判決の時間、断罪される罪
世紀の脱出が成功した頃、王の間には一人の少女とその少女を見下ろす一人の王がいた。少女は白いベールで髪の毛を隠しているアイリスだった。
見下ろしていたのはアイリスの父ヨツバ王。しかしそのヨツバ王の瞳はスノーたちに見せたあの優しい光はまったくなかった。
「お父様!お願いします・・・お兄様たちを解放してください!」
「何を馬鹿な事を・・・私はお前の父ではない。皇女というのは唯の肩書に過ぎない・・・なのにお前は何時まで皇女気取りでいるつもりだ」
「やはり、私の事を娘とは思っていないのですね?」
「いるわけなかろう・・・あのバカ息子二人がこの事を喋らなければ幸せだった物を、実に憐れだな」
「―――憐れなのは貴様だろう」
王の間に一人の男性の声が響いた。ヨツバは驚いき目を見開くと其処には工房に居たはずのライゾーの姿があった。
ライゾーは王の間の扉に寄りかかりながらヨツバを睨んでいた。すべて聞かれていたのだ。
ヨツバは若干の冷や汗は掻いたが、先程までの驚いた表情を戻すと苦笑を漏らしながらライゾーに言葉を紡いだ。
「ラ、ライゾー殿・・・盗み聞きとは」
「盗み聞きについて俺は謝るつもりはない。しかし、ヨツバ王。お前がそんな奴だとは思わなかったな・・・」
「ライゾー様・・・」
アイリスは小さく言葉を漏らすと、俯きながら壁の方へ寄って行きライゾーの進む道を創った。
ライゾーは呆れたような目をしながら、ゆっくりとしかし何処か殺気を醸し出しながら歩いてヨツバの元へ近づいた。
「この国の民が聞いたらどう思うだろうな・・・幸せの国である王が実の息子である2人を監禁。そしてアイリス皇女に実の娘ではなく、養女で実は雑に扱っているなんて・・・」
「ッ・・・ライゾー殿何を勘違いされているのかは知らないが、証拠がないだろう?例え民の前で告発しても誰の聞き入れはしない」
「俺はな・・・俺じゃなくてアイリス皇女自身が公言すれば少しは信じるんじゃないか?」
ヨツバに初めて困惑が浮かび瞳が揺れた。下唇を噛み締め厳しい瞳でアイリスを睨みつけた。
その鋭い瞳にアイリスは咄嗟に俯き瞳を合わせない様にしてしまった。ライゾーはさらに追い打ちをかけた
「それに他にもお前を陥れる話がある」
「な、何?!」
「・・・女神ハピネスの肖像画を引き裂いたのは貴様だろう」
「何、を言い出すかと思えば・・・証拠がないだろう!それに私は一切あの塔には入っていない!」
「入っていないという証拠もないだろう」
ライゾーの反論にグッと押し黙ってしまったヨツバだが、次第に余裕を取り戻したような笑みを浮かべながらライゾーの見た。
「ライゾー殿、確かに私は実の息子を幽閉しアイリスは養女だ。それは認めよう・・しかし入ったという証拠も入ってないと言う証拠もない私より、入ったと言う証拠のあるライゾー殿の方が怪しいのは事実だ!私が、肖像画を引き裂いたと言うのは空想だ」
肩で息をしながらライゾーを指さしながら反論した。ライゾーは少し考える素振りを見せた。
左手を顎の近くに寄せしばらく考えていると冷静な瞳でヨツバを見据えた。
「証拠があれば、お前は認めるんだな?」
「あればの話だがな」
「・・・お父様は、肖像画を引き裂きましたわ」
今まで黙っていたアイリスが喋り、その申告が王の間に木霊した。ヨツバは唖然としていたが急に笑い出した。
「あはははは!!馬鹿をいうなアイリス!お前は花園に居たはずだろう!分かるはずもない!出鱈目を言うな!」
「なんでお前、ハピネスの肖像画が引き裂かれた時間を知っている?知っていなければ花園にいたなんて言わないだろう」
墓穴を掘った。ヨツバの余裕の笑いは収まり顔色はどんどん青白く変わっていた。しかし、アイリスは言葉を繋いだ
「確かに私は、スノーと共に花園に居ましたわ」
「ほ、ほら見ろ!今のはアイリスの言った嘘であり先程言っていたのはメイドが朝からアイリスは花園に居ると聞いていたからであって」
「しかし!!!」
ヨツバによる見苦しい言い訳を、アイリスは大きな声で中断させた。アイリスは肩で息をしながらヨツバを見つめた
「それを見た者がいるんです!」
「だ、誰が見たと言う?!一体誰が!」
「俺達だよ」
「僕たちです」
二つの声が合わさり王の間に響いた。二人の青年の一人はヨツバの首元に剣を向け、もう一人は針を手の甲に付きつけていた
玉座に寄りかかりながら自信ありげな笑みを浮かべる青年と、冷たい瞳でヨツバを睨みつけている眼鏡をかけた青年。
「き、貴様らは!サザンカ、それにムクゲ!如何して貴様らが此処に!幽閉していたはず」
「可愛い女神と聡明な騎士のお陰で出て来れたんだよ親父殿」
サザンカは剣を喉元に向けたまま脱出した理由を告げた。ムクゲは眼鏡を戻すように手を添えながら、扉に目を向けた
「さぁ御父上。我らの可愛い女神と、聡明な騎士のご登場ですよ。ちゃんとご覧ください」
冷静な口調で告げると、ヨツバは扉を睨みつけた。扉が開くと其処に居たのは剣を片手に持つフリージアと、もう一人にアイリスだった。
ヨツバ王はフリージアの謀反と突然現れたアイリスに驚きが隠せなかった。見開いた眼で、王の間にいたアイリスを見た。
「何故アイリスが二人いる?!」
「まさか、最後まで気づかないとは驚きです。ヨツバ王!」
凛とした声で告げると、元々王の間に居たアイリスはベールを取った。そこにはアイリスとは違う髪色を持った少女がいた。そこに居たのは厳しい顔をした本物のスノーであった。
本物のアイリスはフリージアと共に、呆気に捕らわれているヨツバの元へ近づいた。
「お父様!もう逃げ場はございませんよ」
「兵たちも使い物にはなりません。我々が此処に来るまでに縛り上げてしまいましたから」
「それに関しては、ムクゲはやりすぎだったな。何時もって来たんだよ毒針なんて」
「剥ぎ取った兵士が針使いだったようで・・・少々神経毒を付けさせて貰ったんですよ。3時間もすれば痺れは取れます」
「ふざけるな!!!この国の王は私だ!」
サザンカとムクゲが話して少し気が緩んでいたその時、逆上したヨツバはサザンカとムクゲを振りほどくと、サザンカが持っていた剣を奪い取った。
「しまった!」
サザンカは慌てた様に叫ぶが、ヨツバは偶然近くにいたスノーに向かった剣を振り上げた。
スノーも急な事で動けず、怯えた表情を浮かべ両手で顔を隠した。両目を瞑り来る痛みに耐えようとした。
しかし、いくら待ってもその痛みは来ず、代わりに感じたのは誰かの心臓の音と温もりだった。
スノーを庇ったのはライゾーだった。右手でスノーを抱き寄せ左手で振り上げられていたヨツバの手首を掴み、剣を止めていた。
庇ってもらっている事に気づいたスノーは自分より数十センチ上にいるライゾーを見上げた。そこには今迄見たことのないライゾーの顔があった。
綺麗な顔の人ほど怒ると恐ろしい、というのは本当だった。顔は殺意に溢れ目は瞳孔が開いていた。
掴んでいたヨツバの手首はギリギリと音を立てていた。ヨツバはあまりの力の強さに剣を落としてしまい、剣は大理石の床に落ちた。
「俺のスノーに何をする・・・」
「ラ、ライゾーさん・・・?」
その瞬間ヨツバは崩れ落ちた。首には一本の針が刺さっていた。サザンカは本気で引いている顔をしながら口角をヒクヒクさせていた。
針を投げたのはムクゲだった。ムクゲはまるで鬼の形相であった。【女性を大切に】それがムクゲの基本姿勢であり、紳士のムクゲは女性への狼藉に何より嫌いだった。
「例え御父上であろうと・・・女性への暴力。許せません」
フルスイングの姿勢から態勢を戻すと、ヨツバの足を引っ張りながら縄を取り出し大きな柱に括り付けた。
「・・・怪我、ないか」
「えっ!あぁはい。大丈夫です・・・あの、さっき【俺のスノー】って・・・」
少し頬を染め体をモジモジさせながらライゾーに問いかけた。先程の助けてくれた時に言葉が格好良くて、まだ心臓がドキドキしていた。
そんなスノーに変わったライゾーは首を傾げながら照れもせず告げた。
「?お前は俺のだろう。お前がいなくなったら誰が店番するんだ」
「ま、まさか!そういう意味での【俺の】ですか?!」
「それ以外になにがある」
「・・・ちょっと見直した私が馬鹿みたいです」
「元から馬鹿だろう」
「煩いです!」
その会話を聞いていたアイリスやフリージアたちは声を上げて笑った。
その後ヨツバを拘束したり、閉じ込めていた兵士を解放したりと何かを忙しかったと言う。
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