狂気と諦観

 シャーロットが低い声で何か呟いている間にカイラは声を出せるまでの落ち着きを取り戻すことができた。カイラは変に冷静な自分が不思議だった。いや、それより狂人と化したシャーロットが不思議で恐ろしかった。

「予想こそしていたが…何故、、何故? 何故ここまでして死なない!? 全て胴体を狙ったのに…どうして改変が効き切らない、?」

「何言ってんだよ…!おい…シャーラ…?」

「黙れよ!」

近くの建設現場から鋼板を貫通して鉄パイプが現れた。誰にも触れられることなく動き出したそれはカイラの心臓目掛けて矢の如く真っ直ぐに飛んできたのだ。

カイラが死を悟ると同時に、鉄パイプの心臓への直線軌道は逸れ、カイラの左肩を抉るように貫いた。

カイラはとうとう悲鳴を抑えられなかった。こんなに大きな声を出すことも今までなかっただろう。

「また死ななかった…!どういうヒュームしてんだよお前!致命傷だけ防ぎやがって!」

カイラの頭の中でシャーラの怒号が響く。

「…ヒューム…?」

「…あたしには周囲をほぼ思い通りに改変できる能力がある。あたしはクラス全員の私に対する印象を操作して、実質的な支配下に置いた。万引きさせてみたり、自傷させてみたりと実験していたが、ジョーとお前は次第に意識改変の効果が薄くなってった。ヒュームは高い所から低い所へ流れていく。正常なお前らがいることでクラスの意識改変が解ける可能性があった。」

「シャーラ…だからって親友を殺すのか…?人の域じゃないよ…」

「違うな。幼馴染も親友もあたしが作った設定だ。まぁ改変耐性で弱まっているだろうと思うけど。」

カイラはもう全てが信じられなかった。今までの16年間、シャーラの演技に強制的に騙されてきたという事実はこの人生を捨てるに十分すぎるほどだった。

「…いい。もう殺さなくていい。自分で死ねる。」

尖った断面の鉄パイプの前に立って、重心を前に。

全身の力を抜いて倒れ始めたその瞬間。

 何重もの発砲音。カイラが死ぬまでの一瞬にシャーロットの身体は大量の血と細切れの肉片に変わり果てた。

強すぎる刺激に精神が耐えられなくなったその時、カイラは後ろの誰かに引き戻された。

「我々は財団の機動部隊。人類文明を守る者です。あの現実改変者は自分の顔と回りの記憶を改変して整形を行っていて、データベースとの照合で発見されました。忘れたいこともあるでしょうし、命が惜しくないようなら、我々と共に来るといいでしょう。」

そう言って重装備の男は注射器を取り出して、私は抵抗できないまま意識を失った。

「…それにしても今日はツイてなかったみたいですね…。」


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