国家に取り残された国民

早苗(かりり)

モスル陥落から

 数か月前に世界中で大きくニュースに取り上げられたことだが、ISが拠点としていたイラクのモスルが陥落したそうだ。ISはここ3年ほどの間、世界を騒がせてきた組織であり、多くの人々の命を奪った。IS以前にもイスラム過激派組織としてアルカイダがあり、広く知られている9.11事件を引き起こした組織であるが、ISは「イスラム国(Isramic State in Iruq and al-Sham)」を名乗ったことでより一層ムスリムの印象に大きな悪影響を与えた。アメリカで一時的にだが、ムスリムの入国が禁止されたのもその影響だ。


 さて、問題のISの拠点が陥落したということでISの脅威がなくなったわけではない。むしろISの危険な思想を持つ危険因子が世界中に散らばり、いつどこでテロが起こってもおかしくない状況になっている。陥落したモスル周辺でも、未だISの戦闘員が武器を忍ばせ一般市民に扮しているという。


 


 今までISの支配により足を踏み入れることが難しかったイラクに取材をした様子が、先日ニュース番組に特別枠を設けられ放送していた。当然、崩壊した建物の瓦礫は未だ整備されておらず、大変殺風景なものとなっていた。住居を失った人々はコンクリート剥き出しの今にも崩れそうな建物に身を寄せ、国から配給される少量の食糧で生活している。ISとイラク軍の紛争が終わった今でも爆破音は絶えず、少年兵の遺体などは周辺に放置されたままで、自分の街にも帰ることができない。ディレクターは地元住民に聞く、「これは全部ISのせいなのか?」と。地元住民は、ISとイラク軍のせいだと言う。聞くところによると、ISによる街の爆破だけではなく、モスル奪還のため普通に人々が暮らしていた周辺地域までもイラク軍が破壊したそうだ。確かにISから国を守ることは大切だ。しかし今回のイラク軍の行動は、どうも国民をISの脅威から守るというものではないような気がして仕方がない。イラクはモスルをISから奪還することで、国軍の力が劣っていないことを各国に証明し、世界的にある程度力のある国としての立場と権力を得たかったのではないだろうか。アメリカやロシアからの圧力もあり、無理にでも攻めないわけにはいかない状況になっていたのも否めないが。国民のための国であるはずが、今や他国からの目を第一に気にして動いているのである。おかしな状況だが、これは別にイラクに限ったことではない。とてつもない量の金をばらまき、他国の機嫌を取っている日本も同じだろう。だが、そうでもしないとやっていけないのだ。大きな国に見放されてしまってはどうすることもできない。私たちは欧米諸国によって進められたグローバル化の被害者なのだろう。そんな中厳しい状況で欧米諸国に劣らずに成長していく、アジアやその他発展途上国の力を信じたい。

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