まず作者の知識量に舌を巻く。自分は恥ずかしながらこの年代のアメリカに造詣が深くないのだが、リアルに作り込まれている。土台がしっかりしていれば、その上に築かれる物語への信頼感も高まり、リーダビリティを生む。
乾いた、荒涼とした、閉塞した、斜陽の、世界。そこには西部開拓時代という言葉のイメージとは裏腹の、立ったまま朽ちてゆくような空気感がある。それは主人公の人物造形にも表れており、少年、であるはずなのだが奇妙に老成している。これが、単に同年代との接点がなかったが故の他愛ないズレなのか、それとも何かの理由で見た目通りの年齢ではないのかは今のところ定かではないが、豊富な語彙と相まって、夕闇迫り影が触手を伸ばす慈悲なき荒野の中心に立つ存在としてこれ以上ないほど相応しい。
魔術と機械を組み合わせた戦闘シーンも、ひとつひとつのアクションに緻密な作り込みがうかがえる。普通ならば「魔力で身体能力をブースト」程度の記述で終わってしまうところ、本作は独特な機序による動作描写が光る。好物である。
終盤に明らかとなる敵役のキャラクター性が最も目を引く。ちょっと一言で説明しづらいのだが、なにかひとつでもボタンが掛け違っていれば何の葛藤もなく善人でいられたはずの人物だ。敵役と対比するように「大切なものを守るためであろうと手を汚すことはできなかった人物」も登場し、善良であることの功罪が浮き彫りとなる。「功罪」という言葉にはどちらかというと「罪」のほうが重い印象を受けてしまうが、本作で描かれているのは間違いなく公平な意味での「功罪」だ。善性を否定するだけの底の浅いドラマではない。敵役が最後に残したものも含め、それは黄昏の世界で地面の凹凸を強調する影のように、割り切れない何かを残す。