肉ってなに?肉厚な日曜日

ひょろながそうちゃん

第1話 読書という聖戦(食品)2017.9.10限り

なまぐちナマのすけは、またもコスト対策で図書館にいた。


先日図書館で、歌も美術もやるあの作家の小説を借りた。どこか丸みのある文体に誘われ読み始めたが、作家の自意識というか野心みたいなものの奔流が、1ページ目からおびただしく紙を埋め尽くしている気がして、さっそく興ざめして、99パーセントぐらい放棄して返却した。


そして閉館直前の18:55ぐらいに、あわてふためいたナマのすけは、返却直後の本が置かれたラックから、あの世界的な人気作家のベストセラーの小説を見つけた。


これまで幾度となく彼の作品に挑み、毎回挫折してきたが、今日は時間も取れそうなので、むしろどこがイヤなのかを分析しようと思い、その1冊だけ借りることにした。


帰宅し早速最初のページに目を落とした。9・98秒ぐらいは経っただろうか。

今日のように時間があろうとなかろうと、いかんせんどうにも鼻についてしまう。

ただのスカした文字の並びにしか見えてこない!

本来「スカした文字」というのは、「字体」のことを指す以外にあり得ないのだけど

嫌悪感がもうそのレベルに達しているのだ。まったく、印刷した人の気にもなれ!


「ふざけんじゃねえよコレ、どんな奴が読んでんだ?」


というフレーズを脳内でループ再生しながらその少しべたついたハードカバーの小説をランダムに開いては閉じ、また開いては閉じ、という動作を繰り返した。

まるで「鼻につく箇所を分析するのもしゃくだ」という怒りに耐える拷問を自らに課しているかのようだった。それでも歯を食いしばって血の混じった唾液をすすりながら吐き気に耐えつつ中身(文の連なり)まで読んでみると、

「もう逆に線香クサいわ」とでもツッコみたくなる、白いもっこりチノパン臭というか、輸入物が多めのインテリジェンスと、襟シャツロックンロールの香り。洒脱な会話でさらりとセックスする仲になった男女。いい思い出じゃないの、とアメリカ産の煙草を吹かす・・虚ろに点滅するネオンがまぶしい・・みたいな。って、何度挑んでも全然読めないから、今でもその辺りの雑なイメージで固まってるらしい。

そして彼はやはり再び本を閉じてしまい、最近仲間がしきりに話題に出す最新のインドの瞑想方式で目をつぶりながら、


「きっと、彼の作品にはもっと政治的な意見やメッセージだったり宗教や哲学や現代社会への深い考察も織り込まれてるはずなのに・・・。そういうところまで読み込まないで怠けてる俺が悪いんだ!弱い俺だ!」


とカツを入れてみた。そして本のことはすっかり忘れ、立ち上がると、


「アーティストというのはどれだけ無知で未熟であろうとも、今までの知識と経験をもとに今ある実力を発揮して、自らのたぎるような思いを、血なまぐさく脈打った肉片のごとくをえぐり取って、『世間』という、手厳しくてくっだらない白壁に

力いっぱい叩きつけるしかないんだよ!野球のキャッチボールすらとんでもなく下手だけどさ。クロールの息継ぎだってブザマなぐらいにままならない!水に顔をつけ続けるのが怖くてたまらないし、鼻に水が入ってくるとちょっとしたパニックになるからね!」


と天井の低いキッチンで大演説を始めていた。


そんなどんくさくて弱虫のなまのすけだけど、時代と世間の荒波をサバイブしていってほしいな。コカ・コーラの細長い250ml缶を片手に、カブリオレに乗ってさ!


「あの本、頑張って読むぞ!」

(9月12日現在、ランダムな1ページをも読み切ることはできていない)





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

肉ってなに?肉厚な日曜日 ひょろながそうちゃん @buriyama

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ