ!!」


 涙を浮かべながら必死にアピールする男。一人称が「わたし」から「俺」に変わっている。


「……だけどよ、俺の魔力と正確さには限界があるんだよ!」


 確かに、男から発する魔力は平均の魔導士と比べると魔力が劣っている。それに、魔力の流れが荒い。これでは、いくら技術を学んでも魔法としてうまく正確に固めることはできない。


 リンはため息を吐き、男にこういった。


「……私が正確に直します。それと、あなたに助言として、一部の魔法の伝書と操作性(コントロール)を教えます」


「…いいのか? あ、でも子供に教えてもらうのも…」


 男はためらっている。


「いいのですよ。それに、私は子供でありません。こう見えても40代なのですよ」


 男が固まっている。嘘だろうという。まあ、仕方がない呪いによって年齢も幼いままだ。身体も成長していない。けど、魔力と正確さ・操作性など人並み以上にある。


 あのアストロンも認めたほどだ。


「あなたがいいのでしたら、ぜひお願いします」


 男は礼をした。

 リンはこちらもよろしくねと笑顔を送った。


++


 自己紹介して、男の名はセイム。現図書館の代理で魔法結界を発動している人物だ。この不甲斐ないセイムにリンは厳しく、魔法の使い方を身体に教え込んでいく。


 もちろん、無料ではない。

 その分、図書館にある魔法と歴史に関する本を貸出OKにしてもらう約束もしておいた。

 

 リンにとって幼い体は武器であり騙しの手なのだと直に身に染みる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法収集冒険 にぃつな @Mdrac_Crou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ