Stage08 白紙赤点絶対ダメ


 西谷さんから課題を出されたものの、その前に壁が立ち塞がる。

「はーい、みんな来週からテストだから、しっかり勉強するように!」

 7限のHR最後にこのクラスの担任で演劇部の先生でもある伊東先生が喝を入れるかのように言う。

 知っているとは思うが、私は大の勉強嫌いだ。

 と言うか、将来役に立たないと思っている。

 いや、マジで。

 それにテスト一週間前になると部活禁止だから、例の課題をクリアすることすら出来ない。

 同じクラスのりのはともかく、他の部員は部活動以外の接点がないからな、ああもう、どうすりゃあいいのよ、まったく。

「四音ちゃん、もう授業終わったよ」

「ん、ああ」

 考え事してたから、全然気づかなかった。

「部活に・・・、そうだ今日からだっけテスト期間?」

「そうだよ、四音ちゃん勉強したら、今回も赤点ばっかりだとヤバイんじゃない」

 りのにそれ言われたら終わりだな。

「なんか、失礼なこと思ったでしょ?」

「そんなことない!?」

 テストの点数保健体育以外、平均点ばっかりなくせに。

「それにさ、先生にまで言われちゃうんじゃない」

「先生? 伊東先生か」

「違う、西谷さんの事、一応教えてもらってる身だしさ、先生って呼んでるんだけど、本人は嫌がっているけど」

 ほう、ちゃんとしてんな、初っぱな下ネタぶち込んだやつには思えん。

「もし先生が、赤点取るやつは許さないそんなやつは指導はしないって、言われたらどうする?」

「私、勉強するわ、さっそく図書室に行く」

「おう、さすがの行動力」

「ということで、一緒に」

「あっ、私用事あるから、ごめん無理、1人でどうぞ」

 マジか・・・


 ◇


 図書室ってあんまいったことないから、1人だとなんか入りづらいんだよな。

「失礼しまーす、って、あれ滝先輩!」

「ココでデカイ声出すな、周りに迷惑だろう」

「すいません」

 だって、貸出カウンターに先輩がいるから。

 ていうか、図書室誰も居ないし、さすが偏差値低いとこなだけあるな。

「先輩、図書委員だったんですか?」

「知らなかったのか、みんなには言ってたはずだけど・・・」

 先輩の表情が少し曇る。

 ヤベ、本当に知らなかったって、言えない。

「いや、本当にそうだったんだなって」

「まあ、普段昼休みに当番入ってるし、今日は当番の人が学校休んだから、俺が出ることにしたんだ」

「そう・・・ですか」

「というか、何しに来たんだよ」

「あっ、勉強しに来ました」

「家でやれよ」

 そうなりますよね。

「家だと、集中出来なくて」

 途中で、掃除したり、漫画読んだり、雑誌読んだり、最終的に勉強出来ずに寝落ちするんだよな。

「ああ、雑念に取り憑かれる系か?」

「まあ、そういう系です」

 ザツネンって何?

 さっそく席に座り、ノートと教科書を開く

 とりあえず、出来そうな科目から始めよう。

 えーと、コレはこうで、アレはこうで・・・。

 やばい、もうつまづいてる。

 というか、これって習ったっけ?

 たしか、範囲はこのページからここのページでしょ、じゃあ授業で受けたはず。

 あっ、思い出した、授業中寝てたから記憶が曖昧になってる。

 それじゃー、わかんねー訳だ。

 あっはは。

 じゃないんだ、こっちは何とか赤点だけは回避したい。

「東、もうそろっと、閉めるぞ」

「センパーイ」

「なんだよ」

「助けて下さーい」

「おい、今にも泣きそうな顔すんな」

 私は全てのプライドを捨て、先輩に助けを求めた。

「全然、分からないんです」

「何が!?」

「全て!?」

「はあ!?」

 自分でもバカな会話してのは、分かる。

「えーと、現代文の勉強してんのか?」

 滝先輩が横目で覗く。

「はい、けど現代っていうわりに、古臭い日本語ばっか、じゃんじゃん出てきて、わけが分からないんです」

「教科書借りるぞ、えーと、ああ夏目漱石のこころか」

「知ってるんですか」

「去年習ったから、ていうか、日本を代表する作品だぞ」

「え・・・、知らない」

 名前ぐらいしか知らない。

 え、JKが知っててもおかしくない知識なの。

「東って、勉強できそうに見えるけど、もしかしてガチで勉強できないのか?」

 少しムカッときた。

「もういいです」

「あっそ、教えなくていいんだな、まあせいぜい赤点だけ取るなよ」

 先輩はそっぽ向いて、去ろうとした。

 赤点という言葉にふと、我に帰る。

「やっぱり、教えてください」

 先輩はやれやれみたいな顔をして、戻ってくる。

「じゃあ、作品を軽く説明するぜ」

 そう言って、先輩は語り始めた。


 ◇


 主人公が長い休みの間、友人の誘いで鎌倉の海へ行く。

 しかし、その友人は突然外せない用事が出来たため、主人公を残し去ってしまった。

 1人残された主人公はそこである人物に出会う。

 交流するうちに、その人を先生と呼び慕い鎌倉から東京に戻っても、先生の部屋に出入りするぐらいになった。

 主人公は先生の私生活や言葉に疑問に思いつつも、先生の話に耳を傾ける。

 だけど、主人公の実家から父親が病で苦しんでいることを知る。一度は実家に帰ったが、また東京に戻り、主人公は先生に向かい、過去に何かあったのかを質問したが、先生は時が来たら話すと言い。主人公は大学を卒業した後帰郷した。

 主人公の父親はますます病で状態が悪化し、親戚を集める事態になった。

 そこに、主人公宛に先生から分厚い手紙が届く、その内容に先生のところへ行くことにした。

 ちなみに先生の手紙の内容は、かつての先生の過去が書かれたもので、主人公が疑問に思っていたことの真相が明かされる内容になっている。


 ◇


「うろ覚えだから、多少間違っているかもしれないけど、大体こんな感じの内容だ」

 先輩、教科書見ずにペラペラ語ったけど、すげえ。

「どうした、質問とかあるか?」

「あのコレ、主人公と先生の関係性的に、BL作品ですよね、教科書載せていいんですか」

 滝先輩に、呆れた顔された。

「おい、この小説に失礼だぞ、いいか今から約百年まえの作品だぜ」

「まじで、現代じゃねーじゃん、通りで見覚えのない単語が出てくるわけだ」

「それだけ、後世に読みつがれているわけよ」

「はあ」

 現代文捨てようかな。

「おい、今俺のやったこと台無しにしようとしてねえよな」

 ギクッ。

「もう図書室閉めるから、後は家でやれよ」

「先輩ありがとうございまーす」

「ああ」

 私は図書室から出る。

 もしかして、先輩って頭いいのかな?

 バカだと思っていたけど。

 あっ、滝先輩からメッセージが来た。


 ≫文章じゃわかんねえなら、DVDで見たほうが頭に入るかもしれねえから、探してみな、こころって作品は映像化されてるかもしれねーから。


 なるほど、その手があったか、確かにそれだったら頭に入るかもしれない。

 だけど、他の教科も危ういんだよなあ。

 ああ、暗記パンほしい。

 それか、コンピューターペンシル。




















 東のテスト勉強はまだ続く!!!!!





 










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