10.Traumatize
「祐樹飯食うぞオラ!」
カバンから弁当を出していると雄二が飛んできた。
「やかましいな。」
「私もー!!」
それを聞いていた茜もやってくる。
祐樹たちは昼休みを迎えていた。
クラスメイトの話し声やじゃれ合っている声で溢れる教室で祐樹たちは机を合わせ、食事をとる。
というか、こいつらは俺の気持ちを少しは考えてくれ。学校のマドンナと王子様と一般市民だぞ。プレッシャーで吐きそうになるわ。
そう思いつつも3人で仲良く食事をとる。
「っしゃ!ミートボールもーらい!」
「おまっ!!それ渾身の力作だぞ!!」
「わたしもー!!」
「いやだから!」
丹精込めて作ったミートボールを2人に奪われ腹を立てる祐樹、その時だった。
「祐樹く〜ん、呼んでるよ〜。」
そう言われそのドアの方を向く。
「ん?誰もいないけど誰だ。」
「なに、お前友達できたの?」
「ちげーよ。あ、お前らミートボール食うなよ」
そう言い残しドアに向かうが、誰もいない。
いないじゃん。
そう思って席に戻ろうとした時だった。
「こんにちは。」
聞き覚えのある声、そしてこの見た目。
「さ、佐伯さん…!?」
そう声を漏らすとクラスの男子が騒ぎ出す。
「えっ!?祐樹佐伯さんと友達だったの!?」
「おい抜け駆けかオラ!!!」
佐伯が目の前にいることの方が驚きで耳には入らない。
「あら、覚えててくれたんですね。」
なに一つ表情を変えず言う佐伯を見て苦笑いをする祐樹。
「で、な、何の用でしょうか…」
「少しお話があるの。」
「勧誘ですか?それだったらこの間…」
「いえ、違います。少しお話をしたいだけです。一緒に来ていただけませんか?」
「は、はぁ」
その会話を聞いていたクラスの男子が更にヒートアップする。
「あ、ちょっと待ってくださいね。」
そう言うと祐樹は振り返る。
「おい!これは違うぞ!そういうんじゃないからなまじで!あとミートボール食うなよ!」
「はいはい」
雄二と茜がミートボールを食べながら言う。
「食ってるし…それじゃ行きましょうか」
「人気者なんですね。」
「そういうんじゃないです。」
祐樹達はその場を後にした。
後ろからは男子達の怒号が響いて来た。
場所は移って屋上に来ていた。
「で、話って何ですか?」
祐樹が屋上の転落防止のために作られたフェンスから運動場を見下ろしながら聞く。
「突然お呼びたてして申し訳ありません。これと言って重要なものではないのですが…。」
「こうしている間にも僕のミートボールが食べられてるんですよね。」
「そんなに長くはかかりません。それと、同じ年なので敬語じゃなくていいですよ。」
「それを言ったら佐伯さんだって。」
「私は昔からこうですので…」
「そうなのか。」
少しの沈黙が生まれる。
「あの…どうして断ったのですか??"理由"が知りたくて…」
そう言われ祐樹が振り向く。、
「言ったように、俺が誰かを守れる自信なんて無いんだよ。」
「そうじゃありません。なぜ"自信が無い"のか気になるのです。」
「それは…」
「あなたのこと、少し調べさせていただきました。」
そう言われて祐樹が顔を歪めた。
「調べたって…あなたさらっとすごいことしてるよ…」
「そうですか?…4年前のとある中学校で起きた事故。」
軽く返答したあとに出た言葉に祐樹の顔が一瞬ピクつく。
「ある生徒が自殺をした。なんて単純に報道されてましたが、それにあなたが関係しているのでは?」
「関係ねえよ。俺がその学校に通ってたってだけだ。」
祐樹は再び運動場の方に向き直し言った。
「…私は別にあなたが通ってた学校とは言ってません」
徐々に憤りを感じる祐樹。
「その事故は全国的に報道されただろ。そこまで取り上げられた事故ならすぐにどこの学校かわかる。」
「その事故に、あなたはなんらかの関係性を持っている。そしてそれをきっかけに何か変わったのではないですか??」
「だから関係ねえって言ってるだろ!!」
祐樹は思わず大きな声を出してしまう。
「私のクラスのあなたと同じ中学だった生徒から聞きました。その頃はみんなの人気者で正義感がとても強い活発な生徒だったと。」
祐樹は運動場を見つめたまま黙り込む。
「でもその日から様子がおかしくなったと。」
「昔の話をしに来たんじゃないんだろ。俺は戻る。」
そう言って祐樹は出口に歩き出す。
「不快な気持ちにさせてしまって申し訳ありません。でも、断った時のあなたの悔しそうな表情が忘れられないんです。」
「忘れてくれ。それと怒鳴って悪かった。」
そう言ってドアの前に立ってドアノブに手を掛けた時だった。
「お、おい!なんて話してるんだよ!」
「わかんねえ!でも断るとかどうとか…」
「まさかあいつ佐伯さんに告られて…」
「断ったのか!?茜ちゃんと言いなんであいつばっかり!」
ドアの向こう側でこそこそと話しているのが聞こえてくる。
勢い良くドアを開けると盗み聞きしていたクラスの男子が雪崩のように崩れて出てくる。
「なにやってんだお前ら…」
「この悪魔め!チキショー!」
そう吐き捨てて逃げ去る男子達、いなくなると奥に雄二と茜がいた。
「お前らまで…」
「ゆ、祐樹…告られたって…」
茜が絶望に満ちた表情で聞いてくる。
「は??違う違う。ちょっとした知り合いだよ。そんなんじゃない。」
それを聞いた茜の顔がパアッと明るくなる。
「だよね!そうだよね!戻ってご飯食べよう!」
そういって2人が戻ろうとするが、
「おい、お前ら俺のミートボール美味しく頂いただろ」
そう言われた2人がビタッと止まる。
「…、俺たちのおかずあげるから…、な??」
「は!?全部食ったのかよ!ふざけんな!」
「ほんとごめん!私のお母さんの特製ウィンナーあげるから!」
「市販だろ」
そんな普通の会話をして歩いていく3人を見つめる佐伯。
その目はどこか悲しげだった。
「私はいつもこうだ…。ちゃんと素直に言えない…。"あなたの力が必要なの"って…。」
自分を卑劣するかのように深いため息をついた。
「きょくちょー!!特定しましたよ!!」
場所は変わってコレクト、局長室。
そこで武下が元気よく部屋に入ってくる。
「おお武下くん。さすがだね。速い。」
「こないだの電波ジャックの形跡を辿ってみたんだけど、どうやら長崎の端島の方にあるみたいですよ」
「端島か…。最近は観光も増えて来たけど隠すならもってこいだね。」
モニターに映し出される情報を見ながら話す2人。
「よし、それじゃ早速明日には出発しよう。今回はあくまでも偵察だから武下くんのラプトラスと佐伯くんのハイドで行こう。」
「わかりました。優香ちゃんに放課後来るように言っときますね。」
「頼むよ。詳しい作戦はそこで話そうか。」
「了解です!!」
武下は部屋を後にした。
椅子に座り、奥の格納庫を見つめる澤田。
「伊藤くんは元気にしてるかな…」
未練があるわけではない。
ただ、佐伯同様澤田もあの時の祐樹の表情が忘れられずにいた。
何か深いものを抱えていると。
放課後になり祐樹が玄関から出ると、校門の前で誰かと電話している佐伯がいた。
しかし祐樹はなにも言わず横を通り過ぎようとする。
「伊藤さん」
呼ばれて立ち止まる祐樹。
「昼間は申し訳ありませんでした。私も少々やり過ぎたと反省しています。」
「いいよ。俺も変な態度取ってしまったし。電話、コレクトから?」
「そうです。明日から少しの間長崎に」
「これまた遠くやね。気をつけて」
「ありがとうございます。」
丁寧に頭を下げる佐伯。それを見てその場を後にしようとする祐樹だったが再び立ち止まる。
「4年前の事故。原因は俺だったんだ。」
「え?」
「あるいじめを受けてた生徒が居てな、俺はそいつになんとかしてやりたいと思って、話したりして気配ってたんだよ。」
黙って話を聞く佐伯。
「でもそいつから言われたんだよ。"その偽善が1番僕自身を殺そうとしてる"って。」
「"僕は君が嫌いだ"って言われたよ。それがあいつとの最後の会話だった。」
「そんなことが…」
「その時思ったんだよ。正義なんてものは本当は存在しないのかもって。自分が今まで良かれと思ってやってことが恐ろしくなってさ、それからなにもかもが怖くなったんだよ。トラウマってやつだな。自分の行動に自信が持てなくなった。」
「…でも、今のあなたは違うと思います。昔のあなたは知りませんが…。あなたには絶対的な"救える力"があるんです。だから私たちと…」
「悪いな。それじゃ。」
佐伯の言葉を遮るようにして祐樹は言い、帰っていった。
「伊藤さん…」
離れていく背中を見つめ呟く佐伯。
その背中は彼が隠していた心のように小さかった。
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