偽りの罪
「じゃあ作戦通りに頼むぞ」
「はい・・・けど大丈夫なんですか?ライゾーさん」
「もし失敗した時は臨機応変で頼む」
スノーとアイリスとフリージアはライゾーからの作戦を聞くと、作戦通りに従った。不安そうにライゾーへ大丈夫かと聞くが、その問いに関して無責任な返しを行うライゾーに一抹の不安がよぎった。
「けれど、これで成功すれば失脚させる事が出来ますわ」
「これが、すべての欺くというわけですね・・・」
心配するスノーに対してアイリスとフリージアは自信に満ち溢れていた。自信というよりも腹を括っている顔つきだった。
スノーは、一度深呼吸をすると同じように腹を括った顔つきになった。その顔つきを見てライゾーは頷き、3人の顔を見た
「良いか、重要なのはスノーと皇女だ。上手くやれよ」
「大丈夫ですわ。スノーさん頑張りましょうね」
「はい・・・ライゾーさんもフリージアさんも気を付けてくださいね」
スノーは不安げに頷くと、ライゾーとフリージアに声をかけた。フリージアは優しそうな笑みを浮かべた。
「大丈夫ですよ。私はあまり出番はないので・・・何よりライゾー様には負担をお掛けすると思いますが・・」
「安心しろ。王は俺を殺さない、絶対に」
ライゾーは自信ありげに小さく微笑むと、フリージアと目を合わせフリージアもそれに頷いた。アイリスとスノーも互いの目線が確認を取り合い頷いた
「じゃあ・・・数時間後に落ちあいましょう」
「御武運を祈ります」
アイリスとスノーは花園にある椅子に座り直し、ティーカップを持ち直した。ライゾーとフリージアは周りを見渡して、花園から出た。
「ではご案内いたしますねライゾー様」
「・・・・・・・・・・・・・」
ライゾーは無言で頷くと、ニコニコと笑っているフリージアはライゾーの前を先導して歩いた。ライゾーもそれに続いて行った。
*
スノーとアイリスたちを別れて数時間後、ライゾーは王の間に多くの兵士たちに囲まれながら立っていた。
そこにフリージアの姿は見えず、代わりに心配そうな顔をしたスノーと厳しい顔をしたヨツバ王がいた
「ライゾー殿、何故呼ばれたか分かっているか?」
「さぁ、皆目見当もつかないな」
「・・・先程、兵の者より通告があったのだ。女神ハピネスの肖像画が何者かにより引き裂かれ原型を留めていないと・・・な」
厳しい目を向けながらライゾーに伝えた。スノーは驚いた顔をしながら被っている帽子の鍔を握り締めた。
「それで?まさか俺を疑っているのか?」
「私としても疑いたくもない。しかし容疑者としては一番有力なのは確かなのだ」
「ほぉ・・・なぜ俺を疑う?」
ライゾーは悪びれもなくヨツバ王に伝えた。ヨツバ王は呆れたようにため息をつくと、ライゾーに疑っている理由を教えた
「一つ、ライゾー殿は女神ハピネスの王冠を創りたがっていない。一つ、今日の内でハピネスの肖像画がある塔に向かったのはライゾー殿しかいないという事だ」
「可笑しい。俺はフリージアと共に行ったが?」
「証言して欲しいのは分かるが、そのフリージアが今何処にもいないのだ。なので証言させることは不可能だな」
完全にライゾーが肖像画を引き裂いたような流れになってきていた。ヨツバは厳しい目を和らげると、優しく微笑んだ
「しかしライゾー殿ご安心くだされ。私はライゾー殿を殺しはしない・・・一つ条件を飲んでくだされば今回の事を水に流しましょう」
「条件・・・?」
「その条件を飲まなければ・・・」
「死というわけか・・・申し訳ないが死と言う概念には毛ほどの興味を持たない男なんだ。自分と無実を証明しようとも思わない。殺したいなら殺せば良い」
「ライゾーさ、ん!如何してそのような事が言えるんですか?!」
すると、ライゾーは小さく微笑むとまるで蛇が獲物を見つけたような目付きでヨツバを見つめた。
スノーはそのライゾーの冷静すぎる口調に恐怖すらも抱いた。如何してそこまで冷静で居られるのか分からなかった。
「だが・・・殺せるのであればの話だが」
「というと?何が良いたいのかライゾー殿」
「俺を殺せば誰が王冠を創るんだろうな?つまり、お前は俺を殺せない」
「ふふっ・・・勿論私もライゾー殿を殺すつもりはない。条件があると言っていただろう?王冠を創るのが無罪にする条件だ」
ライゾーは黙り込んでしまった。最初からこれが条件だったという事は薄々気づいてはいた。了承しなければ死、了承すれば無罪、偽りの罪が無罪となる。
自分一人であれば了承してもしなくても別に構わない。自分の生きる事にはまったく持って興味がないのだから。
しかし、今は立場が悪かった。もし断れば付き添いできたスノーが変わりに殺される可能性があったのだ。
もしスノーが死刑になれば目覚めが悪かった。それに自分の我儘というか信念で娘を殺されたスノーの両親はどう思うだろうか。
そうなれば、もうクレマチスには居られない。覚悟を決めるしかなかった
「分かった・・・創ってみせよう」
「良い判断だライゾー殿。しかし、問題もあるのだ。もしも、ライゾー殿が逃げ出すような真似をしてもらっては困るのだ。なので・・」
ヨツバは周りにいた兵士たちに合図すると、兵士たちはスノーを取り囲み腕を縄で縛った。スノーは驚き動かなくなった腕を動かしたが、屈強な兵士たちに抑えられた。
「な、何をするんですか!ヨツバ王!」
「申し訳ないスノードロップ嬢。貴殿には人質となってもらう。ライゾー殿が逃げ出さない様に・・・」
「汚い真似をするんだな。幸運の国の王が聞いて呆れる」
「あらゆる事に備えは必要だろう?何安心してくれ、手荒な真似はしない。ただハピネスの肖像画のあった塔に幽閉して置くだけだ。ライゾー殿が創ればすぐにでも解放しよう」
「約束できるのか?」
「幸せの女神ハピネスに誓っても・・・連れて行け」
優しく微笑んだヨツバ王だったが、一瞬真顔に戻ると兵士に連れて行くように命じた。スノーは不安そうな顔をしながら兵士たちに連れて行かれた。
ヨツバは王の間を出て行ったスノーを見届けると、にこやかに微笑みながらライゾーの向き直った。
「では部下に案内させる」
「此方へ」
一人に兵士が前に出てくると、ライゾーはヨツバを最後まで睨みながらその兵士に付いていった。
工房に案内されたライゾーは、何時も着用している眼鏡をつけると一度だけ見た女神ハピネスの王冠を思い出しながら設計に取り掛かっていた。
*
その頃スノーは、二人の兵士によって塔へ案内されていた。白い帽子を被りながら俯いていたスノーは何時の間にか塔へ近づいていた。
一人の兵士が、塔への鍵を開けるとスノーは兵士と共に塔の中へ通された。塔の一階は真っ暗で何処か薄ら寒かった。
「普通なら階段で10階ほど上るが、囚人ではなく人質の為3階の待合室で待機してもらう」
「はい・・・しかし、それは・・・お二人方の事ではありませんか?」
「何を・・・?!」
二人の兵士は言おうとした言葉も言えず膝から崩れ落ちた。立っているのはスノーと二人の若い男だけだった。
スノーは安心したような笑みを浮かべ、その兵士を気絶させた二人の男を見た。二人の男も表情に綻ばせた。
「助かりました」
「話はライゾーとフリージアから聞いている」
「大胆な事をするものです・・・フリージアも、もう出てきて大丈夫ですよ」
一人の男性が冷静な口調で告げると、煉瓦で隠された螺旋階段の壁からフリージアが出て来た。フリージアは辺りを見渡しながらスノーたちに近づいた
「作戦は上手くいったようですね」
「後はこの気絶した兵士を、私が入るはずだった応接室に入れるだけですわ」
「それにしても・・良くバレなかったな。アイリス」
一人の男性が見物するように、スノーの格好をした女性を見つめた。その女性は驚いたような表情をすると、白い帽子を取った。
そこにはスノーとは違う髪色をした女性がいた。柔らかな紫色の髪の毛をシニヨンにしてまとめ帽子の中に入れていた皇女アイリスの姿があった。
「本物のスノードロップという御嬢さんは無事なのか?」
「えぇ本物のスノーなら、私のドレスを着て白いベールで髪の毛を隠しています。それに今は部屋で待機しているはずですから・・・」
「?どうかしましたかアイリス」
黙り込んでしまったアイリスを心配そうに覗き込んだ若草色の髪の毛を一つの三つ編みにしている男性は見つめた。アイリスは泣きそうになるのを堪えて、微笑んだ。
「・・・・お久しぶりですね、サザンカお兄様、ムクゲお兄様。お体の方は大丈夫ですか?」
「全然大丈夫だ!このサザンカ・グリース。体調不良とは程遠い健康体だぞ!なぁムクゲ!」
「まったく・・・サザンカ兄上は相変わらずの筋肉馬鹿でしたよ。アイリスが心配するような事を何一つありません」
ムクゲと言われた青年は、前に垂れてきた三つ編みを後ろへ退かすと呆れた口調で兄であるサザンカをジト目で見ていた。
アイリスは相変わらずの様子であるサザンカとムクゲを見て安心したのか、笑みを零したがすぐ表情を引き締めた
「しかし、まだ安心はできません。取り敢えずこの兵士を部屋に閉じ込めて起きましょう」
「そうしましょうか・・・所で、皇太子様。ご覧頂けましたでしょうか?」
「勿論だ」
「・・・反論する術がありませんね。完全に黒ですよ」
フリージアは怪しく微笑むと、二人の兵士から鍵やら武器脱出出来そうな物を奪い取っていた。
サザンカとムクゲは二人の兵士から奪い取った剣を腰に刺すと武装を行った。フリージアとムクゲは二人で一人の兵士を持ち、サザンカは一人で兵士を持ち上げた。
「相変わらずの馬鹿力ですねサザンカ兄上」
「おっムクゲに褒められた!」
「褒めてねェですから」
「ムクゲお兄様、口調が乱れておりますわ」
フリージアたちは二人の兵士を部屋に運ぶとと、窓の鍵を壊し開けられない様にした。椅子や机など武器になりそうな物は部屋から撤去した。
家具を部屋から出すと、床に二人の兵士を寝かせ外から奪った鍵で閉じ込めた。4人は3階から下の1階に降りた。
「アイリスと我々はこのあと別行動だろう?」
「はい、まず我々はこの塔を出てアイリス皇女様はまず自室へ向かいスノードロップ様に成功したことを教えて頂きその場で待機です」
「分かりましたわ」
「我々は数多くいる兵士たちを気絶させたり、縛ったりして動けない様しながら、ライザー殿がいる工房まで行き、作戦が無事成功したことを伝えます」
フリージアはライゾーによって伝えられていた今回の作戦を細かく説明した。アイリスたちはフリージアの言葉を聞き逃さない様に、真剣に耳を傾けていた。
「その後は、王の間に侵入してライゾー様とアイリス様に変装したスノードロップ様の合図を待ちます」
「成程な・・・失敗は許されないって言う事か。滾るなァ」
「何が滾るって言うんですかサザンカ兄上。相変わらず脳内筋肉だらけですね」
ムクゲは呆れたような口調で自分より数センチ上にいるサザンカを見上げた。見上げているのにこの圧倒的な見下されている感を悍ましかった
「お前って俺に対する扱い酷いよな」
「兄上なので、アイリスの方が可愛いので当たり前の分別です」
「分別?!お前の中で俺はゴミか何かなのかな!兄上泣きそうなんだけど・・・!」
「男の涙なんてテロ行為を良い所です。男の涙になんの価値があるんですか」
「紳士もここまで来ると考え物だな!」
紳士であるムクゲは男の涙はテロ行為と言い放つと、心配そうに見つめているアイリスの頭を微笑みながら優しく撫でた。
「心配しなくても良いですよアイリス。全て僕らに任せていれば問題ありません」
「し、信じていますわ。ムクゲお兄様」
ムクゲの変わりっぷりに苦笑を漏らすアイリスと、完全に落ち込んでしまったサザンカを見てフリージアはこの雰囲気に少し不安を覚えていた
「本当に・・・大丈夫なんだろうか・・・」
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