8.やっと元の世界に帰還する
振動と閃光と共に、伊海渡書店が元の世界に戻って来た。体感時間で三、四時間はあちらの世界にいたはずだが、時計の針はこの書店が異世界に旅立った時と同じ七時三分を示している。
「夢……だったのか?」
呟くおっさんに、美晴はにんまりと笑いながら、レジに収納されていた異世界のコインを見せる。
「夢じゃないと思いますけどね?」
「ふーむ……。元の時刻に立ち戻る魔法なのか……」
「とりあえず、こっちも閉店なんですけど、いいっすか?」
「ちょっと待ってくれ」
おっさんは二冊の小説を棚から抜き取ってレジに持ってくる。立ち読みしていた官能小説と新刊のSF小説だった。
「まだ会計できるかね?」
「特別っすよ」
美晴はレジを打ち、おっさんからお金を受け取る。
「うちの息子がね、私が若い頃に集めたSF小説を納めた棚を、最近漁っているらしいんだ。だから、久々にコレクションを増やしてやるのもいいかと思ってね」
「もう一冊の方はどうするんですか?」
「この本の良さがわかるには、アイツはまだ若過ぎる。これ用の書棚の鍵はまだ渡せないな」
「なるほど」
美晴はにっこり笑いながら二冊を伊海渡書店のロゴが印刷された紙袋に入れた。
「お待たせしました。またお越しください」
「どうもね」
おっさんは軽く手を振りながら、夜の街へと消えていった。
「さてと!」
美晴は勢いよく店のシャッターを下ろす。
「伊海渡書店、本日はこれにて閉店!」
日帰り漂流本屋 ~異世界でも営業中~ フミヅキ @fumizuki_f
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