第6話 二人

「は?」


「だから、見てたんだよ。お前が飛び降りようとするところ。」


あまりに唐突でびっくりした。まさか人に見られていたなんて、思いもしなかった。

私が自殺に選んだ場所は影が多くて、建物の裏に隠れられたら。いや、隠れたりしていなくても周りが見渡しにくい場所なのだ。だからこそ誰にも見つかるまいと思ってあそこにしたのに、完全に裏目に出た。

仕方ない。できれば早々に話を終わらせてしまいたい。ここで「大丈夫?僕でよければ、話聞くよ。」なんて言われて、あいつに自己満足に付き合うなんてもってのほかだ。


「あのね。できれば他の人に言わないでほしいの。一応事故ってことにしようと思ってるから。」

「あっそ。悪かったな。邪魔して。」

「悪かったと思ってるのになんで邪魔したのよ。」

「お前に話す義理はない。」


そういって椅子に腰かけようとする桐ケ谷の顔は、やけに大人びて見えて少しむかついた。だいたい「お前に話す義理はない。」なんてかっこつけやがって。

なんなんだこいつ。何でここに来たんだよ。


「お前だって、なんで自殺なんかしようと思ったんだよ。」

「はあ?自分は人の自殺邪魔した理由言わないくせして、自殺の原因を知ろうなんて、おこがましいんじゃないの。」

ほら、やっぱりこいつだってそうじゃん。人が自殺した理由とか聞いて慰めて、優越感に浸りたいだけなんじゃない。


「お前が教えてくれるんなら、俺も教えたってかまわない。」

「あんたが知ったってメリットはないでしょう?」

「ある。…かもしれない。でもこれだけは信じてくれ。お前が嫌になるようなことにはならない。話を聞かせてくれるだけでいいんだ。」


いきなり何を言い出すんだこいつ。って思ったけど、その目はあまりにも真剣で、少し怖いくらいだった。学校で見る桐ケ谷じゃない。なんていうか殺気みたいなものがあって、少しやつれている感じがした。


「俺はさ、人が死ぬとこ、見てみたいんだ。」








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