第5話桐ケ谷
ドアが閉まる。お母さんがいなくなってよかった。ようやく落ち着ける。一人でほっとしていたのもつかの間。何やら足音が聞こえてくる。誰だろう。設立50年だか何だか知らないけど、床はきしむし、ドアは薄いから人が近づいてきたのはすぐにわかった。
来るな…と思っていたが、ガラガラという音がして、ドアが開いた。
私と同じ学校の制服を着た男子が顔を出す。
170センチくらいの高身長のくせして、体重私と変わらないんじゃないかと思わせるほどがりがりにやせ細った体。
そこにいたのは桐ケ谷だった。
いつもどうりの制服姿で、どこか感情のなさそうな顔でこちらを見つめている。
なんで来たんだろう。こいつ。
…そうか。感謝されたくて来たのか。私に、「助けてくれて、ありがとう」って言ってほしかったのかな。こんな人のすることに毛ほどの興味のなさそうな奴でも、やっぱり人に感謝されたいって気持ちはあるのかな?いやいや、単にお見舞いかもしれない。普通、自分が助けてあげた人がどうなったのか気になるものだろう。
一応お礼でも言っておくか。
「あの、ありがとう。桐ケ谷君。その…助けてくれて。」
頭を下げる私。それを見ても何も変わらない表情。
数秒間沈黙が流れる。
…なんか言えよ。気まずくなった私を上から見下ろしている。
「お前さ、思ってないだろ。ありがとう。なんて」
「は?」
あまりにも想定外の反応に、間の抜けた返事になってしまった。
「お前さ、自殺しようとしてたんだろ。」
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