第3話

黄色く光る蛍光灯に、肌色がかっている天井。私にかかっているのは真っ白のフカフカの毛布。

ここは、病院だ。


私が目を覚ますと、大きな窓の隣にお母さんがいた。私を見つめている。

「おかあ・・さん?」

お母さんは驚いて、

「大丈夫!? 柚!目が覚めたの!? 」


お母さんの目に透明な涙が浮かんでいて、ずっと泣いていたのか、服には、たくさんの涙の跡があった。今気づいたけれど、お母さんは、ずっと私の手を握ってくれていたようだった。私を見つめていたお母さんはハッとして、


「すぐ、お医者さんを呼んできてあげるからね!」

と言って行ってしまった。お母さんもいるし、ここ、病院だし。


私、死ねなかったんだな・・・。 


ていうか、なんで死ねなかったんだろう。確かに私は、川の中に落ちた。決して流れ

が速い川ってわけじゃなかったけれど、私一人を飲み込むには十分な広さで、だんだん体温が奪われていく感触を、私は今でも覚えている。そしてだんだん意識が遠のいていった。

そんでもって、気づいたら病院の個室にいた。


(誰かに助けられたってこと・・・?)

だとしたら誰なんだろう?私の自殺を邪魔してくれた野郎は。そんなことを考えていると、だんだん足音が聞こえてきた。


「葵さん!?」

ちなみに私の苗字は、葵だ。

若い白衣を着た医者がやってきた。いったん考えるのをやめ、医者に聴診器をあてられたり、記憶に障害がないかなどを調べられた。


「異常はありません。お話されても大丈夫ですよ。」

男性らしい低めの声で、お母さんに言った。医者は不愛想な顔で、

「じゃ、僕はこれで。」

と言って病室を出て行ってしまった。


まずい。

と思ったがもう遅かった。お母さんは大粒の涙を流して、

「どうしたの?なんでこんなことになったの?どうして自殺なんて・・・?何があったの?どうして相談してくれなかったの?ねえ?どうして・・・」

こんなにいっきに質問されても、答えられない。

「ええっと、なんかごめんね?」

(そうだ、自殺しようとしたこと、どうやって言い訳しよう・・・?)

私が考えていると、お母さんは、おもむろにバッグの中にあるハンカチを取り出した。


ずううううううううううう


豪快に鼻をかんでいる。ああ・・・。もったいない。そのハンカチは、私がお母さんの誕生日に買ってあげたものだ。ブランド物で、お小遣い月千円の私にとって、三千円のハンカチは、決して安いものではなかったというのに。








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