新たな王と懐かしの友



 クローバー国の事件後、ヨツバは王の座を退きクローバー国の田舎で隠居生活を余儀なくされた。

 ライゾーとスノーは次期皇帝の戴冠式を目の前にして帰国しなくてはならなくなった。二人は空飛ぶ船サファイア・シップの近くまでフリージアに馬車で送って貰ったのだ。



「お世話になりましたフリージアさん」


「いえ、ライゾー様にもスノードロップ様にも大変ご迷惑をお掛けしまして・・・」


「その話し方、もうやめたらどうだ?」



 突然ライゾーがそう言い放った。茶色い瞳を大きく見開いたフリージアは徐に吹き出し急に笑い出した。



「いやぁやっぱり、変だったか?ライゾー!」



 先程までの丁寧な口調とは打って変わって最近の若者のような砕けた喋り方をし出したフリージアにスノードロップは動揺を隠せなかった。

 フリージアは慣れ慣れしくライゾーの肩に手を掛けたが、ライゾーは対して驚いた様子もなく、それを受け入れていた



「えっえっ?!も、もしかしてお知り合いですか?!」


「そうだ」


「そっ!俺と此奴は親友なんだ!あともう一人親友がいるんだけど・・・まぁ彼奴の事はいいか」



 フリージアの急な態度の代わり様に少し驚きながらも、スノーはフリージアの本当の姿に慣れようとした。クローバー城では礼儀正しく、忠誠を誓った立派な騎士な振る舞いをしていたから少し動揺していた。



「俺とライゾーともう一人の親友3人は、ガラス細工の修行をしてた時からの知り合いでさ、師匠がライゾーの爺様だったんだぜ?」


「修行仲間だったんですね・・・納得です」



 愛嬌の良い笑みを浮かべながらフリージアは、経緯をスノーに説明していた。その説明を受けて、納得したように首を頷けたがすぐ疑問が生まれた



「でも如何してフリージアさんは、騎士を?ガラス細工の修行してたんじゃ・・・」


「したはしたんだけど・・・」



 その質問はあまり良い質問ではなかったらしく、先程までの笑みは消え引くついた笑みに変わって言いにくそうにしていた。

 ライゾーはそんなフリージアにも気にも留めず、如何してフリージアがガラス職人にならなかったのかを教えた



「此奴は恐ろしく不器用でな、力加減がド下手くそだったんだ。だから騎士に転職したんだ」


「お、恐ろしく不器用・・・」


「グラスは割るわ、同じことが同時に出来ないから、片方が成功しても片方が失敗してグチャグチャになるんだ」



 ライゾーの説明を聞いて幼き日のフリージアが失敗する姿が目に浮かんだ。恥ずかしい過去を暴露され、フリージアは顔を真っ赤にして怒り出した。

 しかしライゾーはまったく気にも留めずスルーを決め込んだ。それに対してフリージアは諦めたような笑みを浮かべた



「そう言えば牡丹は、元気にしているのか?」


「牡丹・・・?」


「さっき言ってたもう一人修行してた奴の名前だよ。今は故郷の睡蓮共和国の風鈴を創ってると風の噂で聞いた」



 牡丹、という名の人物が話に上がりスノーは首を傾げた。フリージアはにこやかに牡丹と言う人物が誰なのか説明した

 そう言えばチラホラ、ライゾーとフリージア以外にもう一人修行していた修行仲間がいるという話が上がっていた。それを思い出すと、どんな人だったのか少しだけ気になった。

 スノーは、好奇心に負けたのか頬を高揚させフリージアとライゾーに問いかけた



「その牡丹さんってどんな人だったんですか?」


「そうだねー・・・器用な奴だったかな」


「あぁ、生きるのも物を創るのも何でも器用に熟せて、いっつもヘラヘラ笑ってる奴だった」



 ライゾーとフリージアは顎に手をやり、しばし考えた後牡丹という名の人物に対いて説明した。

 スノーはその説明に納得行きそうで行かなさそうな顔をして、思わず苦笑を漏らしてしまった。しばらく苦笑していた、サファイア・シップから腹の底にまで響き渡るような、重い鐘の音が鳴り響いた。



「そろそろ時間のようだな」


「お別れか・・・達者でなライゾー。それからライゾーの事宜しくなスノー嬢。戴冠式は3週間後、ラジオでも放送されるはずだから聞いてくれたらアイリス皇女様もお喜びになる。あと次逢った時はアイリス様じゃなくて、友としてって呼んで欲しいって言ってたぜ」


「・・・・勿論!でも、新しい王様ですか・・・ムクゲ皇太子様か、サザンカ皇太子様のどちらかが王になられるんでしょう?」


「・・・男とは限らないがな」



 ライゾーは小さく呟くと、荷物であるトランクを持ち上げると足早にサファイア・シップに乗り込んでしまった。

 スノーは慌てて手に持っていた帽子を被ると、フリージアに一礼し小走りでライゾーの元へ走って行った。

 フリージアは相変わらずのライゾーを見て、笑うと小走りでライゾーを追いかけるスノーに対してにこやかに手を振った。



「転ぶなよー!・・・・・新たな主人はクローバーのプリンスかプリンセスか・・・楽しみだ」



 フリージアが人知れず微笑むと、空中へ浮かんでいくサファイア・シップを見つめ進み出すまで見送ると、暖かな日差しに見守られながら止めてある馬車へ向かった。






 ライゾー達はクローバー国からブバルディア王国のクレマチスへ戻ってきていた。しばらくCLOSEとされていたトゥルーガラスは久しぶりのオープンだった。



「ライゾーさん!今日、クローバー国の新しい王が発表される日ですよ!一緒に聞きましょう!」



 店番をしていたスノーはアンティーク調のラジオを引っ張り出して持ってくると、工房で仕事をしていたライゾーの元へやってきた。

 ライゾーは面倒くさそうな顔をすると、設計する為に持っていたペンを机に置き近づきはしなかったが、耳を傾けていた


 スノーはラジオを起動させると、しばらくノイズが走ったが電波が通じたのかノイズと共に人の声が聞こえ、数秒もするとはっきりとレポーターである男性の声が聞こえた。



『ただいま私はクローバー国の戴冠式に来ています!国の人々は所々に緑色の装飾品を付けていますね。国民の皆さんは発表される広場で固唾飲み込みながら見守っています・・・出て来ました!あれは、クローバー国第二皇太子ムクゲ・グリース様です!ムクゲ様が出てくるという事は、ムクゲ様は王ではないという事でしょうか』



 中継をしている男性リポーターの声がラジオから聞こえた。ムクゲ・グリース。実の父親に向かった毒針を投げつけた紳士な皇太子。

 スノーも固唾を飲み込んで聞き逃さない様に耳を研ぎ澄ませた。次期国王候補はアイリスかサザンカの二人に絞られた。

 しばらく静かになり、マイクで声を大きくしたムクゲの声がラジオを通して聞こえてきた



『―これより、新たな王を発表します・・・13代目皇帝は・・・アイリス・グリース!』



 その瞬間ラジオからは大きな歓声が聞こえた。スノーも感激のあまり手を強く握りしめた。

 スノーはまさかアイリスだとは思っていなかった。第一皇太子であるサザンカになると心の何処かで思っている所があった。するとラジオからまた別の声が聞こえてきた。



『―国民の皆様。13代目皇帝アイリス・グリースです・・・この度12代目皇帝であるヨツバに代わり、私が王の座に座ることになりました。まだまだ未熟で弱い私ですが、国民の皆様に此処は幸福の国だと胸を張って頂けるように、精進してまいります』



 ソプラノの可愛らしくも凛々しくもある声でラジオから聞こえた。すると再びリポーターである男性の声がラジオから聞こえた。



『これよりアイリス女王に、王冠が授与されます・・・側近であるフリージア・アクトリズムさんが手にしているのは・・・素晴らしい!ティアラ!ティアラです!ティアラには、クローバーにアイリス女王の由来となっているアイリスの花が彩られている美しいステンドグラスを用いたティアラです!』



 リポーターの男性は興奮したようにティアラについて熱弁していた。 

 スノーはそのガラスで創られたティアラという事に気づいたのか、ライゾーの方へ目線を向けた。しかし当の本人であるライゾーは違う方向を向いていて顔が見えない。


 しかしスノーは確信していた。あのティアラを創ったのはライゾーだという事に。帰ってから3週間夜に工房の方を見ると、夜遅くまで電気が付いている事が多々あった。

 あれはティアラを制作しているライゾーだったのだ。心の中で―素直じゃないですね・・・と悪態づきながら微笑んだ。



「また会いたいですね、ライゾーさん」


「・・・・・・俺は御免だな。二度としたくない」


「でも結局、特集品作っちゃってるじゃないですか。それにしても、よくヨツバ王を失脚させようと企んでる事分かりましたね」



 スノーは不思議そうな顔をしながら、ラジオを止めると近くに合った木で出来た椅子に腰を掛けた。

 ライゾーは再びペンを握り、ガラス細工の次の案を考えそれを髪の纏めだした



「・・・手紙と写真」


「手紙?写真?何の手紙と写真ですか?」


「始め依頼に来た兵士・・・帽子を被ってて気づかなかっただろうが、あれはフリージアだった」


「えぇぇ?!あれ、フリージアさんだったんですか?!」


「あぁ。恐らく手紙を書いたのはヨツバ王で封をしたのもヨツバ王。だから、封を切る事が出来なかった。そして彼奴は俺達に女神ハピネスの写真を見せたとき、裏側に『ジニア』と書いた」


「ジニア・・・?」



 ライゾーは行き成り立ち上がると、近くの棚に引き出しを開け一枚の写真をスノーに見せた。その写真には女神ハピネスの肖像画の写真だった。

 スノーはその裏側を見てみると、確かに小さく『ジニア』と書かれていた



「ジニアって何なんですか?」


「花だ。花言葉は、不在の友を思う・・・それと注意を怠るな。それを見て何か困っていると感じただけだ」


「・・・ライゾーさん。探偵に転職しませんか?」


「するか馬鹿」



 かなり大変な事になってしまったクローバー国への出張。新たな友であるアイリスとフリージア。

 彼らと出会った事は、ライゾーが一体どんな出自をしているのか分かる重要な鍵になるかもしれない。

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ライゾーさんは容赦がない! 蓬ココロ @kokoro0402

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