セックスしないと出られない部屋の管理人なのですが……

枕目

本編

 「わかった! この部屋は……セックスしないと出られない部屋だ!」

 「はあ? なにそれ?」

 「この部屋に閉じ込められた人間は、セックスしないと部屋から出られないんだよ!」

 「ふざけるな!」

 17号室に閉じ込められた男女の会話が、私のいる監視室内にひびく。

 会話の内容は、おおむね私にとって聞き飽きたものだった。どうして多くの人々は、セックスしないと出られない部屋に閉じ込められるとこんな風にパターンにはまった反応を示すのだろう。

 私は手元のコンソールを操作し、17の部屋番号を入力し「室内放送C:肯定」のボタンを押した。


 ――ソノトオリ、デス、オフタリニハ、コレカラ、セックスヲシテモライマス。ソウシタラ、ヘヤカラ、デラレ、マス――


 17号室に女性的な合成音声がひびく。

 「ほら!」

 「はあ? だからなんでセックスしないといけないわけ?」

 やれやれ、わたしは「室内放送F:諦めをうながす」のボタンを押した。


 ――ソウイウ、ヘヤ、ダカラデス、アキラメテ、クダサイ――


 合成音声がひびく。

 17号室の女性はまだ文句を言っているが、わたしはそこで放送を打ち切った。だいたい部屋に閉じ込められた人間の反応というのはパターンが決まっている。

 彼ら彼女らは怒ったり、抗議したり、絶望したり、あきらめたり、パニックになったりするが、おおむね最終的にはセックスして部屋を出る。

 多くの場合、正体不明の白い部屋に無期限に閉じ込められるのに比べたら、一緒に閉じ込められた異性(あるいは同性、あるいは動物その他)とセックスする方がおおむねマシという結論に達するからだ。

 17号室の女性はまだ怒り続けているが、彼らもじきセックスすることだろう。

 そうしたらわたしは「0:セックス完了」ボタンを押し、彼らをこの人権侵害から救ってやるのである。その先、彼らが自分たちのささやかな貞節を失ったことについてどう思うかは、わたしの関与できることではない。


 今、わたしの目の前には、36個のモニタがある。

 それぞれのモニタは、36個の「セックスしないと出られない部屋」の室内カメラと対応している。

 それぞれのモニタには複数のカメラがつながっていて、周期的に画面が切り替わる。わたしひとりで36部屋のおよそ250個の監視カメラを見ることになり、これがわたしの仕事なのだった。

 そう「セックスしないと出られない部屋の管理人」だ。それがわたしだ。

 世の中には無数の管理者が存在する。

 エレベーターを監視する仕事があり、駐車場を管理する仕事がある。デパートを見張る仕事があり、カジノを見張る仕事があり、セックスしないと出られない部屋を見張る仕事もある。そういうことだ。

 どうして私がこんな仕事に就いたかについては、あまり私は多くを語ることはできない。

 ある日、とある警備会社の求人に応募した。しかし私は、その会社が求める警備員としての身体能力の基準に見合わなかった。

 そこの人事担当者に、べつの仕事ではあるが、とここを紹介されたのだ。ただ、それだけの話だった。


 この「セックスしないと出られない部屋」は、とある民間企業によって運営されている。

 部屋の利用者は、少なくない金を払ってその部屋を借り、そこに通常であればセックスしないと思われるカップルを入れ、必要に応じてセックスを監視するというわけである。

 利用者の素性は多岐にわたる……。重度の窃視愛好を抱えた経営者、自分が楽しむために他人にセックスさせる外国の富豪、セックスレスの息子夫婦を抱えた官僚、自分で入って楽しむ金持ちの息子、それからパルパル星人……。

 そう、パルパル星人だ……。


 パルパル星人、彼らが主要顧客である。

 パルパル星人は地球人のセックスという文化に興味を持ち、セックスしないと出られない部屋を利用して地球人のセックスについて調査しようとしている。

 パルパル星人は地球人にいくらか似た姿をしている炭素系知的生命体だが、その皮膚はえんぴつの芯のようなにぶい銀色をしていて、同じ色の剛毛に包まれている。

 彼らの星は地球によく似ているが、より電磁波が強く、そのせいで皮膚がそのように進化したらしい。

 そしてパルパル星人には、性別がない。

 彼らの星は有害な撹乱要因が強いため、細菌やウイルスのような生物は、極地をのぞいてあまり長時間生きられない。

 生物の「性別」というシステムは感染症に対する防御として生まれたという説がある……これが正しいかはともかく、パルパル星人は性別のシステムを持たずに知的生命として進化し、高度な文明を築いている。

 「パルッ! パルパルパルパルパルパル!」

 「パルパルパルパル!」

 「パルパル」

 わたしの背後でパルパル星人たちが騒ぎ出した。

 モニタに視線を戻すと、17号室のカップルがあきらめてセックスを始めていた。さいきんの若者はあきらめが早い。

 「パルパルパルパルッ!」

 「パルパルッパルパルッ」

 「パルパル!」

 セックスを観測してパルパル星人たちが騒いでいる。彼らの言語は人間に聞くことのできない音域にまたがっていて完全には聞こえないが、聞こえる部分もあり、パルパルと聞こえる。

 「ううっ! 出そうだ!」

 「パルパルッ? パル、パルパル!」

 「ああん! いやあ!」

 「パルパルッパルパルッ!」

 うるさい。

 他人のセックスの声だけでもうるさいのに、パルパル星人の宇宙言語学者がそれをいちいち統一パルパル語に翻訳するので、本当にうるさい。

 「ああっ、あー」

 「パルパルッパルパルパルパルッ」

 「いやあああ」

 「パルパルパルパルパルパル」

 うるさいッ。

 心の中で怒鳴る。

 しかし、パルパル星人の気分を害するわけにはいかない。

 パルパル星人は金払いがいい。上顧客なのだ。パルパル星人が一回地球人のセックスを見るたびに、パルパル星から地球に対しておよそ1500メガエナジークレジット支払われる。

 1メガエナジークレジットが、およそニューヨークの一ヶ月ぶんの消費電力と等価だということを考えれば、多少うるさいぐらいなんだというのか。

 30000メガエナジークレジットほどあれば、パルパル星人の星間テレポートゲートを借りることすら可能だ。

 そしてパルパル星人のもたらす進んだ知識……大規模物質転送、ワームホール炉、反物質物理、ホロ宇宙論……それがどれほど地球にとって利益か考えれば……。

 「パルパルッ! パルパルッ!」

 「パルパルパルパル!」

 多少うるさいぐらいなんだというのか。

 この大宇宙で、地球は弱小の文明にすぎない。

 たとえパルパルうるさくても、われわれにはパルパル星人の力が必要なのだ!

 セックスしないと出られない部屋が、この地球の命運をかけた交易で、パルパル星人に差し出せる唯一のものだとは……。

 わたしはため息をつきながら、セックス完了のボタンを押した。


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