Stage09 白は他の色を知らなければ白と気づかない。
あの図書室の一件から、私は滝先輩から勉強を見てもらっている。
場所は図書室ではなく、騒がしいファミレスで。
「あの先輩?」
「また、わかんないとこでもあったか?」
「いや」
滝先輩はずっとスマホをいじってるだけで、勉強する気がないように見える。
こういうのって、一緒に勉強するもんじゃない?
「先輩は、テスト勉強しなくていいんですか?」
先輩はスマホから顔を上げる。
「うちの高校のレベルだと、普通に授業受けてれば普通に赤点は免れる」
うわあ、何自分頭いい発言。
うぜえ。
けど、言い返せない。
「ついでに東、問3と問5間違ってる」
「え?」
「公式自体が違うから、テストで部分点すらもらえないぞ」
「公式どれですか?」
「教科書の32ページのとこ」
教科書をみる。
ああこれか。
「そのページの公式に当てはめてみ」
「あっはい」
早速、問題を解き直す。
「ついでに」
また、今度は何!?
「この会話3度目」
この世界はループしている!?
「覚えろよ」
違う、覚えようとしても頭から逃げていくんだ。
そもそも、数学って将来役に立たなくね。
「ああ、どこも席うまってるね」
「どうする、他の店行く?」
あれ、この声って。
「おう、藍那と茜じゃん」
「あら、滝先輩と東先輩だ」
演劇部の一年生たちが、やってくる。
「どうしたの?」
「私達、3人でテスト勉強しようと思っていたんですけど・・・」
「どこも、混んでて」
3人?
確かに、アイちゃんとアカネちゃんの少し後ろにもう1人いた。
初めて見る顔だった。
なんかおとなしいそう。
「だったら、一緒にどう? 東もいいよな」
「はい、いいですけど」
まあ、私は人数増えたとこで問題ないし。
かと言って、勉強教えられるほどの頭もないけど。
「いいんですか? カシちゃん大丈夫」
アカネちゃんは、後ろの子に聞く。
その子は素早い指の動きでスマホを操作する。
「わかった、ではご一緒させてください」
「どうぞ」
「じゃあ、遠慮なく」
テーブル周りをなんとか片付け、席をあけ3人を座らせた。
「お二人は、この子初めましてなので、紹介しますね、柏崎鶯ちゃんです、声が出せないので、そこはご了承ください」
アカネちゃんが一通り紹介すると柏崎さんは少し会釈する。
「よろしく、私2年の東四音」
「3年の滝水翼、分かんないとこあったら気兼ねなく質問して、教えるから」
柏崎さんは小さく頷く。
声が出ないって、なんか大変そう。
「カシちゃん、知ってると思うけど、私とアカネちゃんが所属している部活の先輩、とてもいい先輩たちだよ」
柏崎さんはスマホを操作して、こっちに画面を見せる。
≫柏崎
私のことは、カシちゃんって呼んでください。
なるほど、スマホのメモ帳アプリで会話する感じか。
世の中便利になったなあ。
◇
しかしなあ、長時間じっとずっと同じことしてたらなあ。
「飽きたぁ・・・」
「おい!」
私はテーブルに頭を傾ける。
「ったく、少し休憩するか」
先輩は鼻ででため息をし、仕方ないなと言わんばかりの態度をとる。
すると、カシちゃんはスマホで文字を打つ。
ん? なんだ?
≫みなさん演劇部なんですよね?
どんなことしてるんですか?
うーむ、端からしたらわかんないよな。
それとも演劇部に興味あるのかな。
「今は体力作りの最中かな、演劇部らしいことは今のことやってないかな」
正直言えば、演技レッスン的なのとかやりてえ。
≫なるほど、確かに体力は必要不可欠な要素ですもんね。
ところで、皆さんはどういう経緯で演劇部に?
今度は入部した理由か。
私はもちろん。
「将来女優になるため」
≫アカネちゃんとアイちゃんは?
あれ無視された!?
「私は中学の時テニス部で体育会系だったから、高校は落ち着いたところにしようと思って、演劇部に入ったの」
そんな軽い理由でかい。
「まあ、でも演劇部でもランニングやら筋トレやらしてたら、やっぱ私って体動かすの好きだなあって改まって感じたわ」
≫それはどうして?
「ん? 中学のテニス部はすげえ実力主義な割に上下関係も厳しくて、だから息苦しいし、面倒かったし、けどこの部活ってそういうのないから、居心地いいんだよね」
まあ確かにうちの部活は部員が少ないせいか、人間関係は良好な部分はあるかも。
≫アイちゃんは?
今度はアイちゃんに話を振る。
「私は物心つく頃からずっと絵を描いてて、中学も美術部で、コンクールとかで賞もらったこともあったけど・・・」
けど?
「いろいろあって、高校は美術系以外の事したいなって、それで演劇部を選んだんの」
いろいろって何だろう?
「もう絵は描きたくないの?」
私はアイちゃんにさり気なく聞いてみた。
「もう絵は描きたくないんです」
それは蚊の鳴くような声だった。
しかし、私は好奇心が抑えられなかった。
「一体、何があったの?」
≫東先輩、そのぐらいにしましょう。
「そうだぞ、東」
カシちゃんと先輩に静止され、仕方なく黙る。
「さて、今度は俺か」
先輩は姿勢を直す。
それ、必要?
≫では、お願いします。
「ああ、俺は一言で言うと自分を変えたかったから」
変えたかった?
「滝先輩は十分変わり者ですよ」
「東、茶化すな」
「サーセン」
「で、俺中学で親友との仲が悪くなって、最近まで冷戦状態だったんだ、今は仲直りして、会うようになったぜ」
≫なるほど
「そんで、中学卒業して、このままの自分じゃ駄目だって自分変えようとしたわけ、それが演劇部入った理由、まあでもなかなか実現できなくて、逃げそうになったけど、初心に戻って少しずつ頑張ってるとこかな、まあ、なんだ、東に1年の二人共ごめんな、迷惑かけて」
最後に照れくさそうに笑う。
「そんなことないですよ」
「先輩と一緒だと楽しいですし」
そんで私は。
「別に滝先輩いてもいなくても問題ないですから」
「東は素直じゃないな」
カシちゃんは、私のことじっと見る。
なんだ?
≫東先輩って、他人に全く興味ないんですね。
初対面の女の子にどストレートな言葉を言われ困惑してしまう。
「え、いや、どういうこと、ちゃんとみんなのこと聞いてたし、相槌だってしてたでしょ」
≫でも、ふとした時に、心底どうでもいいって顔してましたよ。
「ふざけないでよ、確かにこっちは女優になるために演劇部入部して、真面目にやってんのに、大した理由でもないのに、この部活入るのは、正直どうなのって思ったよ」
口は災いのもと。
しまったつい、本音が出た。
≫そもそも部活動って基本学校の課外活動ですよね、そうでなくても自分と同じ人なんていないわけで、理由は様々なのは当然だと思います。というか部活動頑張ったからって女優になれると本気で考えてるんですか。
それは・・・
「カシちゃんもうやめよう、ね?」
「東先輩スイマセン、カシちゃん普段はこうじゃないんですけど」
アイちゃんがカシちゃんに止めに入り、アカネちゃんが私に頭を下げる。
「けど、本気で女優目指してるだけあって、東先輩にはいつも刺激受けてますし、自分はいいと思っています」
あれ、私なんか分かんないけど、情けない気持ちになってきてる。
「東は、あれなんだよな、あんま人に心開かないっていうか、なんていうか、自分の考えを重視にして行動してるだけだよな」
うわ、なんで滝先輩が私のことかばってるの?
「私のこと何も分かってないくせに・・・」
私はファミレスを逃げるように出ていった。
目には大粒の涙を溢れさせながら。
そのときなぜだか無性にりのに会いたくなった。
もうなんで・・・なんでなの・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます