Stage10 白紙に色を添える
苦しくも辛いテストが終了し、採点結果が書かれれたテスト用紙が帰ってきた。
気づけば、窓の外から暑い風が髪を揺らす。
◯や✕で示され、点数化された採点結果は、猛勉強の末。
赤点クリアどころか、今までに取ったことのない高得点で開いた口が塞がらない。
でも、なんだか喜ぶことがあまり出来なかった。
テストも終わって、やっと部活が出来る。
いつもは、舞い上がっていたのにそんな気分になれない。
すべての不安を拭うために、りのと二人っきりになって話すことにした。
「四音ちゃーん、部活前になに?」
「うーん、ああ」
まず、どう話しすればいいか考えてしまう。
だから、二人の間には沈黙が支配する。
他の3人は先に練習に行ってもらった。
開きっぱなしの窓から、暑苦しい風が吹く。
「話がないなら、行くよ」
りのが部室から出ようとする。
「ちょっと、待って」
私は慌てながらも、りのの足を止めさせる。
ああ、もう。
「あのさ、りのはどうして、演劇部に?」
単刀直入に真っ直ぐに問う。
りのは、目を左右に動かし、鼻でため息をする。
そして、口を開いた。
「四音ちゃんのそばにいたかったからだよ」
私は首をかしげた。
「どういうこと!?」
「私、四音ちゃんに会うまで、友達いなかったから、四音ちゃんが初めての友達なんだ」
確かに、中学の頃だったか、りのと会ったのは。
あれは私が転校してからだったような気がする。
「四音ちゃんは覚えてないかもしれないけど、四音ちゃんに出会ってから楽しいし、辛い時もそばにいて助けてくれたこともあるし」
私、りのになにかしたかな?
全然、覚えてない。
「だからね、四音ちゃんに恩返ししたいの、私はお芝居とか疎いから力不足かもしれない、けど一緒になって、応援したいし、努力したい」
「りの・・・」
「そんな理由じゃだめかな?」
悲しそうな目で私を見つめる。
こんな近くに理解者がいるとは思わなかった。
灯台下暗し、青い鳥とはこういうことをいうんだな。
「そんなことないよ、ありがとう、これからもよろしく」
「ありがとう」
「さあ、練習行こう」
私達は部室をあとにした。
りのは私のこと友達だっていってくれた。
たぶん、私の友達はりのしかいないかもしれない。
お互い、どっちかいなかったら、ダメになっていただろう。
私が今頑張れるのは、りのの存在が大きい。
それだけじゃない。
滝先輩、アカネちゃん、アイちゃん、この3人だって、必要不可欠だ。
一人で頑張ったってダメだ。
けど、今の私にはみんながいる。
もう、ひとりじゃない。
そう、胸に刻んだ。
◇
「この、のめしこきがぁ」
なぜか、私達部員全員が西谷さんに怒鳴られている。
「りの、のめしこきってなに?」
「怠け者って意味だよ」
「私語は慎め」
「「はい」」
そして、なぜ怒っているのかというと、どうもテスト勉強に集中していたため、トレーニングをしなかったからだった。
「だって、赤点取ったら、部活やめされるって聞いたから」
「言い訳するな、そもそも私はそんなこと言ったか?」
あれ?
私はりのに視線を向ける。
りのはにこっとさり気なく笑う。
貴様やりやがったな。
「そもそも、俺ら高校生ですし、学業優先しますよ」
「あ゛ぁ」
「すんませんでした」
滝先輩の謝罪が学校中に響く。
結局、2倍トレーニングを行うことになった。
案の定、終わってから全員地べたに這いつくばって、ぶっ倒れた。
息苦しい、体が動かねえ。
「うむ、やり過ぎた」
そう思うんなら、少しは手加減してほしい。
私は水分を摂るために、痛みに叫ぶ体をなんとか動かし、ペットボトルに手を伸ばす。
そして、いっきに喉を潤す。
「ああ、生き返った」
「いや、死んでないだろ」
不躾に声をかけられ、体がビクッとなる。
「比喩表現ですよ、先生」
というか気配なく近づかないで。
「難しい言葉知ってんだな、先生ってのもの比喩か」
「いや、りのがそう呼んでるって」
「私は、教育者じゃないし、そもそも教員でも議員でもない」
詭弁だ。
うーむ、だったら。
「コーチはどうです?」
なんとなく思いつきで。
「コーチ、コーチか・・・」
うんうんと頷いて、微笑む。
お気に召したようで。
「ところで、西谷コーチ」
「なんだ」
「課題の件なんですけど、まだかかりそうです」
「ああ、ゆっくりでいい、というか気づいてはいるのだろう」
良かった。
まあ確かに、気づいたばかり。
まだこれからだ。
「よし、おまえら」
コーチは、未だ、地面に伏している全員を一声で無理やり起こす。
「なんですか・・・、って痛い」
滝先輩が大げさに体を痛がる。
「今日まで、よく頑張った正直ここまで、頑張ってくれるとは思わなかった」
なんだ、急に
「遊びはここまでだ、早速本格的に指導する」
嘘、今日の今日まで遊びだったんかい。
真面目にやって損したわ。
体育の授業は大分成績上がったけど。
「ということで、コーチである私が最初に教えるのは、ズバリ」
ズバリ
「腹式呼吸だ」
おお、腹式呼吸。
ていうか、コーチって呼び方そんなに気に入ったんだ。
黒の演劇部 有刺鉄線 @kwtbna
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