第4話 母
(そうだ、誤って、川に転落したことにしよう。)
「えっとね、お母さん、私、川に髪飾りを落としてしまったの。だからそれを取ろうと思ったんだけど・・・。そしたら間違えて落ちちゃって。」
作り笑いをしながら言う。我ながらいい言い訳だと思う。これなら自殺ではなく、事故にできるだろう。
「そうなの・・・。じゃあ、何かいやなことがあったわけではないのね?」
「うん。ただの事故だから。」
そういうとお母さんは心底安心したように、また大粒の涙を流し始めた。布団にシーツにぼたぼた落ちる透明な液体。私が寝るとこなのに、汚くなるからやめてほしい。
というか、私の自殺未遂の原因は、お母さんにもあるというのに、暢気なものだ。
それより、私はどうして死んでいないのだろうか。
私は、ハッとした。今はシーツより、だれが私の邪魔をしやがったのかが問題だ。
「お母さん、誰が私を助けてくれたの?」
なるべく柔らかい物腰で言った。
「柚のクラスの、桐ケ谷君がね、おぼれている人がいるって、救急車を呼んでくれたのよ。」
それを聞いた途端、私は一瞬ぽかんとした。桐ケ谷・・・なんだっけ?下の名前。いつもクラスの中心の須田のグループでつるんでて、周りの男子と一緒にいるイメージしかない。桐ケ谷とは一言もしゃべったことはないけれど、いつもクラスの可愛い女子ランキングとかなんとか作ってる須田とは、同じグループにいながらなんか雰囲気が違って、この世の全てを達観したかのようなあの感じは、正直あまり好きではなかった。
しかし、そんな奴が私を助けたのだと思うと、どうしてそんなことをしたのか気になる・・・。
まあ、それはそうか。だって、川でおぼれている人を見かけて、助けないほうがどうかしてるし。それにしても、そんな奴にこれから「助けてくれてありがとう。」なんてお礼を言わなくてはいけないのかと思うと、気分が沈む。
「そうだわ。柚が目を覚ましたこと、お父さんに伝えないと。それじゃあ、行くわね。」
そう言ってお母さんは病室を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます