ハロウィンは終わらない

木野々ライ

10月31日

 運命は残酷だ。人間ごときがどう足掻いても、変えることはできない。

 だけど、人間はどこまでも愚かな生き物だから。無駄だと分かっていても、運命に抗おうとするのだ。

 

 

 

 視界が真っ赤になった。周りに、さっきまで人だったものが血肉となって散乱する。何これ、何が起きたの? 頭が回らない、体が言うことを聞かない、息が上手く出来ない。誰かが私の名前を呼ぶ。答えようと声を出そうとするが、上手く発することが出来ない。目の前に、ぐちゃぐちゃに潰れた腕がだらりと落ちていることに気付く。ふと、自分の腕に目をやると、そこに腕はなかった。これは、もしかして私の……?

 次の瞬間、頭に大きな衝撃が走った。

 

 

 ジリリリリリリリリリリリリ……


 

 

「……あれ?」

 そこは、自分の部屋だった。枕元の目覚まし時計が鳴り響き、朝だということを伝えている。私はというと寝相が悪かったのか、ベッドから落ちて床で寝ていた。

「……何か朝から変な夢見たなー」

 さっきまで見ていたはずのその夢は、すでにどんなものだったのか覚えていない。けれど、嫌に奇妙な夢だったのは確かなんだけど……。

「おーい、まり? まーりー!」

 外から聞き慣れた声がする。窓から覗くとそこには予想通りの人物がこちらに手を振っている。

「れー?」

「はーい。あなたの幼なじみのれーこと、いーまーもーれーな。今茂玲奈いまもれなでーす。そんなあなたは?」

「えー私はまりこと、とーつーのーまーりーあ。戸津野真愛とつのまりあでーす! ……じゃないよ、朝からどうしたの?」

「呼びに来たんだよ。今日早く行こうって約束したじゃん」

「今日……?」

 カレンダーを見る。今日は確か10月31日。めっちゃ花丸になってる。そりゃあ今日ハロウィンだもんねー。……あれ、ハロウィン?

「あー! ハロウィン祭!」

「やっと目が覚めたー? とっとと準備して来てー」

 早く早くと急かすれーの声をBGMに、私は急いで着替え始める。夢のことは、頭から抜け落ちていた。

 

 私達の通っている高校には、10月最後の土曜日にハロウィン祭というものがある。文化祭とは違って、生徒が必ず参加するわけではない。基本的には先生やPTA、さらには近くに住む一般の人などが要らないものを売り、その売り上げを寄付する。所謂バザーのようなイベントだ。私達生徒は金銭が絡むため売買は出来ないが、文化部を中心に様々な団体が出し物をしている。ついでに出店もあるからバザーというよりはお祭りみたいなものだ。わざわざハロウィンにやる必要性があるのかは疑問だが結構有名なイベントとして知られているようで、毎年たくさんの人がこの日に訪れる。その理由として、このイベントの最大の特徴である仮装しての参加が認められているところだろう。毎年たくさんの仮装者が学校内、学校周辺に集まる姿は結構壮観だ。ちなみに生徒限定参加の仮装コンテストもあるためガチで衣装を用意したりメイクアップをする人が多かったりする。特に私達演劇部の先輩は今年本気で優勝を狙っているとか。

 そんな訳でこの日は無理に行かなくてもいいのだが、演劇部は毎年公演があるために行かなくてはならない。まあ、このイベントかなり楽しいからどのみち行くのだけれど。私とれーは今回大道具担当だったため劇には出ないが、折角だから早く行って部室で何か衣装借りようと約束していたのだ。演劇部員はこの日だけ自由に部室にある衣装を借りれる特権があるから、これを利用しない手はない。着たい衣装を取られる前に取らねば……! と、意気込んでいたにも関わらず見事に寝坊をした私はバカだ。いつもよりかなり早く学校に着いたが、予定より遅くなってしまった。

「おはようございます!」

「おはよーございまーす」

 すでに誰か居るようで、ドアには鍵がかかってない。部室のドアを勢いよく開けると、知っている顔が居た。

「二人とも、おはよう」

「あ、もか。早いねー、生徒会?」

「そうなの。朝から雑用ばっかりしてたよ」

「生徒が主催するイベントじゃないのに仕事って……。もかにゃんお疲れ様」

 ありがとう、と笑うのは中学からの同級生で同じ演劇部員の大呂おおろいもかな。私はもかにゃんと呼んでいる。生徒会の副会長もしている彼女はいつも忙しそうにしていて、今日もすでに疲れが見える。

「無理はしないでねー。もか、気付いたら倒れそうだもん」

「今は休憩中だから大丈夫。やっぱり部室は落ち着くね」

「あー、確かに何か安心感があるよね」

「二人は今日、仮装するの?」

「もちろん。そのために早く来たからね!」

「まりが寝坊したから予定より遅くなったけどね」

「ごめんってば……」

「相変わらず仲がいいねー」

 そう言ってニコニコ笑うもかにゃんは制服のままだ。聞いてみると、生徒会が忙しいから仮装はしないらしい。折角演劇部なのに勿体無い気はするが、こればっかりはしょうがない。結局私達だけで部室を物色し、私がドラキュラ、れーが狼男(狼女)にすることにした。

「じゃあ更衣室に行くかー」

「そうだね。もかにゃんはこれからどうするの?」

「他の人が来たら仕事に戻るよ」

「お疲れー。頑張ってー」

「もかにゃんファイト! じゃあまた―」

「二人とも」

 突然声を遮り、真剣な眼差しを私達に向ける。その視線に思わず背筋を伸ばすと、もかにゃんが口を開いた。

「屋上には行っちゃダメだよ?」

「「……へ?」」

「ほら、危ないでしょ? 二人ならふらーっと行っちゃいそうだし」

「……それだけ?」

「うん」

「びっくりしたー。もかにゃん、急に真剣な顔になるから何かと思ったよ……」

「えへへ、ごめんね。じゃあ会えたらまた後で」

「うん、またねー」

 突然びっくりしたが、もかにゃんは心配症だからわざわざ言ったのだろう。言葉を心の片隅に留めながら、れーと共に更衣室へ向かう。

 私達を見つめるもかにゃんの視線には気づかなかった。

 

 

「古着要りませんかー? 大人用から子供用まで何でもありますよー」

「カボチャのクッキー売ってまーす。ぜひ一つ食べてみませんかー?」

「15分後に仮装コンテストが始まります! 今年もクオリティが高いですよー。特設ステージにてお待ちしていまーす!」

 様々な声が飛び交う中、私達は店を物色し、お菓子を買って特設ステージへと向かっていた。無駄に広い校庭には、ここの生徒や他校の生徒、お年寄りから親子連れまでたくさんの人で賑わっている。今も近くでおばけの仮装をした子供たちが走り回っている。

「子供って元気だねー」

「れー、なんかおばさんみたい」

「うるさいなー。……あっ」

「ありゃりゃ……」

 石にでも躓いたのだろうか。目の前を走っていた男の子が派手に転んでしまった。すぐに起き上がったものの、所々掠り傷が出来てしまったようだ。親は近くに居ないようだし、見て見ぬふりもなんだか申し訳ない。れーの方を見ると同じ考えのようで、小さく頷くと、大丈夫かどうか近くに行ってみる。

「君、大丈夫ー?」

「怪我、痛くない?」

 その場で座り込んでいた男の子は、きょとんとした様子で此方を見ると

「わー! おおかみとドラキュラだー! にげろー!」

 と叫ぶと、そのまま走り去ってしまった。ひんやりした空気が辺りを包む。……なんだろう、この何とも言えない虚無感は。

「……全然大丈夫そうだねー」

「……子供って元気だね」

「まり、さっき私のことおばさんみたいって言ってたくせに」

「いやだって今の見たらね……」

 見た目からして多分、小学校低学年くらいの子だと思われるが、そのくらいになるともうやんちゃ坊主真っ盛りなのだろうか。恐るべし、小学生。

 下らないことを悶々と考えていると、れーが何処かをじっと見つめていることに気付いた。視線を追うと、そこには小学校低学年くらいの女の子が二人。ピンクと水色で色違いの魔女の仮装をしている二人は特に何かする様子もなく、日陰にただただ立っていた。

「れー、あの子達がどうかしたの?」

「いや、何かずっとあそこにいるから迷子かなーって」

「確かに……。話しかけてみる?」

「うーん……」

「どうしたの?」

「さっきのことがあって話しかけにくい」

「あぁ、納得」

 女の子だし、さっきみたいなことにはならないと思うが、何となく自ら話しかけに行く気が失せてしまった。

「まぁ、大丈夫じゃない? 単に親を待ってるだけかもしれないし」

「だよねー。うん、大丈夫。多分、きっと、もしかして」

「れー、不確か過ぎるよ……」

「「ねぇねぇ」」

「「……え?」」

 いつからいたのだろう。先程まで日陰にいたはずの二人がすぐ横に立っている。近くで見るとまったく同じ顔立ちをしていることから双子のようだ。てか待って、すごいかわいい! ピンクと水色で色違いって時点でかわいいなー、と思ってたけど双子なことでかわいさ上がってる!

「「お姉さん?」」

「まりー……」

 いかん、思わず見つめすぎてしまった。

「あ、ごめんね。それでどうしたの?」

「別に用はないよ!」

「さっきからずっと見てくるから何かと思って」

「あー、君たちずっと二人だけでいるから迷子なのかなーって」

「親はいないよ!」

「二人で来たからね」

「二人だけで? 近所に住んでるの?」

「「まーねー」」

 なるほど、だったら納得した。近所なら子供二人だけでも大丈夫だろうし、私達が何かする必要はないだろう。

「ところでさ!」

「聞きたいことがあるんだけど」

「ん、なーに?」

「困ったことでもある?」

「お姉さん達は」

「今が楽しい?」

「「……へ?」」

 なぜそんなことを聞くのだろう。何か不幸そうな顔してただろうか? れーも不思議そうに首を傾げている。とりあえず私はニッコリ笑って返事をした。

「うん、とっても楽しいよ!」

「平和だしねー」

「「ふーん」」

 双子は顔を見合わせてこそこそ話をしている。……どうしたんだろ?

「じゃあ注意してねお姉さん!」

 ピンクの魔女の女の子が無邪気に笑う。

「今の幸せを壊したくないならね?」

 水色の魔女の女の子が冷静に呟く。双子はそれぞれそう言うと、「「ばいばーい」」と言って何処かへ行ってしまった。……何だったんだ?

「気を付けるって何に?」

「うーん……。屋上に行かないとか?」

「あー、もかにも注意されたしね」

「……そんなに危なっかしいかな、私達」

「分かんなーい」

 とりあえず結論として、最近の小学生はすごい、ということに落ち着いた。

「仮装コンテスト、まもなく開催いたしまーす!」

「あ、始まっちゃう! 先輩の応援行かなきゃ!」

「急げ急げー」

 いつの間にか仮装コンテストが始まる時間になっていたらしい。私達は大慌てで特設ステージまで走った。

 

 

 

「先輩残念だったねー」

「確か去年も準優勝だったよね」

「まさかのダークホース、生徒会長」

「仕事しなよ……」

 仮装コンテストも無事終了し、日が暮れ始めた頃。ハロウィン祭も終了の時刻を迎えていた。すでにほとんどの団体は店を片付け始め、来場者や生徒たちも少しずつ減り始めていた。

「あっという間だったねー」

「楽しい時間ほど早く終わっちゃうからね」

「まり、どうする? 私たちも帰る?」

「うーん……ちょっと行きたい場所があるんだよね」

「どこ?」

「屋上」

「……はい?」

 流石にれーもびっくりした顔を見せる。まあ、行かないようにしようと決めていたのに行こうと言い出すんだから驚きもするだろう。

「いや、今日すっごい夕日が綺麗じゃん? 折角だから屋上から見たいなーって」

「もかに行かないでねって言われたのに、まりって奴は……」

「だって行くなって言われると行きたくなるのが人間の心理じゃん! れーもそうでしょ!」

「まー気になりはするけどね……。じゃあバレないようにパッと行ってパッと戻ろー。それでいい?」

「やったー! れーなら来てくれるって信じてたよ!」

 もかにゃんには申し訳ないが、ちょっと行くだけなら問題ないだろう。いや、本当は屋上の立ち入り禁止だからダメなのだけれど、普段から生徒がこっそり侵入しているから大丈夫だろう。説得力の無い根拠を頭に浮かべながら、れーと校内へ向かう。校内には、吹奏楽部や軽音楽部が楽器の片付けていたり、先生やPTAの人たちが物の移動をしたりと、まだたくさんの人が辺りに密集していた。幸いにも自分たちの作業に必死のようで、こちらには気付いていない。その隙にこそこそ階段を登り、屋上に続くドアの前までたどり着いた。そのままドアノブを捻り、ドアを開け……。

「……あれ?」

「どーしたの?」

「開かない」

「鍵掛かってるんじゃないの?」

「いや、ここの鍵穴壊れててドアは開けっ放しのはず……。何というか、ドアが固定されているような……」

 ガチャガチャガチャガチャ……バキッ

「あっ」

「あーらら」

 あまりにも開かないものだから乱暴にドアノブを扱った結果、見事にドアノブが取れた。

「まーりー」

「私じゃないよーーー! 元々古かったからだよーーー!」

「とどめを刺したのはまなでしょー」

「あうう……」

 ドアノブが取れたら、もうドアは開かない。屋上にも行けなくなったので仕方なく、れーと階段を下った。取れたドアノブは端にこっそり置いといた。

 

「あーーー。もかにゃんの言う通りにすればよかったーーー」

「まあまあ、バレないでしょ。大丈夫だってー多分」

「きっと?」

「もしかしてー」

「不確かすぎるんだってばー……」

 数分前の自分の行動を呪いながら更衣室で着替えを済ませる。意外に時間が経っていたのか、ほとんどみんな帰ってしまったようで、校内は静まり返っていた。

「部室に誰かいるかなー」

「流石にもう誰もいないんじゃ……って、あれ演劇部の部室だよね? 明かり点いているけど」

「んー? ……本当だ、こんな時間に誰だろう?」

 人一人いない部室棟。その一番左端だけが明るく光っている。そこは確かに演劇部の部室で間違いない。そーっと開けてみると、朝会ったときと同じ人物が立っていた。

「もかにゃん?」

「あ、二人ともいたー」

「こんな遅くまで生徒会だったの?」

「そうそう。さっき終わったんだけど、まだ二人ともいるかなーっと思って来たんだー。一緒に帰ろう」

「もちろん! 帰ろ帰ろ!」

「今衣装仕舞うねー」

 元あった場所に衣装を戻す。が、何故か違和感を覚える。衣装がある場所の横に、妙な隙間があるのだ。記憶を辿ると、確かここにはノコギリや金槌など、大道具で使う工具が置いてあったはずだ。

「ねえ、ここにあった工具ってどこ行ったの?」

「んー? 本当だ、無くなってるねー」

「ああ、それなら大道具と一緒に纏めるからってことでここにあるよ」

 そう言ってもかにゃんが少し体をずらすと、今制作中の大道具に混じってたくさんの工具が纏められていた。

「本当だー。でも昨日はここにあったのに、いつの間に動かしたのかな?」

「私が朝、二人が来る前に動かしたの。休憩ついでにねー。気づかなかった?」

「全然気づかなかったー」

「てかもかにゃん、それ休んでないから」

 あはは、と笑うもかにゃんの顔は、かなり疲弊しているように見える。このままじゃいつか倒れるんじゃないかと心配だ。とりあえず早く帰ろうと促し、部室を後にした。

 職員室に鍵を返した後、時刻は6時を過ぎていた。この時期だともう辺りは暗い。他愛もない話をしながら正門へ向かっていると校庭の方、もっと言えば、特設ステージの方から小さい光が見えた……ような気がした。気になってふらーっとそっちへ行こうとすると、もかにゃんに手を捕まれる。

「まりちゃん、どこ行くの?」

「いや、あっちの方で何か光ってた気がしたから気になって。ちょっと行ってみない?」

「でも暗くて危ないし、もう帰ろう?」

「えー、でも気になるしちょっとだけ……」

「お願い、帰ろう」

 苦しそうな表情で、懇願するように、こちらを見る。何だか今日、もかにゃんの様子が可笑しい気がする。疲れからなのか、はたまた別の理由なのか、分からない。

 ふと、私は何故か、この表情を前に見たことある。そんな気がした。何度も、何度も、この表情を、どこかで……。

「……まり、もう帰ろう。もかの言う通り、今日はもう暗くて危ないよ」

「そ、そうだね。じゃあ、帰ろっか」

「……うん」

 心の底から安心したような笑顔。この顔も、見たことがある気がする。私は何故だか、無性に泣きたくなった。

 

 それからの帰り道も、もかにゃんの様子は可笑しかった。いや、別に突拍子もないことをしている訳ではない。可笑しい、というよりも不思議と言った方が正しいのだろうか。いつも近道である橋を渡って帰るところを、少し遠回りして別の道から行こうと言ったり。駅のホームで何故かずっと手を繋いで、というより腕を組んでいたり。最寄り駅についた後、必死に特定の場所から遠ざけようとしたり。流石に不審に思い、どうしたのかと聞いてみたが「何でもないよ」の一点張り。深く追及しようとしても、もかにゃんの切羽詰まった様子を見て話を切り込めず、もやもやしたまま家に着いた。

「じゃあ、また月曜日」

「うん……」

「もか、本当に大丈夫ー?」

「私は大丈夫。……二人とも、今日はもう家から出ちゃダメだよ?」

「へっ? まあ別に出る予定は無いけど……何で?」

「危ないからだってば。分かった?」

「……はーい。じゃあ、また月曜日!」

「じゃーねー」

「バイバイ。あ、れーちゃんの家まで一緒に行こう」

「別に大丈夫なんだけどなー。まあ一緒に帰ろうかー」

 ……何か、もう深く考えない方がいいのもしれない。元々もかにゃんは心配性だし、たまたま今日それが全面に出てるだけかもしれない。そう思うことにして、私は家の中へ入った。

 

「疲れたー。でも楽しかったー!」

 帰ってそのままベッドに向かって倒れる。少し不思議なこともあったが、なかなか楽しいハロウィン祭だった。そういえば、まだハロウィン祭で買ったクッキーが残っていたはずだ。夕飯前だけど食べてしまえ、と思いバックを開ける。その中に何故か、れーのハンカチが入っていた。今日借りた覚えはないのに、何故入っているのだろう。

「何でここに……? とりあえずれーに電話しよう」

 バックから携帯を取りだし、電話をかける。れーとすぐに繋がり、さっそくハンカチのことについて話す。すると、何故かれーも私のハンカチを持っていた、と聞かされた。

「どうするー? 明日返すってことでいいかなー?」

「うん、別に困ることはないしそれで……やっぱり今から会える?」

「え? ……うん、いいよ。じゃあいつもの公園に集合でいい?」

「うん。じゃあまた後でー」

 電話を切ると、自分の今の行動に首をかしげる。何故だか分からないが、今すぐにハンカチを返さなければならないような気がしたのだ。まあすぐ近くだしいいや、と思い、携帯とハンカチだけ持って家を出た。

 

「お待たせ!」

「別に待ってないよー。はい、これまりのハンカチ」

「ありがとう! これ、れーのハンカチね」

 私とれーの中間辺りの、住宅地から少し外れた小さな公園。昔からよくここで遊んでいた私たちにとって、ここは何かあるごとに集合場所として利用していた。会ってすぐ、お互いのハンカチを交換する。でも、やっぱりれーにハンカチを貸した覚えも、貸してもらった覚えもない。れーも同じようで、お互い公園の真ん中で首をかしげるばかりだった。

「何か今日は不思議なことばかりだねー」

「ねー。明日になったら大丈夫かな?」

「どうだろー。とりあえず用は済んだし、早く帰って寝よう」

 他に何かするわけでもないので、そのまま出口に向かう。お腹が空いた。今日は確か大好物のチャーハンだったはずだ。でもその前に食べ忘れてたクッキーを食べて、それから……。

「まりッ!」

「ん? どうしたの、れ」

 突然、思考の世界から現実に戻される。何事かと振り向いた瞬間、れーに勢いよく突き飛ばされる。切羽詰まった顔のれーと目があったかと思うと、自分の体が突然地面に向かって倒れていく。……それと同時に、れーが目の前でグチャリと嫌な音を立てて何かに押し潰されたのが見えた。

 周りを砂埃が舞う。何が起こったか理解できず、頭の整理が追い付かない。目の前を見る。そこには街灯が一つ倒れていた。ここの公園古いから、設備が老朽化しているのだろう。そんな現実逃避にもには考えが頭に浮かぶ。……けれど、街灯の下で真っ赤に染まったれーを見て、先程見たものが現実であると突きつけられた。

「……れー? ねえ、起きて、れー……」

 れーは、私を守ろうとしてくれたのか。昔から私は、れーに助けられてばかりで、迷惑をかけてばかりで。だけどいつも『大丈夫ー』って笑ってくれた。それが、すごく、嬉しかった。でも、

「死んじゃったら……意味無いじゃん…………」

 物凄い力で叩き付けられたのだろう。れーの体は完全にぺしゃんこになり、腕や足はあらぬ方向に曲がっている。体中から赤い血が、小さな水溜まりを作る勢いで流れ続け、頭からは何かが飛び出していた。おそらく、脳ではないか。そう予想するのに、時間はかからなかった。誰が、どう見ても、もう生きていないのは明白だろう。

「嫌だ……何で……何でッ…………!」

 何故、今日忘れ物を届けようと思ってしまったのだろう。明日渡していれば、こんなことにはならなかった。もかにゃんの言う通り、家から出なければ、こんなことにはならなかった。私があのとき、違う選択をしていてば、こんなことにはならなかった……ッ! でも、今さらもしものことを考えても、すべて後の祭りだ。

「……だ……れか……よば……ないと」

 ポケットにある携帯を取り出す。とにかく何でもいい。警察でも、救急車でも、お父さんでも、お母さんでも、誰でもいいから、このことを伝えなきゃ……。

 けど、現実は残酷だ。

「……嘘でしょ?」

 電源が入らない。倒れた拍子に壊れてしまったらしい。念のため、れーのポケットからスマホを拝借する。こちらは私のよりも酷く、スマホは半分に分解され、中身が飛び出していた。

「そんな……。誰か、誰かいませんか!」

 暗闇に向かって大声で叫ぶ。でも、思うように声が出せない所為か、誰かが来る気配はない。なら、れーには申し訳ないが、一旦ここから離れて誰かを呼ぶしかない。地面に手をつき、何とか起き上がろうとして……ようやく気づいた。右足が動かない、というか感覚がない。恐る恐る、右足に目を向ける。……右足首は、街灯に潰され、少し離れたところに、私の左足と同じ靴を履いた右足が転がっていた。……あれは間違いない。私の、足。

「……ぁ、ぁぁ、あああああああああッ!」

 脳が状況を理解したと同時に、激しい痛みが襲う。足首から流れる血はれーの血と混ざり、さらに大きな水溜まりの様になり、倒れこむ私を赤く染め上げる。痛い、痛い、痛い……ッ! お願い、助けて、誰か、誰か……! 目を瞑り、祈るように蹲る。大丈夫、ここは住宅地の近くなのだ。きっと一人くらいはここを通るだろう。そうすれば助けてもらえる。それまで耐えろ、耐えるんだ。必死に頭のなかで自分を鼓舞する。そうでもしなければ、自分の中で何かが壊れしまいそうなのだ。

 どのくらい時間が経っただろう。時間的には数分も経っていないだろうが、私の中ではもう何時間も経ったように思えた。そんな時、ミシリ、と何か近くで音がした。誰かが、来たのかもしれない……! 小さな希望にすがりつこうと、音のする方へ顔を上げ、出来る限りの大声で叫ぶ。

「だ、誰か! 助け……」

 そこには誰もいなかった。代わりに、大きな木がゆっくりと、でも確実に、こちらに向かって倒れようとしていた。……そういえばお母さんが、最近公園の木が腐敗していて危ないから植え替える予定なんだと、話していた気がする。よく見たら、木の前にロープが張ってあるじゃないか。

 自分の中の何かが、音を立てて壊れる。足が動かせない今、ここから逃げる術はない。もう、死ぬのだろう。目から涙が止まらない。私達が、一体何をしたのだろう。苦しい、辛い、痛い……死にたくない。

「嫌だ……誰か……」

 バキリ、と大きな音を立てて木がこちらに迫り、私の頭を、背中を、身体中を押し潰す。グチャリ、ボキッ、というような音を聞きながら、意識が急激に薄れていく。

 ……どうか、これが夢でありますように。

 悪足掻きのような願いを心の中で呟きながら、私の意識は暗闇の中に沈んでいった。

 

 

 

「あーあ、死んじゃった」

「注意してねって言ったのに」

「これで何回目?」

「百回目からは忘れちゃった」

「どうせ無駄なのに」

「どうせ守れないのに」

「「それでもまだやり直すの?」」

 

「……当たり前でしょ」

 

 

 

 物心ついたときから、私には親が居なかった。捨てられたらしい。別にそれが嫌だった訳ではない。養子として引き取ってくれたおじさんとおばさんが、今では本当の家族だと思っているし、自分なりに幸せだと思っている。けれど、親と血が繋がっていない。そんな理由だけで、小学生の時は他の人から距離を置かれていた。中学生になっても同じ小学校の生徒もたくさんいたからか、私が親と血が繋がっていないという話はすぐに広まり、話しかけてくる人はいなかった。どうせ私は一人なんだ。これから先も、一人で過ごしていくんだと、そう考えていたし、別にそれでいいと思っていた。けど、

「ねぇねぇ、名前なんて言うの? 私は戸津野真愛って言うんだ!」

「……え?」

「まりー、突然話しかけたらびっくりするでしょ。ごめんねー、私はまりの幼なじみの今茂玲奈。よろしくー」

 突然話しかけてきた二人は同じクラスだが、別に席が近いわけではなかった。わざわざ私に話しかけてくる意味が分からない。

「……何で、話しかけたの?」

「え、いやだっていつも一人でいるから寂しくないかなーっと思ってさ。折角クラスメイトになったんだし、仲良くしようよ!」

「……私、親と血が繋がってないんだよ? そんな人間と仲良くするメリットなんて……」

「考え方が卑屈だなー。別にメリットとか、そんなの関係ないよ」

「私も、ただ単純に仲良くなりたいだけ!」

 事情を知っていて、それでもなお話しかけて来てくれた。当たり前の様に接してくれた。……仲良くなりたいと、言ってくれた。

「あなたの名前は?」

「教えてほしいなー」

「……おお、ろい。大呂、もかな」

「もかな、だね。じゃあもかにゃんって呼ぶよ!」

「私はもかって呼ぶねー。ちなみに、私のことは、玲奈でもれーでも好きなようにどうぞー」

「私も、真愛でもまりでも何でもいいよ!」

「……うん。よろしくね、まりちゃん、れーちゃん!」

 私の中でこの二人が、大切な存在となった瞬間だった。

 それから、二人のおかげもあって友達も増えていき、毎日が楽しくなっていった。笑顔が出来るようになった。二人には、感謝の言葉が尽きなかった。

 その後、三人で同じ高校に合格し、みんなで演劇部に入った。演劇部に入ったおかげて、自分に自信がつくようになった。自分の意思で生徒会にも入り、忙しいけど、幸せな毎日が続いた。いつか二人に恩返しが出来たらな。そんなことを思いながら迎えた、二年のハロウィン祭。

 ……あれは、偶然起きた事故だった。

 たまたま屋上のドアが開いていて、たまたまフェンスの一部が老朽化で壊れかけてて、たまたま二人がその場所に行ってしまい……。

 結果、屋上から転落死した。

 知らせを聞いたとき、私は一目散に落下地点へと走った。生徒たちを掻き分け、先生方を振り切り、警察や急隊を押し退けて。……目の前には、血まみれで倒れる二人。私の意識はそこで途切れた。

 気付いたら、病院のベッドで寝ていた。気絶した私も、二人と一緒に運ばれたらしい。……あの光景は、夢ではないようだった。精神的ショックのことを考えて、念のため検査入院することになった。個室のため、一人ぼっちでベッドに横になり、天井を見上げる。今日の朝、部室で会ったときは笑顔でおはようと笑いかけてくれた。いつものように、他愛もない話をして、頑張ってと言ってくれて、また後でねと別れて。それが、最後の会話になるなんて思わなかった。もう、二人がこの世にいないなんて、信じられなかった。

「……また、一人ぼっちなんだ」

 涙が頬を伝う。私は、二人に何一つ返せなかった、何も出来なかった。神様、何で二人を助けてくれなかったの。何でこんな運命にしてしまったの。神様、お願いだから、時間を戻して。……二人を、返して。

「「叶えてあげようか、その願い」」

「……え?」

 誰もいないはずの病室に響き渡る声。前を向くと、そこには魔女の格好をした、二人の女の子がいた。

「だ、れ?」

「誰って、見て分からないの?」

「私達は双子の魔女」

「奇跡を起こせる」

「魔法の使い手」

「……奇跡、を?」

「お姉さん、今願ったでしょ?」

「時間を巻き戻したいって」

「私たちにかかれば!」

「簡単に出来るよ」

「ほ、本当に?」

 もしかしたら嘘かもしれない。でも、なんでもいい。希望にすがりたかった。でも、目の前にいるのは神様じゃなく、魔女だ。

「「ただし条件があるよ」」

「条件……?」

「流石に死者を生き返らすことは出来ないんだよねー」

「だからあなたが生き返らせたい二人が死ぬ日、10月31日の朝まで時間を戻してあげる」

「二人を生き返られられるまで、何回でもやり直せばいいよ」

「二人を助けられたら、またいつもの日常に帰れるよ」

「だけどもし、二人を助けることを諦めたら」

「願った未来にならずに、時を戻すことを拒んだら」

「「魂を渡してもらうよ?」」

 ニコリ。こちらを見る目に背筋が凍る。笑っているというより、嗤っているという表現の方が正しいだろうか。おそらく彼女たちは嘘をついていない。諦めたら本気で、魂を奪うつもりだ。

「でもちょっと難易度が高いし、特別ルール追加!」

「あの二人の家の中は絶対安全にしてあげる」

「つまり二人を無事に家に帰せたら助かるってこと」

「それなら少しは楽でしょ?」

「「ま、無事に帰せたらだけど」」

「……どういうこと?」

 彼女たちの言っていることが分からない。私は二人に生きてほしいだけ。だから、屋上から落ちる、あの事故を防ぎたいだけだ。

「そっか、何も知らないのか」

「あの二人は元々、今日死ぬ運命なんだよ」

「だからあの転落事故を防いでも」

「他の理由で死んでしまうだろうね」

「もし、二人の生きる未来を望むなら」

「10月31日が終わるその日まで、二人を守らなきゃいけない」

「きっと死ぬほど大変だろうねー」

「何回も失敗して、何回も二人の死を見るかもしれない」

「「それでも、時間を戻したい?」」

 改めてにこりと笑ってこちらを見つめられる。正直、とても怖い。……怖いけど、

「……お願い。時間を、戻して」

 どんな残酷な希望でも、それにすがりたかった。

「「契約成立だね」」

 彼女たちがそう言った瞬間、視界がグニャリと曲がり、目の前が真っ暗になった。

 

 目を覚ますと、そこは自分の部屋だった。慌ててデジタル時計を確認すると、10月31日の午前5時を示していた。

「本当に、戻ってる……」

 ならば、二人もちゃんと生き返っているだろうか。すぐにまりちゃんに電話をかける。が、全く電話に出る気配がない。れーちゃんにもかけてみるが、こちらも同じく出る気配はなかった。

「……とりあえず、学校に行こう」

 そうすれば何か分かるかもしれない。そう思い、急いで身支度をして、学校に向かった。

 前と同じ様に生徒会の仕事を片付ける。しかし二人のことが気がかりで集中出来ず、前回よりも遅くに終わった。……二人は、無事なの? 心配で心が押し潰されるような感覚になりながら、休憩のために部室へ向かう。ドアの前まで来ると、聞きなれた声がした。それに反応して勢いよくドアを開ける。それにびっくりしてか、中にいた二人は驚きの視線を向けた。

「うおっ! もかにゃん、どうしたの?」

「大丈夫ー? 何かあった?」

 ……二人が、いる。ちゃんと動いて、喋って、笑っている。本当に、本当に時間が戻ったんだ。

「も、もかにゃん? どうしたの、泣いてるの?」

「怪我でもしたのー?」

「……大丈夫、何でもないよ」

 ごめんと謝りながら、涙を拭う。二人は首をかしげながら、朝もあんなに早くに電話なんてどうしたの? と聞かれる。確かに、考えてみればあんな朝早くに電話をかけても出ないのが普通だった。間違い電話だった、と誤魔化せば、二人はそれで納得してくれた。

 時間はちゃんと戻っている。ならばとにかく、二人が生きられる未来にするために行動しよう。絶対に大丈夫。私が、二人を守るんだ。

 ……けれど、現実は、どうしても二人が生きることを許してくれないらしい。

 屋上からの転落死は、二人にいくら行くなと言っても行ってしまうらしい。だから、ドア自体をどうにかすることで、防ぐことが出来た。

 しかし安心したのもつかの間。今度は、ハロウィン祭が終わって衣装を部室に片付けるとき、二人は誤って刃物が体に刺さり、出血多量で死んだ。彼女たちの言う通り、転落事故を防ぐだけではダメらしい。ならばと、今度はひたすら刃物を隠した。刃物だけではなく、凶器となり得るもの全て。でも、どこに置こうと二人は死んでしまう。だから、二人が部室に帰って来る前に自分がそこにいることで事故を防いだ。

 今度は、特設ステージの鉄骨が落下し、二人が巻き込まれ死んだ。これは私がどうにかステージに二人を近付けさせないようにすればいい。そう思い、二人を無理矢理にでも引き留めることで事故を防いだ。

 今度は、帰り道にある橋から二人が落下し、死んだ。端を渡らないように真ん中に誘導するものの、どうしても上手くいかない。そこで、別の道を使うことで、事故を防いだ。

 今度は、駅のホームから二人が落ちて、そのまま電車に轢かれ、死んだ。ここまで来ると、強行手段に出るべきだ。そう思い、二人の腕をしっかり掴むことで、事故を防いだ。

 今度は、最寄り駅からの帰り道で二人が交通事故に巻き込まれ、死んだ。どうにか上手く、二人を誘導することで車が通るルートを避ける。そうしてどうにか事故を防いだ。

 言うだけなら簡単に聞こえるかもしれない。けど、私はこのことを、すでに百回は繰り返し行っている。どう頑張っても何かが起きて二人が死ぬ。もしかしたら、今やってることは無駄かもしれないと、何度も脳裏を掠めた。でも、今日ついに、私は二人を家へと送ることが出来た。……これで、二人は助かるんだ。れーちゃんが家へ入るのを確認した後、私は跳び跳ねそうになった。やった、やったんだ! これでまた、みんなで笑える日が来る! 喜びを胸に抱きながら、プチ祝いと思い、コンビニで小さなケーキを買う。さあ、早く家に帰ろう。そして寝て、待ち遠しかった明日を迎えるんだ。鼻歌を歌いながら帰路に着く。彼女たちは家の中は安全だと言っていた。二人が家から出る理由もないし、もう大丈夫、きっと……。

 ……もし、家から出る理由が出来たとしたら?

 ケーキを投げ捨て、全速力で来た道を戻る。何ですぐにこの考えに至らなかったんだ。10月31日が、今日という日が終わるまで、油断してはいけない筈だったのに。お願い、どうか二人とも、無事でいて……!

 近くで、何かが倒れる音がした。嫌な予感がして、すぐにそちらへと進路を変える。着いた場所は、小さな公園だった。ちょっとした遊具があるだけの、何の変哲もない公園だ。

 ……目の前にあるものを除けば。

 そこには街灯と木が倒れ、その下は赤く染まっている。これは違うと、否定したかった。きっとこの赤いのはペンキなんだと。けど、見覚えのある服装の人……ヒトだったものが真っ赤に染まっているのを見て、私は膝から崩れ落ちた。

 

 

 

 ……諦めない、絶対に。

 

 

 

 気が付くと、自分の部屋に居た。携帯を確認すると、10月31日の午前5時。今回も、ちゃんと戻っているようだ。

 ……また二人を死なせてしまった。どんなに忠告しても、どんなに事故を未然に防いでも、必ず死んでしまう。

 ……本当は、心の隅で気付いている。こんなことしたって無駄だと。決められた運命には、逆らえないのだと。でも、失いたくない。もう、一人ぼっちになりたくない。笑顔で「また明日」って言える未来が見たい。三人で、笑って未来を歩みたい。

「早く、学校に行かなきゃ」

 いつものように、制服に着替え、ご飯を食べて、学校に行く。始めに屋上へ行き、予め用意していた瞬間接着剤でドアを固定し、ドアノブを壊す。こうすれば、二人が屋上から落ちる未来は防げる。

「次は、部室」

 演劇部の部室へ行き、凶器となる工具を隠すように端に寄せる。その前に椅子を置いて目立たないようにしつつ座り、二人がここに近づけないようにする。今のところ、午前中に死んだことはないから心配ないとは思うが、念のため。

 ……前回は、一度二人を家に返せた。ならば次はその先に何か行動を起こさないと。多少、強引な手段でも、不審に思われても構わない。それで、二人が生きていられるのなら。

「おはようございます!」

「おはよーございまーす」

 振り向くと、そこには何度も見た、二つの大好きな笑顔。この笑顔を守りたい。例えそれが愚かな願いだとしても、愚かな思いだとしても、私は繰り返す。今度こそ、この日を終わらせるんだ。

「二人とも、おはよう」

 私は、上手く笑えているだろうか。

 

 

 

 

「運命は変えられないんだよ」

「最初から決められているんだから」

「内容をいくら変えても」

「結末は全部同じ」

「例えその事実に気付いても」

「人間は奇跡を信じて繰り返す」

「やっぱり愚かだね」

「待っているのは破滅だけなのに」

「さて」

「あの人は」

「「あと何回耐えられるかな?」」

 アッハハハハハッ

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ハロウィンは終わらない 木野々ライ @rinrai

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