9.Participate
未だにジェネスは空中を浮遊していた。
張り詰めた緊張から解放され、一気に力が抜けてしまった祐樹は操縦席でうなだれていた。
「やべえ…体動かねえ…」
そう呟き外をボーッと眺めていると、突然目の前が暗くなる。
「え、なんだ。」
『聞こえる?』
聞きなれない声。声質的には同じくらいの歳の男の子だろうか。
「は、はい…」
『よかった。ところで全然動かないけど…』
「あ、いや…ちょっと力抜けてだるくて…」
『ええ。しょうがないなぁ』
そう言われた途端ちょっとした衝撃を感じる。
「え?なんかしました?」
「え?なにって…ワイヤーで縛って…ってうおっ!いたっ!」
急に引っ張られたよう感覚を感じ、慣性の法則で後頭部を打つ。
『衝撃に気をつけてね!』
「もう遅いっすよ!」
『それじゃ帰るよ!』
「え?」
どういうことか聞く間も無くジェネスが出現した時と同じ音がなる。
「ん?アレ?」
様子が変わったことに気づき、あたりを見渡すと、倉庫のような場所に移動をしていた。
何かに掴まれるような感覚があったあと、機体が動き出す。
「なになになになに、もう訳わかめ。」
そしてガコンという音と共に機体が作動をやめ、電気機器が落ちる。
そしてコックピットの話をハッチが開いた。
恐る恐る顔を出すと、そこはあの時みた格納庫だった。
「ここって…」
「やぁ!新人君!!」
呼ばれた方向を見ると、ジェネスの倍はあろう巨大な、まるで衛星のようなロボの胸部のコックピットの上に立つ金髪美少年。
「こ、こんちハッ!?」
思わずへんな声をあげて驚く祐樹。
それもそうであろう。その美少年が涼しい顔して高さ20メートル以上あるであろうコックピットから飛び降りたのだ。
「し、死んだ!?!?」
祐樹は下を覗く。
そこには笑顔で見上げる金髪美少年。
「死ぬ訳ないじゃん!はやく降りて来なよ!局長室行くよ!」
「いや降りてきなよって!死ぬわ!」
「大丈夫だって!」
いやいや無理だって。
そうは思っていたが目の前でアレを見て、もしかして自分も実はできるんじゃ?なんていうアホ思考が顔を出す。
つばを飲み立ち上がる祐樹。
「お?来る?」
「行くぞオラ!!」
飛び降りようとした時だった。
「すいません!はしご繋げるの遅くなって!」
横を見ると作業員らしき人が機械式のはしごの上に乗ってこっちを見ていた。
「あるんかい。」
祐樹は素直にハシゴから降りる。
降りきり美少年を見ると涙を浮かべながら笑っていた。
「ち、ちょっと…なに笑ってるんですか…」
「ごめんごめん…結構君って面白いね。」
見るからに自分より年下。こいつバカにしおって。
そう思うが初対面の相手には言えず、苦笑いをする。
「君が新人君かぁ。よろしくね。いやあ大変だったね〜。」
「ほんとっすね…。マジで死ぬかと思いましたよ。」
「敬語じゃなくていいよー!いやでもほんとに君に助けられたよ。ありがとう」
「そんなことないで…そんなことないよ。爆弾の場所がすぐわかったのは君の能力のおかげだって。オペレーター?の人が言ってた。」
「えへへ」
そんな会話をしながら2人して局長室へ向かう。
中に入ると緑川と上内、澤田の他に見知らぬ女の子。
誰だろう。そう思いつつも局長のデスクに歩み寄る。
「おっ、来たね〜。それじゃあ始めようか。」
そういうと自分以外の5人がデスクの前に並んで立つ。
「それじゃあ本題に入る前に。伊藤くん、本当に今回は助けられた、ありがとう。」
そういうと澤田が頭を深く下げる。それに続いて他のみんなも下げる。
「い、いや!こんななにも知らない僕を使うのにも相当な判断力があると思いますし!他の皆の対応もめちゃくちゃ早かったですし!」
「そんなに謙遜するな。伊藤は街を救ったんだ、それは紛れもなく誇りだ。」
緑川は顔を上げいう。
澤田も顔をあげる。
「まず初めに自己紹介と行こうか。私と緑川くんと上内くんは済んでるだろうから2人だね。」
「そういえばまだ言ってなかったね!僕は武下ミツル!!20歳だよ!よろしくね!」
「ええっ!?20歳!?年下だと思ってた…ました…よろしくお願いします」
それを聞いて武下が笑う。
「私は佐伯優香。話は聞きました。力になれず申し訳ございませんでした。これからよろしくお願いしますね」
淡々と喋る黒髪ショートの彼女はどこか凛としていて可愛いというよりかはかっこいい、キレイという言葉がふさわしい格好をしていた。
「これから…??ま、まぁよろしくお願いします…」
「あ、ちなみにあなたと同じ18歳です。」
「なんで俺の歳…まぁいいか…」
「さぁ、済んだね。それじゃあ本題だね…いきなりで申し訳ないが…」
そういうと澤田が一歩前に出る。
「コレクトに入る気はないかい??」
そう言われ一瞬きょとんとする。
コレクト…?入る…?俺が…?
「まぁいきなり言われるとそうなるよね。すぐにじゃなくてもいい。我々としては入ってくれると嬉しいんだが…」
「それって俺も正義の味方になれってこと…」
「そう!!正義の味方!!君の力は計り知れない。ぜひとも我々と共に戦ってほしい!」
勇気は下を向いて考え込む。
「すぐにとは言わない。じっくり考えた上で返事を…」
「すいません、僕には向いてないと思います…」
まさかの返答でみんな思考が停止する。
「えっ!?いや、ほら!君街を救ったし!何より特別な力が…」
澤田が慌てふためき、祐樹を説得しようとする。
「いや…特別な力なんてありませんよ…街を救ったのだってジェネスのおかげです。それに他のみんなのサポートがあったから。僕が特別なんじゃないんです。」
「それに…僕に正義の味方を全うする自信はないです。」
みんなに喋らせる隙もなく淡々と祐樹は言った。
確かに昔の俺ならすぐ返事してたかもしれない。でも今は違うんだよ。
ほんとは力になりたいんだよ…。
下を向いて唇を噛む祐樹。
「そうか…そこまで言われると無理に説得するのも気が引けるな…。わかった。今回の話は忘れてくれ。突然こんなこと言って申し訳なかった。でも今回の事件の報酬はしっかり払うから、それで心を休めてくれ。」
「すいません…」
祐樹は顔を上げることない。
「ま、まぁ!怒りはしないから!報酬で友達とおいしいものでも食べな!」
その様子を見た澤田が気を使って明るく振る舞う。それでも場の悪い空気は誤魔化しきれなかった。
そのあと、車で自宅まで送られ、帰宅をした。
自ら断ったくせにずっと罪悪感は消えない。自分でも本当は入りたいのはわかっていた。
「そこが俺の悪い癖だよ…」
シャワーを頭から浴びながら呟く祐樹だった。
翌日、普通に学校はあり、教室に向かうと昨日の話題で教室があふれていた。
「なぁ!昨日のやつ!ニュースではデマとか言ってたけど、爆弾をロボットが食い止めたらしいぜ!」
「あぁなんか近所のおっさんがそれっぽいの見たって言ってたわ。白いロボみたいなやつ。」
そんな会話が耳に入りながらも、気にせず席に座る祐樹。
未だに罪悪感は消えず、曇った表情で窓を眺めていると
「ゆーーーうき!!」
机の前に座る男子生徒。
「おう雄二。風邪は治ったんか。」
「え?あ、あー!風邪ね!治った治った!!」
雄二を睨む祐樹。目をそらす雄二。
「お前、サボったな」
そう言われピクッとなる雄二。
「…はい…」
「ったく…。お前はな…!」
「でも祐樹昨日寂しそーにしてたんだよ!!」
横槍を入れてきたのはもちろん茜。
「は、はぁ!?お前何言って…!」
「もーん、祐樹くんったらツ・ン・デ・レ!」
「キャーーー!」
なんだこいつら…そんな表情を見せる祐樹。
「ていうか雄二、昨日大変だったんだよ!祐樹は私の携帯持ってどっかいくし!」
あっそうだった。と茜に携帯を渡すが睨まれる。
「いやぁ、みたいだねえ…寝てたわ…」
「お前自由だな」
そうこうしている内にチャイムが鳴り、いつもの生活に戻る。
これでいいんだ。これで。
そう自分に言い聞かせる祐樹だった。
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