感想(最終更新順)

 前回同様、感想を書くにあたり「いち読者としての感想」と「企画主催者としての感想」の二段構成となっております。

 「いち読者としての感想」は☆レビュー文の内容と似たものになってしまうかも。


※感想には多くのネタバレが含まれる為、まだ作品を読んでいないという方は一度目を通して頂けるととても嬉しく思います。


 ◇


脱出ゲームは思いやり / 達海ゆう さん

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884302915


 リアル脱出ゲームという舞台は、緊張感が生々しく伝わってきてとても良いですね。私、やった事ないんですけど一度は体験してみたい。

 しかししかし、タイトルにもある通りペアでの行動に大切なのは「思いやり」。その時の行動によって脱出ゲームを終えた後の関係がギクシャクするなら……。うむむ。

 この作品は「裏切りの心情」が肝だと思うのですが、なかなかにリアリティのある描写で楽しませて頂きました。現実では勘弁して欲しいですが、文学としては「裏切り」ってのは非常に魅力的な題材ですね。


 お題ととてもマッチした内容になっていて構成、オチ共に上手い!

 主催者としては難しいお題かなあと少し不安だったんですが、スルリと処理されちゃいましたね。お見事!


 ◇


知らない街で見かけた空き地での奇妙な寸劇 / かたち さん

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884305850


 有名なキャラクターを彷彿とさせる人物達が登場しますが、主人公はそれとは関係ない、たまたま通りかかった男。その発想が既に面白いですね。

 語り口調も独特で、少しレトロちっくな雰囲気があってとても好み。

 空き地にあるピンクの扉。それをめぐって繰り広げられる少年たちの会話はコメディなのかなんなのか、フフフと読み進める一方で、少年の頑なともいえる行動になにかしら感じるものがありました。作中でも男が語っていますが、一人の人間の大切な瞬間ってものを感じて、なんだかほっこりしました。


 お題からパッと連想するのは、大体が閉鎖された空間なのですが、この作品は広い空き地にポンと扉があるだけ。その発想が素晴らしいですね。決まったお題でも人によってここまで状況を広げる事ができるのか、と感動さえしました。

 こういった可能性を見ると、ああ、企画やって良かったなあと素直に思います。


 ◇

 

ドンドンドン / 新吉 さん

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884306221


 少女のわがままに付き合う父親。っと字面的にはなんとも微笑ましい光景なのですが、実際お父さんの立場にたってみるとかなーりシンドイですねえ笑。

 ラストに浮気と勘違いされているのもなんとも哀しい!

 お母さんにお疲れ様と言ってもらうことでなんとか救われる気分かな?


 お題の使い方が斬新でとても面白かったです。まさかまさか太鼓の音に例えるとは!

 私もアパート住みだった事があるんですが、玄関で大きな音を出すとすーぐ周りの住人が何事と顔を出してきて噂になっちゃうんですよね。なんだか昔を思い出してしんみり。


 ◇


高天原中学オカルト部 リューダちゃんは吸血鬼なの? / フジムラ さん

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884309958


 天然系少女と巻き込まれ系主人公(というのかな?)がとてもいい味を出しています。ののかちゃんかわいい。

 オカルト部というタイトルに恥じない、ただのコメディでは終わらない吸血鬼への造詣の深さが作品の完成度を高めていますね。是非とも続きが読みたくなる上質な仕上がりでした。


 第一回の自主企画に登場したオカルト部の第二幕ということで前作を読んだ人はニヤリ。続きを見たかった私としても非常に嬉しいお話でした。

 それにしても作者さんのオカルト系(今回は吸血鬼)に対しての知識の深さは尊敬に値します。お題回収、キャラ、構成、どれも素敵でした。


 ◇


怪盗A / 白猫レオ さん

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884305305


 怪盗モノは大好物です。アルセーヌ・ルパン。怪人二十面相。どうしてこんなに魅力的なんでしょうねえ。本作の怪盗は美しい女性。アトリエに忍び込んだ彼女が盗むものとは?

 クリスマスという時間設定や構成がとても洒落ていて、文体も綺麗なのでなんとも心地良いです。怪盗にしてやられる刑事さんも登場して、定石ではあるのですがそれが逆に魅力。ラストの謎めいた感じも良いですね。


 お題を綺麗に回収されたなあ、という感動。実に上手い。「残り三十分」という台詞をどう使うか、これが中々難しいのかなあ、と思っていたのですが本作は犯行予告時間という形で鮮やかに回収。私もこんな文章が書きたいなあと羨むばかりです。

 うむむ。お見事。


 ◇


マカダミア婦人の檻 賽子 / kinomi さん

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884333863


 マカダミア婦人という登場人物。これは作者kinomiさんの過去作にも登場するなんともユニークなご婦人なので、過去作を読んだ私はニヤリ。

 サイコロの中。各所に散りばめられたSF設定。そして外と内側に閉じ込められた登場人物の会話劇。どれも独特の雰囲気を醸し出していますね。それが良い!

 かわいらしいオチがまた登場人物の魅力を引き上げていて素敵です。


 主催者としては、企画の枠を超えて登場人物に繋がりを持たせて頂くってのはなんとも嬉しい事です。作者さんの作品群の一部に取り入れてもらえるのだなあ、という感じ。

 応援コメントにて「お題の3つ目の要素を入れられていない」とありますが、そんな事は気にならない!

 とても面白い作品でした。


 ◇


私の都合 / 近藤近道 さん

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884343067


 夢の中の出来事のような世界観。応援コメントの方でも述べたのですが、一つ一つの要素を取り出してみると喜劇のような可笑しさがあるのに全体を俯瞰してみるとなんだか切なさにも似た感情が湧き上がってくる不思議なお話でした。

 文体の雰囲気がとても私好みでいわゆる「作家買い(作品を気に入ってその作者の作品を網羅したくなる)」に値する作品。


 この作者さんは近況ノートにて企画作品の振り返りもしているのですが、その試みも面白いですよね。今回のお題からどういった思考の元で作品が生まれていくのか、その過程を見るというのもかなり刺激的でした。

 文体の端々にセンスが滲み出ていて、これからも応援したいなあ、と思わずにはいられない印象です。


 ◇


救出ゲーム / 山本正純 さん

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884307579


 暗号編と回答編の二話構成。ウンウン唸って考えましたがあと一歩のところで回答に届かず! 

 うー悔しい。

 ネタバレを避ける為に敢えてトリックは書きませんが、とても上質な謎と意外な結末で楽しく拝見することが出来ました。トリックを考えそれを文章にするってのは、なかなか難しいお仕事なのでそれだけでも尊敬に値します。


 まさかまさかお題を使ったミステリを読めるとは!

 元来ミステリ好きの私としては本当に嬉しかったです。謎や話の構成も巧みで感動半分、羨ましさ半分。私もこんなの書きたい!


 ◇


保温ポッド / だくさん さん

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884390490


 序盤から淡々と語られるのか思いきやまさかの展開にビックリ。続きが気になる、続きが気になると読み進める目が止まらなかったです。

 そして中盤に出てくるイワオという名前でニンマリ(第一回の企画作品に出てきた登場人物)。

 ただ友人に保温ポッドを勧める話。なのに読後には一つの冒険を終えた後に人心地ついたような爽快感が残っていました。


 前回の企画作品と繋がりを作るというニクイ演出に嬉しさがこみ上げてきます。

 あれ、あれ、あれと非常識な状況が続いてグニャリグニャリと徐々に大きく状況が展開していく。まさに夢の中という感じがして面白かったです。


 ◇


あのね、これから / 新吉 さん

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884416047


 詩的な表現で語られる一幕。短いですがその中に色々なドラマが隠されていて味わい深いですね。猫視点というのも面白い。

 最後の「ちりりん」がとても印象的。ふっと温かい風が通り過ぎたような読後感でした。


 企画参加二作目ということで、大変嬉しく思いました。お題にある「扉の様子を伺う女」というのを、メス猫で例えるという発想の飛躍も良いですね。感動しました。

 タイトルの「あのね、これから」という語感も、読み終えた後はちょっと違う印象を感じ取れて素敵でした。


 ◇


この余白では広すぎる / 長月マシ さん

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884308117


 良質なミステリ。その高い完成度に「これは……うわあ、すごいなあ」と舌を巻きました。お題の使い方、ウィットな会話劇、構成、どれもお見事としか言えません。

 いわば空論から展開される推理ではあるのですが、二人の会話によって適度な緊張が生まれていて、私がミステリを書く時には是非ともお手本にしたい。素直にそう思わされました。


 羨ましいぐらいの筆力。そしてお題をこういう風に使ってくるとは!

 完全に想像の外だったのでいやはやお見事としか言えないですね。前回の企画の時もそうだったのですが、こういった発想の仕方を見ると、ああ、企画開催して良かったと喜びが溢れてきます。


 ◇

 

ドン! ドドンドドン! パカッ! パカッ! / カワサキ シユウ さん

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884456278


 面白い!

 しっかりとした文体で語られる様子と、頭に浮かぶ「扉をドンドンパカパカしている情景」のチグハグさが絶妙で思わず笑みが溢れてしまいました。

 応援コメントにも書きましたが、この作品にはシュールという言葉では計れない芸術性すら感じました笑。


 企画をやっていて思うのは「ひとつのお題からどれだけの可能性が生まれるのだろう」という事。この作品は飛び抜けて私の予想を裏切ってきていて、ある種の爽快感すら感じ取れました。いやあ面白い。皆に是非読んで頂きたいドン。


 ◇


終の檻 (短編集「短篇に短し掌篇に長し」内) / 陽月 さん

https://kakuyomu.jp/works/1177354054882252611


 応援コメントと同じ内容になってしまうのですが(手抜きとかではなく、読んだ瞬間に先走って思いの丈を全てぶつけてしまったのです)。

 まず、タイトルが良いですよね。「終の檻(ついのおり)」私のツボにビシっとハマっちゃいました。

 そして書き出し。

「社会は疲れ切っていた」という一文だけなのに、現代を生きる私たちはこの一文から色々想像できてしまう。先に続く展開への「読む姿勢」が出来上がってしまう。小説の入りとしては理想の一文とも言えるんじゃないでしょうか。

 さらに内容も良かった。

 荒唐無稽な展開というわけではなく少し考えさせられる話になっていて、自主企画云々を抜きにしても評価したくなる内容でした。


 企画に沿った作品というのは、企画を終えると魅力を無くしてしまうものなのだろうか。いやいやそうではなく、企画云々を抜きにしても面白いものは面白いのだ、と改めて感じさせられた作品でした。


 ◇


届かない懇願 (掌編集「カレット」内) / 水円 岳 さん

https://kakuyomu.jp/works/1177354054883949890


 扉の内側にいる女へと呼びかける男という構図に、演劇という設定と「天岩戸」を絡める辺りに、作者さんの見事な技量を感じ取れます。捻りに捻った感じ。好きだなあ。内容にも捻りが効いていて、「実は男は俳優ではなく観客」「アナウンスにがっくりした男は実際には心底喜んでいる」ってのも面白い。

 マゾヒズムってのはかなり考察の余地があって興味が湧きました(文学的にね!)。


 多数の作品を書いている作者さんだけあって、「お題で遊ぶ」余裕すら感じ取れました。私もはやくこの境地に立ちたいなあ、と羨むばかり。

 発想の転換、構成の妙、素晴らしくてとても参考になります。


 ◇


 以上、14作品の感想を書かせて頂きました。(漏れがあったら本当に申し訳ない!)今回もレベルが高くて、この後「おまけ」と称して私もお題に沿った作品を投稿する予定ではあるのですがかなり自信が無い!

 兎にも角にも、企画参加、本当にありがとうございました。


 続いて、良いなあと思った作品の発表です。

 

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