束の間の恋人
弓月キリ
第1話 彼女の話
--彼女との出会いは衝撃的だった。
沢山の人で賑わう夜のショッピングモールで黒の長袖ロングチャイナドレスを着たオレンジのショートヘアーで紫の目をした自称占い師を名乗った彼女に『悪いものが見える』と言われて、あの時のぼくは彼女の夕焼け色の髪がとても綺麗で惹かれたから彼女の店について行った。
彼女の占いのお店は、普通の女の子なら防衛本能から言い訳をして逃げ出すだろう人気のない裏路地の中にあるとは思えないくらいに普通だった。
スナックが入ってそうな二階建てのビルの二階に、中華風の部屋があり、壁側にあるテーブルの上にはテーブルクロスとして赤色の中華風の布がかけられ、漢字が書かれている八面体のサイコロが二つと六面体のサイコロが、『このお店が占いの店だ』と主張していた。
彼女は普通に占ってくれた。
『しばらく静かにしていたほうが良さそう』というアドバイスももらった。
ただ、ぼくの“隠していること”までは占えなかったみたいだけど。
それで、占いの後に烏龍茶をごちそうになって……。
「え? う、うそ!?」
うるさいなぁ……。
それに、なんだか体がスースーする?
「うわぁ!?」
「きゃああ!?」
な、なんで、ぼくは裸になってるんだ!?
ここは……?
「あ、あなた、男の子だったの!?」
ぼくは、真っ裸でソファーの上にいた。
そして、今までの出来事を思い出した。
ああ、そうだ。
「なるほど……睡眠薬盛られたのか。ぼくも甘いな」
相手は女だからと油断してたから、ちょっとだけバツが悪いけど、事情は聞いておかないとな。
「これは一体どういうことなんですか?」
「ま、まだ、服を脱がしただけよ! そ、それに黒のゴシック・アンド・ロリータで銀髪の長い髪を見たら、誰だって女の子だって思うわよ」
「どちらにしても、服を脱がしていい理由にはならないでしょ」
「う゛」
着ていた服はソファーの下に散らばっていた。
服装に合った黒のフリルがついたショルダーバッグもソファーの下にある。
とりあえず、ボクサーパンツだけでもはくか。
なんか、改めて考えると、暑い季節にこの格好ってぼくも充分怪しいよなぁ。
でも、似合うなら着たい。
「あなたが、とても綺麗で……つい」
「ぼくは、これでも成人してるので、合意の上であなたを抱かせてくれるなら、誰にも言いませんよ」
「え?」
「え?」
「わ、私を?」
「あなた以外に誰がいるんです?」
「え、えぇ!?」
小声で『私、もうすぐ三十路なのに経験ないから……大丈夫かな……』と言ってるようだけど、全部聞こえてるよ。
「ぼくも初めてなんで、お互い様ですよ」
「ひゃぁっ!?」
ぼくが耳元で呟いただけなのに面白い反応するなぁ。
「占い師さん?」
「秋」
「え?」
「秋よ、私の名前」
「秋さん」
彼女の髪の色に似合う、とても良い名前だと思った。
「あなたは?」
「ぼくは雪也です」
「ゆきやくん」
「はい」
「よ、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
彼女をいつか手に入れてみせるという決意と共に彼女の髪に口づけをした。
懐かしい記憶だ。
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