episode5 エピローグ ポンコツ天使を返却します!(完)

1 また最初から。

 リビングで向かい合う男女。つまりは俺とアンジェだ。アンジェは最初に来た時のようなコスプレ装備だ。ダサい俺のTシャツを使っていたころからすると極端にかわいくなりやがる。


「ついにこの時が来ましたね、ソーマさん」

「ああ、やっとだ」

『あーこれでみんなともお別れかーさみしいなー』

「じゃあねフクっちさん……!」


 天使アンジェを天界に送り返す準備は整った。あとはフクっちが進める儀式にのっとれば問題ない。


「そうかお前は消えるんだっけ」

『酷いよなー天界も。こんな美少女廃棄するなんてなー』


 スピーカーから文句が流れてきた。そっかこのスピーカーも数分後にはただのスピーカーになるのか。


 あとお前は美少女じゃなくて幼女なんだって。いい加減その超えられない壁はあきらめろ。まあ三か月くらいは覚えといてやるからよ。


『じゃあ最後に、互いに言い残したことは?』

「そうですねー。あ、ご飯とっても美味しかったです。いやーソーマさんのご飯が食べれないとなると……これだけが残念でならない!」

『照れた! 素直に聡兄が照れたぞ!』

「うるせぇ!」

『はいはい』


 確かにわずかな頬の紅潮は認められたが……、それは断じて照れているわけではない。


「ソーマさんからはなんかないんですかー?」

「お前うるさいし、性格最悪だし、役立たないし、めちゃくちゃうざいけど……そうだな、ご飯を美味しそうに食べてくれるのは素直にうれしいぜ。作り甲斐があると言うかなんと言うか」


 作り置きした分の飯を全部平らげたのときはびっくりしたよ。


「よって好き、と」

「んなわけねーだろ」

『なんだかんだ言って結局仲いいよね二人とも……』


 フクっちが優しいため息をついた。


『では、儀式を始めます。……主、あなたの望みを深く願いなさい』

「お、おう」


 アンジェよ天界に帰れアンジェよ天界に帰れアンジェよ天界に帰れ。


 流れ星方式に則ってみたわけだが……。


「数々の幸福たちよ。我が主の願いを叶えよ」


 レドジウムリングが突然光始め、部屋全体を覆った。ああ、この光が消えれば諸共日常に戻るのか……。



 じゃあな。アンジェ。フクっち。……意外と楽しかったぞ、この非日常体験。



 そして最大限のところまで光ると、やがて光は収まってきた。


 俺の非日常は終わり、また日常が――はじま――


「らねぇ、なんでだ⁉」


 光が完全になくなると、しっかり確認することができた。


「『あれ?』」


 まだこいつらが俺の日常パートでのさばっていたのだ。


「どうしてまだここに?」


 はてなマークを浮かべるのは超絶堕天使のアンジェ。


『聡兄聡兄、大変超大変! すぐにレドジウムリングを見て!』


 パニック状態に陥っているのはフクっちだ。俺もその焦りに乗る形で、リングをみたのだが…………。


「…………はああああああああああっ⁉」


 どうして俺の幸福ゲージがゼロに戻ってんだよ!


「バグレポートを教えろフクっち!」


 なんでいきなり100も下がるんだ! おかしいだろ修正しろ!


『バグじゃないみたい……えっと『チュートリアルクリア』って書いてある』


 チュートリアルクリア? 全くなんのことを言っているのかわからん。


 ってこんな時こそ説明書じゃないか。


 俺はテーブルにおざなりにしていた説明書を箱から取り出した。


「フクっち、チュートリアルクリアが書いてあるページを教えてくれ」

『36ページだって』


 すぐに該当ページを開いて単語の意味を確認する。何かの間違いであってくれ……。


「ってお、おい。これ、まじでシャレになんないぞ……」

『どうしたの?』

「今までのは全部チュートリアルでこれからのが本番らしい……」

「え、待って! 天界に帰れないですか! どうしてくれるんですかぁぁぁぁっ!」


 さっきまで俺らを他人事のように見ていたアンジェが喚き始めた。


「うそだろ。まじかよ。また一から始めるのかよ!」


 しかしそんな言葉の裏で、俺の左腕が微振動で震え始める。


 お、おい…………。


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 今日も俺はお前のせいで幸せになる。

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今日も俺はお前のせいで幸せになる。 小林歩夢 @kobayakawairon

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