講義と余興

「それじゃあ、ヒューム値について説明しよう。まずヒュームとは生物、物体、あるいは場所そのもので計測できる……、なんというかな、「現実性の強さ」、「現実味を持たせようとする力」……

あるいは「物事はこういうものだと押し付ける力」を表すものだ。人が空を飛べず、地球が丸いこの通常の現実のヒューム値は1で、数値が下がれば下がるほどその世界は現実味をなくしていく。高い数値のモノはより低い数値のモノに対して自分のヒュームを流し込んで自分の理想の現実を押し付け、「改変」することができる。

まぁこの数値が変わることなんてないんだから必要ない…と思われがちだが、実際にはそういう存在が確認されている。

━━自らのヒュームを上げ、周囲のヒュームを下げられる者たち:「現実改変者」。


奴らは自分の妄想で社会を思い通りにできる害悪チーターだ。

ここで何故君たちが現実改変者の担当になったかという疑問が解消される。

君たちの元々のヒューム値は1ではない。事前の計測により広い範囲だが1を大きく超える数値が出た。ヒューム値が高いことは現実改変の効果が薄いことを意味する。つまり全員うってつけな訳だ。

まぁともかく、これからはそういう身勝手お子様神様共を夢から醒まさせるのが、

俺達の仕事って訳だ。」


講義の中、カイラはその灰緑色の瞳を虚ろにさせては退屈な机の模様を眺めていた。

カイラは処理によってここに連れられて来るまでの、特にカイラが受けた痛み、傷の記憶が曖昧になっていたが、シャーロットの存在を全て忘れ去ることはなかった。


周りを見渡すと、一緒に話を聞いている者も皆揃って不安な顔をしていた。

「皆似たようなことがあったのかな…」そう思うとカイラは少し落ち着けた。

彼らの不安の一つに、彼らは自分達がどこにいるのかを正確に把握していないことがある。


 彼らが唯一得ている情報は、ここが「財団」と呼ばれる、世界的に暗躍する所謂「オカルトなモノ」から人類の生命、文明を守る集団の施設だということ。そして彼らはその「オカルトなモノ」の研究、収容においての重要な力が見受けられたエージェント候補生であり、現在は機動部隊でのの為の講義を受けているところだった。


「では次は現実改変者への対処法だ。さて、こんなチーターに対処するにはどうするかだが…」


突然ショットガンの銃声が響いた。


目を急いで開くと、最前列で講習を受けていた訓練生の頭と胴が木っ端微塵に吹き飛び、

彼の後ろの訓練生に扮した職員二人と講義をしていた教授の手にはセミオート式のショットガンが握られていた。


即座に悲鳴があがったが、それを気にすることなく職員が清掃を始めた。

「落ち着いて。席は立たないように。鎮静剤が散布されてるから」

少し時間が経つと、鎮静剤の効果あってか、訓練生達の声は不自然なほど急激に収まっていく。


「奴は以前から我々が追っていた現実改変者だ。我々の記憶を改変して訓練生として潜入していた。君たちの寮の357号室だけ4人部屋なのに5人割り振られていたのも奴の仕業だ。」


「このように、現実改変者の対処には相手に気付かせないよう不意を突き、かつ一瞬で脳と心臓部を破壊する必要がある。なんたって奴らは思考するその一瞬でこちらの存在を消せるのだから。少しでも躊躇ったら手遅れになる。」

「奴らは認識を狂わせ事物を捻じ曲げ妄想を形にする。財団はこの有害物質を研究対象とする気はない。冷静に、冷酷に始末しろ。  講習は以上とします。」


奇妙な程の静けさと鎮静剤の匂いの漂う講堂で、唖然とする若きエージェント達が自分達の行き先が如何にヤバいところであるかに気づくのには、もう少し時間が必要だった。

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