第2話 ぼくたちは殺人鬼だから
彼女を抱いたあと、二人で服を着替えていたら別室で金属音がしたので、彼女の静止を聞かずに別室に入ってみると、軽く汚れている金属バットが床に転がっていた。
拾い上げてみると血の匂いが微かにしたから、それは『手入れをしても落ちきれてない血の汚れ』だと気づいた。
「血の匂いがするし、あちこち軽く凹んでる……何人殺したんです?」
だから、ぼくは彼女に金属バットを渡して、そう聞いてみた。
「え?」
彼女は驚いたのだろう、目を見開いてぼくを見ている。
「ぼくも仲間ですよ」
ぼくはショルダーバッグからバタフライナイフを取り出して彼女に見せた。
手入れはしていても、持ち手の細かいところには取り切れていない血の汚れがついている。
ついている血は、勿論、自分の血ではない。
「そう……こんなところで同類と会うなんてね」
「ぼくも、こうなるとは思っていなかったです」
お互いに知らずにいたら、どこにでもいる恋人同士のようにこれからも気軽に会えただろう。
殺人鬼が彼女、もしくは、ぼくだけなら。
一時は恋人同士だとしても、抑えきれない殺人欲求に抗えずに相手を殺してしまっていただろう。
--じゃあ、どちらも殺人鬼だった場合は?
殺人鬼は普通の恋愛を望めない。
わかってはいたことだけど、なんとも皮肉なものだね。
「コレクション品はどこですか?」
「更に奥の部屋よ」
殺人鬼でコレクションするのはぼくだけだと思っていたけど、一応聞いてみたら、すぐに答えが返ってきた。
驚いたけど、ぼくと同じということがわかって何故か嬉しかった。
「軽蔑しませんから、見てもいいですか?」
「いいわよ」
秋さんにコレクション部屋まで案内してもらった。
棚に几帳面に並べられた瓶。
よく見るとホルマリン漬けにされた、人間の心臓だ。
「400……と13個かな?」
「数えてないからわからないけど、多分それくらいね。そういう雪也くんは何人?」
「秋さんの半分ちょっとですね。えーと……」
ショルダーバッグにバタフライナイフをしまい、代わりに一冊のカードケースを取り出す。
カードの一枚一枚、番号と臓器の名前、金額を書いている。
あと、髪の毛の束をチャック付きの透明なプラスチック袋に入れたものをカードと一緒に保管してある。
「248人ですね。買う人の気持ちはぼくにはわからないけれど、違法の臓器移植用や食材として高く売れるんですよ」
彼女のコレクションを見て、彼女に嫌われない自信が持てたので、ぼくも彼女に自分のコレクションであるカードケースをパラパラとめくって見せた。
「へぇ。違法の臓器移植用ならまだわかるけど、悪趣味な人間もいるものね」
「まぁ、ぼくの髪の毛のコレクションも悪趣味かもしれませんけどね」
「私は気持ちがすごくわかるけどね……それにしても、すごい綺麗にまとめてるわね」
彼女は、どちらかというと綺麗にまとめているカードケースの中身に興味があるようだった。
「だから、本当は今日あなたをコレクションにするつもりだったんですよ」
カードケースをショルダーバッグにしまい、バタフライナイフを取り出して、彼女に向けた。
「あら、奇遇ね。私もよ。性的欲求を解消したら殺そうと思ってたの」
彼女も僕が初めて見る笑顔で金属バットをぼくに向けた。
彼女から見たぼくも笑顔なのかもしれない。今、すごい楽しいから。
「うわ、殺されなくてよかった。ただ、ぼくもそのつもりだったので、お互い様ですね」
「そうね」
二人でふふっと笑う。
「それにしても、仮に殺した時に、あなたの臓器を奴らに売り払うのは嫌だな。ぼくだけのものにしたい」
「私もあなたの頭や体をグチャグチャにするのは嫌だわ。私の主義に反するけど、薬で殺してあなたの体を綺麗に保管したいもの」
武器をお互い相手に向けながら、ぼくたちは不敵に笑う。
「ぼくは殺人鬼じゃなくなるかもしれません。あなた以外に興味がなくなったので」
「奇遇ね、私もあなた以外に興味がなくなったわ」
「「いつか、互いに殺し合いをしよう」」
それまでは、束の間の恋人でいよう。
だから、今日もぼくは彼女に会いに行く。
殺し合いをするためなのか、ただ恋人同士のように過ごしていたいのか。
今日もぼくの中では結論が出せないままだ。
束の間の恋人 弓月キリ @yudukikiri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます