第10話 それではみなさんごきげんよう。
◆ブログ休止のお知らせ。
(本文)
マリママブログをご愛読の皆さん、こんにちは。
マリママです。
この度一身上の都合でブログをお休みすることにしました。
楽しんでくださった方(っているのかな?)には申し訳ないんですが、夫と子供の安全のためそうすることに決めました。
漫画やブログでおうちのことがおろそかになっちゃって心苦しくなっちゃったこともあります。
短い期間でしたけど、とても楽しい経験でした。
それではまたどこかで会える日まで。
(コメント)
はあ。勝手に初めてかってにやめないでください。こんな中途半端でやめるなんて無責任にもほどがありますね。旦那様が可哀そうです。
(返信)
いつもありがとう。リザイアさんはいつもうちのゆーさんのことを気にかけてくれて優しいわね。それを素直に出せばいつか素敵な人に巡り合えますよ。頑張って。
……それを打ち込んだ瞬間、マーリエンヌのスマホが鳴り出した。見たこともない番号だったのでしばらく迷った末通話ボタンを押すと、ぎゃんぎゃんとリザイア(転生した今は門土みかどと名乗っていると雄馬から教えられた)は怒鳴りつけてきた。
「ネットに私の名前書き込むのやめてもらえますう? 全世界の人が見てるんですよおっ? 危機感ないんじゃないですかあ?」
「うん、だからそれを反省してブログはやめることにしたの。ところであなたのことリザイアさんって呼べばいいの? それともみかどちゃん? どっち?」
「どっちでもあんたにあたしの名前を呼ばれたくないんですけどお⁉」
一方的にそう言って通話は切れた。
『今のけたたましい電話の方はどなた? 姉様』
この前買った『分別と多感』を受け取りに来た妹のシルヴィリアが通信魔法ごしに尋ねる。
「んーと、えーと、友達……かしら?」
『あなたに名前を呼ばれたくないっと言っていたのが聞こえましたけれど、そういう方でも友達に数えますの? こちらでは?』
「うーん、言葉を素直に表現する術を学ぶ機会が無かった子なのよ……」
みかどが妻子を邪神のいけにえにしようとたくらんだ話を知った雄馬は、積もり積もったこともあり霊能者団体に正式に抗議に踏み切った。商売がやりにくくなるとかといったレベルの話ではない。
相応の恨みを買うのを覚悟して赴いたというのに、何故かいつもの不敵な態度を翻してしくしくと泣きながらみかどの方が謝ってきた。
「ごめんなさあい、私が悪かったんですう。前世の恨みつらみをどうしてもぶつけたくて火崎さんに甘えちゃったんですう……」
「うん、まあ俺も君とのことをまるっと忘れて申し訳なかったし……。リザイアさんだっけ? その節はごめんね」
「ううん、いいんです。だって私が本当に悪かったんですからあ。ですからまた一緒に仕事をしてくださいい。今度は意地悪もしません、心を入れ替えますう。ですからお願いですう」
背後の佐藤える子がへッと鼻で笑った気配がした。色々問題があるとはいえ女の子の幼気な涙にほだされかけた雄馬は慌てて気を引き締める。
「そういわれてもねえ、今までのことがあるから。君を仕事で呼ばなきゃいけないときはうちの妻を同行させる条件を飲んでもらいたいんだけどそれで構わない?」
「えっ……」
露骨に門土みかどの顔が嫌そうに歪む。える子が勝ち誇ったようににやりと笑うのが見える気がした。
「嫌なら、うちとの仕事の時は君じゃない別の方に来ていただきたいんだけど?」
「ううん、全然嫌じゃありませえん」
あわててみかどはぶんぶん首を振った。
そのあと、みかどは脈絡なくつけたす。
「あの火崎さん、私、あなたのことが好きなんです」
「? そっか。嬉しいよありがとう」
「っだよ、あんたのママ大ウソこいてんじゃん。何が素直になったらいい人が現れるだよ。適当こきやがって。はー、やってらんない。だからお嬢とかお姫さまって人種きらいだわ~。全世界のプリンセス呪い殺すスレでも立ててやろうかな」
緑山団地の空き家のソファで寝転がりながら門土みかどはスマホをいじりながらつぶやく。日向子はなぜかそのリビングで宿題をしていた。
「あたし思うんだけど、ママの言ういい人ってうちのパパのことじゃないと思うんだけど。ていうかあんたの倫理観どうなってんの? なんで既婚者に告白してフラれたことをその娘に愚痴ってんの? 意味わからないんだけど」
「仕方ないじゃない、愚痴る相手があんたしかいないんだもん。あたしホラ、女友達がいないキャラだし」
「だからって小5の女子に愚痴る? あんた確か今14だよね? そして前世からカウントしたらパパたちと同い年なんだよね。それなのに愚痴る相手が子供しかいないって相当寂しいよ? 自覚すれば?」
「うっさいな、どうして素敵な大人の女性と話し相手になれるくらい大人っぽいあたしって素直に調子づけないの、あんたは? そういうところが可愛くないわ~」
なんでこんなムカつくことを言われながらあたしはこいつと一緒にいるんだろう……と不思議に思う日向子だったが、最近の門土みかど(と呼んでいいのかリザイアと呼んでいいのかいまだに決めかねる)は、日向子の前ではあの語尾を伸ばしたべたべたした喋り方をしないので話しやすい。
「よくわかんないんだけどさあ、ほかの人にもあんたのそういう感じでしゃべればいいんじゃない?」
「は? 素のあたしのでって、誰の前でも全世界のプリンセス死ねっていう調子でしゃべるの? そんな性格クソブス女好きになる男ってそうとうやばいじゃん。あたしがやだ、そんなのと付き合うの」
あーもうコイツめんどくさいなあ! と日向子はため息をつく。どこが素敵な大人の女性だ。
「なー、日向子お、プリンセスアストレイアって超ムカつかねえ? 試しにこいつ血祭りにあげようかなあ。どう思う~?」
「その人の本、ママ持ってるよ。その本に載ってるレシピ超マズイのにママが参考にするので困ってる」
「マジか、それはいいこと聞いた。よっしじゃあコイツが生放送中のロケに出てる最中に強烈な尿意に襲われる呪いでもかけてやっかな」
日向子は一応やめた方がいいいよと止めておいた。もうちょっとほかのことでイキイキすればいいのに、門土みかどは(あ今自然に門土みかどって呼んでた、じゃあ今日からみかどって呼ぶことにしよう)。
「火崎さん、門土さんから告られたって本当すか?」
「西原君それだれから聞いたの?」
「佐藤さんから聞いたっすよぉ~。なんすかそれ、やっぱ火崎さんはモテの星の下に生まれたんすか」
「また人聞きの悪いことを言う……。まあ気の迷いみたいなもんでしょ。ああいうのは」
こうして火崎マーリエンヌによるブログで副収入を得ようというプロジェクトは頓挫したが日常は大きな目で見れば何事もなくゆっくりと回っていたのだった。
この連休にマーリエンヌは央太とその友達を引率して一泊のキャンプに連れて行き、大きな塊肉を見事に焼いて喝さいを浴びたのだった。
こういうのを写真に撮ってインスタにのせればいいのかしら、と脳裏に閃いたが実行に移すかどうかは未定である。
世界を救った勇者の妻である元異世界の王女が描いたほのぼのエッセイ四コマ漫画。 ピクルズジンジャー @amenotou
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