Stage07 独り吐く息は白く透明
私の名は東四音、黒羽高校に通う高校生で演劇部に所属し活動している。
この部活に入ったわけは、夢を叶える為の一歩として入った。
私の夢は女優になること、小さい頃テレビでたまたま古いドラマが再放送されていて、あの頃内容はよく理解できなかったけど、その時ヒロインを演じていた女優さんに目が釘付けになった。
それ以来、多くのドラマ、映画を観たり、親に頼んで舞台に足を運ぶようになる。
そのうち心のなかに女優になりたいという、思いが募った。
小6の時、ある芸能プロダクションのオーディションに参加しようと決意したが、応募する前に、親に猛反対された。
夢中になって観るのはいいが、向こう側に足を踏み入れるなと、言われたのは今でもハッキリと覚えている。
けど諦めなかった、それどころか、よりいっそ女優になりたいという思いが強くなった。
中学に上がると勉強そっちのけで、芸能関係のオーディションを親に内緒で受けたり、地元の劇団のワークショップに通ったり、とにかく女優になるためあらゆる手を尽くした。
まあ、オーディションを受けたことを親にバレたときは、親は激怒になり私に怒鳴り、私は反抗期もあってか反発して、こっちも怒鳴り散らした。
それから、親とは少しだけ距離を置いて、今も会話はほぼしない。
中3の進路で、東京に行こうとしたけど、さすがに親含め担任にも反対されたので、せめて演劇部があって、それなりに実績のあるところに行こうとしたけど、ここで勉強を疎かにしていたバチが当たるとは思わなかった。
その高校は偏差値が高く、私の学力じゃ到底受かりそうにもないレベルだった。
仕方なく、ランクがメチャクチャ低い偏差値で、あんまり勉強しなくて良さそうな黒羽高校に進学することにした。
一応、演劇部はあるし、そこで活動して、将来卒業したら東京に上京しようと頭の中で計画を練る。
ただ、理想と現実は大きく違った。
ここの学校の演劇部は名ばかりで、入部しても誰も何も部活せず、だらだらと過ごすことが多い。
だから、一言先輩の部員たちに、バシッと言ってしまった、そしたら殆どの部員がその日を境に部室に来なくなった。
残った部員で、部活動は一応したけど、私は一歩も進まない現状に満足することが出来なかった。
演劇部は舞台に出て初めて成立する部活だ。
なのに、そんな機会はほぼ絶望的と思い込んでいた。
テレビには、私と同じぐらいの子が芸能界でデビューして、ドラマや映画に出演している。
もう時間がない、そりゃ遅咲きでも活躍している人はいるけど、それは見えないところで舞台に出たり、それなりに経験を積んでいるからだし、でも長い目から見れば、早いほうがいいに決まっている。
またオーディションにでも参加しようと思ったが、流石に親から勘当されるかもしれない。
あの人達は、普通に会社員になって、普通のサラリーマンと結婚して女性として幸せの道に進んでほしいのだろう。
でもそれは、親の将来図であり、私の将来図じゃない。
やがて、高校2年にあがり、ちょっとした後、このだらけた演劇部に喝を入れるかのように、ある人物が登場する。
まるで黒い影を纏うかのような風貌の女性。
名前は、西谷三船。
◇
風呂からあがり、自分の部屋に戻り、スマホで調べ物をする。
「西谷三船」
と打ち込んで検索する。
検索結果は、パッとしなかった。
もしかしたら、本名ではなく別の名前で仕事しているのかな、だとしたら、一体名前なんだろう、皆目見当がつかない。
「はあ」
あの人演劇部に指導しに来てから、約1ヶ月ぐらい経つけど、知らないことだらけなんだよな。
本人には聴きづらいし。
「はあ」
ああ、そうだ冬丸凛夜さんなら、何か知っているかも、けど知名度低いとはいえ、タレントさんだから会う機会なんて滅多にないし。
それに前に冬丸さんと西谷さんとの会話も気になる。
10年前に一体何があったんだろう。
うーん
◇
翌日、いつもの通り練習をする。
校門前まで走り切ると、ふと向かいの歩道側に見覚えのある人が立っていた。
目を合わすと、その人は電柱に隠れる。
いや、隠れても無駄ですよ、冬丸さん。
何してんだ。
「どうした、東」
「いや、なんでもないです」
見なかったことにしとこ。
うん、その方がいい。
「あの、そう言えば」
「なんだ?」
あなたは、何者ですか?
なんて、直で聞けるわけねー。
「体力作りって、いつまで続けるんですか?」
何聞いてんだ自分。
「ずっと同じことやらされて、そろそろ飽きたか?」
「いや、そういう事じゃなくて」
なぜか、冷や汗が流れる。
背中が寒い。
「なあ、東はどうして演劇部に入部したんだ」
西谷さんから、突然入部理由を質問された。
けど、私は迷わず即答する。
「女優になるためです」
西谷さんは、少し目線を下にずらし、考え込むように黙る。
やんわりと風が吹き流れ、風が止むと同時に口を開いた。
「私は、未来ある若者が憎い、正直心底妬ましい、その先になにがあるか分からず、不自由なく夢だの目標だの語って無駄に頑張ってるやつが羨ましくて、私はそんな奴らを見ていると何も出来ず失った自分が惨めで情けなさを痛感する」
西谷さんは杖を折れるんじゃないかって位、握りしめその手は震えていた。
この人が一体何者か知ることを怖くなった。
だけど同時にこの人がなぜここまで人を憎むことになったのか、疑問が浮かび上がった。
「って、すまない感情的になりすぎた」
「いえ、大丈夫です」
元の西谷さんに戻った。
「そういや、他の部員は何の理由で入ったんだろうな」
「興味ないので、知りません」
「同じ部員なのにか?」
「知ったところで、活動に支障ないですから」
最低限のコミュニケーションだけで十分だし。
「東」
「はい」
西谷さんは鋭い眼差しをこっちに真っ直ぐ向けてくる。
「お前にだけ課題をやる」
なんだと。
しかも、私だけ?
「部員全員と深い仲になれ、それが出来ないなら部活も女優という夢も辞めろ」
そんな・・・
あまりのことに言葉を失う。
「よーし、次筋トレだ」
あの人は何事もなかったかのように、練習を続けようしている。
そりゃ、女優になるために努力した反面、犠牲にしたものもある、その1つは人間関係だ。
だって、将来に向けて頑張っているのに上辺では、凄いねとか応援してくれたりするけど、影ではすげえ馬鹿にしまくる。
だったら、最初から他人と関わろうなんてせず、自分から心なんて開く必要なんてない。
私はそれでいいって、自分自身納得している。
けど、辞めるぐらいならやってやろうじゃんその課題ってやつ。
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