戦友と鍛錬

少し時間が経って、死体も何事もなかったかのように処理された。なんとか平常心を取り戻した訓練生らは、次第にコミュニケーションを取り合えるまでに回復した。


「あの…」

突然、か細い声で話しかけられた。振り返ると、自分より一回り小さな女の子が立っていた。首の後ろで一本結びになって、腰まで伸びている黒髪と白い肌のコントラストが印象的に感じられた。

「よかった…同年代の女の子がいて…」

彼女はそう言ってカイラに微笑んでみせた。彼女の浅葱色の目が嬉し涙で潤んでいた。

「ここ女の子がほとんどいないみたいで…一人だけだったらどうしようかと…」

「そっか…カイラです、取り敢えずよろしく。」

「はい!よろしくお願いします!」

「まだ小さいのにどうしてここに?」

「風邪が重症になって精密検査を受けたんですが、退院すると同時にここに勧誘されて…」

「そっか…病院にまで手が回るならやっぱりかなり規模の大きい団体みたいだね…」


「何か話すみたいですよ」

ユーナの向いた教卓の方を見ると、訓練生の内の2人が立っていた。

オールバックの赤い髪の青年そして白赤黒のボサボサの髪が入り交じった女の子。

赤髪の青年が話し始める。

「遅ればせながら。サイト11にようこそ。ここはアメリカ中西部にある財団の施設、サイト11だ。そして俺はアーロンで、隣のがオリだ。」

「よろしく〜」

「俺達は勧誘、拉致されて此処に来たのではなく、Dクラス職員上がりなんだ。Dクラス職員ってのは財団に労働力とか人体実験用に世界中から連れてこられた無期懲役の囚人のこと。」


…そこらの団体では死刑囚を、それも世界中から補充するなんてことはできない。財団は明らかに国連レベル、陰謀論で言われるような権力を持っている。カイラは改めてここの異常性に身震いした。


「俺達は今まで複数のアノマリー、つまるところオカルトな超常存在に会ってきた。現実改変者は会ったことないが、皆に教えられることも多いと思う。」

「話だと明日からもう訓練が始まるそうだ。今日講義をしてくれたトロイ博士が指導員として動いてくれるらしい。あの博士はただのやせ形メガネじゃないぞ…見くびることはないようにすることをお薦めする。」

「僕らからは以上。これからこのセクターを案内するから、希望者はついてくるといい。」


元死刑囚とは思えないほどの軍人のような統制された言動を見て、カイラはここでの生活が思いやられた。

「…体育会系は苦手だなぁ…」

「…いやそんなぬるいものじゃないと思いますよ…?」




カイラ達はセクターの見学の後、寮へ移動した。


「あれ、皆とフロア違くない?」

「ホントですね…B3って…地下やだなぁ」

エレベーターの表示がB3の文字を写すと同時に扉は開いた。廊下はカーペットこそ敷いてあるものの薄暗く、無機質に感じられた。

「なんか出そうかもですね…」

ユーナが何かの拳法の構えをする。

カイラはユーナが怯えることなく好戦的なのに驚いた。それは後にカイラがユーナの膝の震えでカーペットを揺れているのに気づくことで否定されたが。


「ここみたいですね」

ユーナが監視室のもう一つ奥の部屋を指さして言った。

「あれ…カイラさん見てください、3人部屋です、ここ」

「誰かもういるのかな…?」

二人で恐る恐るドアを開く。

暗いままの部屋の電気をつけると、


「! まぶっ!」

二段ベッドがゆさゆさと揺れ、下の布団からよく分からない反応をしながらカイラと同じほどの年の女の子?が出てきた。

ユーナの驚き暴れるのを抑えながら見ると、そこで寝ていたのは先ほど壇上で黙って立っていた、女の子だった。

「あなた…もここの部屋なんですか…?」

「そ〜だよ…一人で好き勝手できてたのにぃ〜…」

まだ眩しいのか、彼女はパジャマの袖で顔を隠しながら答える。

寝癖もついて一層ボサボサになった髪は黒赤白が綺麗に入り交じって、照明の光に照らされていた。


「…というわけで、オリだよ〜」

「「よ、よろしくおねがいします」」

「…オリさんも…元囚人だったんですか?」

「ん〜まぁ〜」

オリはなんてことなさそうに答える。

「でもこうやって訓練生になれてるんよ、昇進なんてこの10年なかったことだし、結構エリートなんだよ〜」

オリが腕を腰に当てて胸を張る。

…10年もここにいるのか?オリはまだ未成年なように見えた。

「…オリさん今いくつですか?」

「18~あと敬語じゃなくていいよ〜」

…8歳の死刑囚なんているのだろうか。カイラには疑念しかなかったが、オリの不思議な雰囲気や目に見えない圧がオリの壮絶な過去によるものと思うと、なんだか納得できるような気がしてしまった。


「みんなもう寝ようか〜明日からきついぞ〜」

言われるがまま支度をしてベッドの中に入る。


ユーナはすぐ寝てしまったようだが、私はなかなか寝付けないでいた。そんな時、もう1人の同居人と目が合った。


「…オリさん」

「オリちゃんって呼んでよ〜」

「…ここに来てから数日経ちますが、寝る前はいつも嫌な思い出を思い出すんです。ここに来る前の…。」

「ここに来てる奴なんか大体何かしらを捨てて来てるよ~。現実改変者に色々されたからこそ、任務もしやすいだろうしさ~。私だって…いや、なんでもないや」

「…?うん… でも確かに…私だけくよくよしててもしょうがないですよね…!決めました!私立派になって戦います!もうこれ以上他の人をこんな気持ちに、同じ境遇にさせないために!」

カイラが覚悟を決めた頃、部屋のデジタル時計は0時を告げ、そして総工程所要800日の集中訓練が始まった。

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リアリティ・ベンド 篠(しの) @-Shino-

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