11.Before the storm

「まんまとかかってくれましたよ。司令。」


デカイモニターだけが光る暗闇の部屋に男が入ってくる。


「わざと信号残しててよかったね。邪魔な存在から消していかないと、僕たちの計画が崩れる。もう向かわせた?」


「はい、新型を3体ほど。テストにもなりますし。敵は偵察用を送ってくるようです。それと…」


「なんだい?」


「例の白騎士乗りが勧誘を断ったと。」


「え?そうなのかい?それは誤算だな。」


「でもいずれ入るでしょう。彼のことです。」


「そう祈るよ」


「それでは失礼します。」


男は頭を下げ、部屋を後にする。


「君には僕たちと戦ってもらわないと困るんだよ…。伊藤祐樹くん…。」


新道は静かに何も映ってないモニターを見て呟いた。





「それじゃあ出発しようか!」


局長室で準備を済ませた武下と佐伯が荷物を持って、立ち上がる。


「くれぐれも戦闘は避けてね!それとお土産もよろしく!」


「旅行に行くんじゃ無いんですよ…。まぁ余裕があれば買ってきます。」


武下が苦笑いで答える。


「あ、あの…寄ってもらいたいところがあるんですが…。」


佐伯が少し引き気味で言う。


「ん?どこに?っていうかその籠は…」


「ミャア」


「この子を預けたくて…」


「ハハ…わかったよ…で?場所は?」


「えっと…」




ピンポーン…


玄関のチャイムの音で目覚める祐樹。


眠たい目をこすりながら目覚まし時計を手に取る。

短い針はまだ6時を指していた。


「ったく、誰だよこんな朝早くから…。雄二だったらぶっ殺す。」


週末だと言うのにこんな時間に起こされたことに腹を立てながらもベットから降りる。


ピンポーン…


「はいはい、ちょっと待っておくんなまし」


再び押されたチャイムに答えるように呟き、玄関に向かう。


「どちらさ…えっ」


そこにいたのは佐伯。


「おはようございます。朝早くにすいません。」


「お、おう。どうした。」


「実はお願いがありまして…」


少し恥ずかしそうに下を向く佐伯。


お願い?俺に?

よくわからない状況に混乱する祐樹だったがイメージとは違う女の子らしいワンピースの私服と少し赤らめた顔。


まさか…!?デデデデデデー…!?


「この子を預かって貰えませんか?」


「えっ!?ん!?なに!?預かる!?」


テンパりすぎてよくわからない感情が出る祐樹。それに驚いた佐伯が少し持っていた籠を揺らすと開いた小窓から可愛らしい猫が顔を出す。


「…あ、あーそういうこと。てかなんで俺…?局長んとこに預ければ…。」


「以前預けたんですか…ブクブク太って戻ってきて…」


「あー…なんか甘やかしそうだもんな…」


祐樹が苦笑いでそう答えると佐伯は籠を前に出す。


「お願いします…」


「まぁ、動物好きだし。いいよ。」


それを手に取る祐樹。


「っていうかなんで俺の家…」


「局長から聞きました。」


「うそだろ。ガバガバ過ぎんだろ。」


2人はお別れの挨拶をし、佐伯はドアを閉めた。その間ずっと猫は寂しそうに鳴いていた。


「よお。えーと名前は確か…ジェームズだったな。」


小窓から覗く猫に話しかける。


「三毛猫にジェームズか…。なんか俺にはわからんセンスだな」


籠から出すと自由から解放されて嬉しかったのか、家の中を走り回る。


「初めてなのによくはしゃげるな…」


その様子を見て優しく微笑み、猫の後を追う。





「すみませんお待たせしました。」


「いいよ〜。」


佐伯が車に乗り、再び走り出す。


「でもなんで祐樹くんに??局長のとこにあずけ…ハッ!?まさか…」


「な、なんですか…」


武下がすごい形相でこちらを見てくる。


「ゆゆゆゆゆ祐樹くんのことを…すすすすす好きとか…!?」


「ちが、違いますよ…!!!頼めるのが彼ししかいなくて!!」


「そ、そうだよね…」


へんな沈黙が車内に生まれる。


そうこうしている内に2人は眠りについた。




車が段差を乗り越えた衝撃で武下が目を覚ます。


「あれ…?」


「あ、起きました?もう空港に着きますよ」


既に目を覚ましていた佐伯が武下に言った。


「あー…寝ちゃってたよ…。」


「朝早かったですもんね」


「着きましたよ〜」


運転手のおじさんが2人に言うと車から降り、荷物を下ろす。


「さーて!行きますか!長崎!!」


2人は空港へと入って行った。



一方その頃。


「ほーらジェームズ、ネズミのおもちゃだよ〜」


ネズミのぬいぐるみのしっぽを持ってすごい勢いで暴れさせる祐樹。


だが猫はそれを警戒するかのように見つめるだけ。


「うーん、だめか」


祐樹はネズミの振り回すのをやめ、困った顔をする。




場所はまた変わり、コレクト本部格納庫。


「どうですか?」


「うーん、なにが原因かわからないけどやっぱり人工筋肉に異常をきたしてるね〜。」


緑川と巻島がオーバーシアのメンテナンス画面を見ながら話していた。


「ねえー颯くん。そろそろ専用機、考えてもいいんじゃない?」


「いえ、これで充分戦えます。」


「ほら、自分にあった戦闘スタイルを確約できるからさ〜」


「今で充分自分にあってますよ」


「え〜〜」


「僕は仕事があるのでこれで」


緑川が微笑み、部屋を後にする。


巻島は事務所に戻りデスクに座る。


「いつでも準備OKなのになー」


巻島のデスクのモニターには設計図が表示されていた。




再び一方その頃。


「ただいまぁ。ジェームズ、お前に最高の飯を食わしてやろう!」


祐樹は台所に行き、皿に缶詰からなにかを盛り付ける。


「さぁ食え!!コンビニで1番高かった猫缶だ!!美味だぞ!!食え!!」


ドンと猫の前に置くが、猫はそっぽを向く。


「お願い!食べて!まじ高かったから食べて!!」


それでも見向きもしない猫。


「ワガママボーイだな…」


祐樹は再び困った顔をした。




それから2時間後、武下と佐伯は長崎空港に到着した。


「いやあ!長かったなぁ!」


「私は眠りかぶってました…」


「寝顔可愛かったよ」


「やめてください…」


「ヨダレ垂らしながら気持ち良さそうに…」


「やめてください!」


空港のゲートを抜けた待合室で話しているとスーツ姿の男が近寄ってきた。


「ようこそ長崎へ。」


「あ!北村さん!お久しぶりです!!」


「久しぶり、佐伯さんは初めましてだね。」


「は、初めまして…佐伯優香と言います…」


佐伯がおどおどしながらも深くお辞儀をする。


「はは、そんなかしこまらなくていいよ。本部にめったにいないからね。

僕は北村雄一。情報部の一人だよ。」


「で、今回は?」


武下が北村に聞く。


「うん、先に長崎に来て調べていたんだ。大きな情報はないけど気になることはたくさんあった。それは移動しながら話そう。」


3人は外に止まっていた黒塗りのバンに乗った。


車が動き出して間もない時だった。


「それじゃあさっそく、話の続きをしようか。」


北村がそういうと後部座席に座っていた二人の前に天井からモニターが現れる。


「いくつか目撃情報や、不穏な情報を見つけたんだ。」


そういうとモニターに暗闇の中にぼんやりと浮かぶ巨大な何かが映っていた。


「これは漁師さんからいただいた情報だ。まだ暗い今朝方に海に出たところ、端島の近くに巨大な船が浮いていたらしい。大きさ的にはもしかすると端島と同じくらい、もしくはそれ以上あった感覚だそうだ。」


「じゃあ島一個ぶんってこと…」


「そうだね。この写真はこのあいだの電波ジャックの日の早朝4時に撮られたもの。」


モニターの写真が変わり、サーモグラフィーの写真が映し出される。


「次はこれ、別の漁師さんからいただいた海底のサーモグラフィーの写真だ。元は魚の群れを見つけるために撮られたものだが、ここに注目してほしい。」


写真が一部を拡大する。


「これって…」


「うん、おそらく敵の量産機だ。明らかに人型の反応が出てる。海底で何をしてるのかわからないけど、この島でなにかをしてたのは間違いない。」


「見た所10機以上あるよ…」


「うん、おそらく先日の爆弾関係の作業をやっていたんだろう。」


その後も様々な情報を提示する北村。

詳細不明の戦闘機が上空を飛んでいた目撃情報。

端島でたびたび起きていた謎の地震。様々な情報が出てくる。


「でも1番不思議なのが…」


北村がバックミラー越しに2人を見る。


「爆弾事件の直後、形跡が跡形もなく、一瞬で亡くなってるんだ。」


「え?それって…」


「わからない。もしかすると、我々だけだと思ってた転送技術を、あちら側も持っているのかもしれない。」


「そんな!それじゃあいつ世界規模でテロを起こされてもおかしくないってこと!?」


武下が焦りのあまり大きな声を出す。


「いや、そう断定できるわけではない。何かしらの妨害によって存在をくらましているかもしれない。」


「その調査をするのが…私達、ってわけですね」


佐伯が初めて会話に入る。


「そういうこと。でもあくまでも"調査"だから無駄な戦闘は避けたい。くわしいプランは旅館に着いたらまた話そう。端島近くまではまだ時間がある。ゆっくりしててくれ。」


「そんな情報聞いたら、寝ていられないよ…」


そう力強く呟いた武下は五分もしないうちに眠りについていた。


「ね、寝てる…」


あまりの早さに驚く佐伯だったが、佐伯もまた移動ばかりで疲れていたのか、気づかぬ間に眠りについていた。




またまた一方その頃。


ガシャーン!!!


「いやぁ!!!!!皿があああああ!!!」


自由奔放に遊びまわる猫に、祐樹は苦戦していた。


「やんちゃ過ぎるよジェームズ…」


そう呟き割れた皿を片付け出す。

ふと食器棚の下を見るとそこから紐が出ていた。


「ん?なんだ」


それを引っ張ると"GUEST"と書かれたカードキーが。


「あ!!やべ、これ管理局のパス。初めて行った時に貰って無くしてたんだった。明日持っていくか。」


それを無くさないようにわかりやすい場所に置き、片付けを再開する祐樹だった。



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インペリアル・ダスト よじろっく @youlow141

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