今も君の隣で

 夢から久我家に帰ると、静乃ちゃんがすごく褒めてくれた。


「魔力を発揮して夢魔を倒せたなら、克己くんはもう一人前の狩人ね」


 やった。静乃ちゃんと同じラインにたてた気がする。


「ふん、まぁ、やるじゃないか。……助かったよ」


 綾乃もそっぽ向いてるけど表情はまんざらでもないように見える。


「なぁ、綾乃が狩人になった理由ってさ、死んじゃったいとこのため?」

「ばっ……、ちげぇよ、かっこいいからだって言ってんだろ」


 かっ、と顔が赤くなった。これは、照れてごまかしてるな。

 なんか、ただの乱暴者の中二病じゃなくて、昔の「綾乃ちゃん」みたいだ。


「――って、なにニヤけてんだよ。ちょっと戦えるようになったからって調子こくなよ」


 小突かれた。けど、なんかそれすらも可愛く感じてしまうから、不思議だ。




 新学期、ちょっと気分よく登校したら、クラスメイトがわっと集まってきた。


「えっ? 何?」

 こんなたくさんに囲まれるなんて今まで一度もなかったから、かなり怖いんだけど。


「おまえさ、冬休み中ずっと久我んとこに泊まってたって、本当か?」

「なんでそんなことになってるんだよ。いくらお隣で幼なじみだからって」

「親公認で付き合ってんのか?」


 ええぇぇぇっ?


「なっ、なんでそんな話っ!?」

 僕が答えに詰まってると、みんなが口々に言う。


「おまえが夜に久我の家に入ってったり、朝に出てきて自分の家に戻ったり、いろいろ目撃情報があるんだぞ」

「しかも、朝、出てきた時にすっげぇ疲れた顔してた、って」

「うわ、おま、それって……」

「ヤっちまってる、ってことかっ! しかも疲れるぐらい!」


 ば、ばかなっ? てか声でけーよ。

 案の定、女の子達からすごい悲鳴があがって、汚物でも見るみたいな目で睨んでくる子までいる。


「んなわけねーだろ、ばーか。そんなヘタレ相手にするかよ」


 冷めた声が聞こえた。

 そっちを見ると綾乃がいる。


「夜の出入りは、ちょっとした家のごたごたにつきあわせちまっただけだ。その面は助かったけど、だからってあたしが克己なんか選ぶかよ」


 綾乃が吐き捨てる。なんか、グサっと胸にくる。


「そういや、ご近所トラブルがどうとか、言ってたっけ?」

「だからってなんで竹本なんだよ」

「あたしんとこ、親父が長期出張でいないからな。男手が欲しいってなったら便利な克己に頼むのが一番なんだよ」

「なーんだ、使いやすい下僕ってことか」

「違ったのかー。ネタになるって思ってたのに残念」

「誰だよ勘違いした奴はー」


 クラスの連中は笑いながら散ってった。

 これで、よかった……、んだよな。けど、なんだろう、もやっとする感じは。




 次の日、静乃ちゃんに呼び出された。


「綾乃ちゃんに聞いたわ。変な噂になってしまって、ごめんなさいね」


 そういって手渡してきたのは、お守り袋と、青色のクッションだ。


「お守りは、夢の中に引きずられないようにするものよ。クッションは、うちに来なくても夢の中で綾乃ちゃんと合流できるように、夢の世界へつなぐトンネルの魔術を込めたのよ。もっと早くに渡したかったんだけど、作るのに時間がかかるのよ。わたしもまだまだ半人前だから。ごめんなさい」


「そんなっ、謝らなくても。……いろいろ気を使ってくれて、ありがとう」


 これで、変なウワサがこれ以上広がるようなことは避けられるってわけだ。

 よかった。……うん、よかった。

 でも、なんだろう、何かが足りないような気分。




 それからは、無理矢理夢の中に引きずられることなく、狩人として活動する時は部屋のクッションをくぐって夢の世界に行けるようになった。

 あいかわらず綾乃は無茶ぶりしてきて、囮にもされちゃったりする。ていのいい下僕って否定できないな。

 でも、前よりも、ちょっとだけ前向きに狩人としての活動ができるようになったし、何より、綾乃と一緒にいて楽しいし、嬉しい……。

 って、あれ? 何考えてんだ僕は。

 僕が好きなのは静乃ちゃんのはず。

 でも静乃ちゃんと二人でいるより、綾乃と二人でいる方が、気が楽で……。




「克己! 行ったぞ!」


 綾乃の声に応えて僕は夢魔に向かって跳びあがって、魔力で白く輝く竹刀を叩きつける。

 コンビネーション、ばっちりだ。


 そろそろ僕も独りで夢魔を狩れるころじゃないか、って話も出てる。専用の武器も何か考えないとね、って。

 僕は今のまま、綾乃と二人での方がいいんだけどな。


「何ぼーっとしてんだ。戻るぞ」

「あ、あのさ、僕……」


 綾乃に向き直って、気持ちを伝えようとしたけど、なかなか言い出せなくて。


「あー、うざってぇ。言いたいことがあるならさっさと言っちまえよ」


 頭をいらだたしげにがりがりっと掻いて、綾乃が言う。

 だったら。


「僕、綾乃が好きなんだ。できればこのまま一緒に狩人の仕事もやりたい」


 言ったぞ!

 綾乃はうつむいて、肩をふるふるさせてる。

 もしかして、感動で泣いているなんてことは――。


「ぐえっ!?」

 お腹にすごい痛みがっ。


「調子に乗ってんじゃねぇよ。おまえとあたしじゃ釣りあわねぇだろ。ちょっと戦えるようになったからって、いい気になりやがって」


 綾乃が突き出した拳を引っ込めて、ふん、と息をついた。

 言えって言われたからきちんと言ったのに、何も腹パンしなくても。


「いいか? あたしの理想の男は、あたしに何があっても守ってくれるぐらいのつえぇヤツなんだよ。判ったかひょろ

「……はい、ごめんなさい調子に乗りました」


 どんなに頑張ったってそんなのになれっこない。


「けど、まぁ。下僕じゃなくてあたしのパートナーをきっちり名乗れるぐらいになったら、考えてやる。幼なじみ特典だ」

「えっ? ほんと?」


 ぱあぁっと未来に光がさした。


「言っとくけど、狩人だけの話じゃないぞ。おまえはもっと他の連中にも自分の考えとか話すべきだ。いつまでもヘタレだカスmeミーだ言われたら、一生あたしの下僕のままだからなっ」

「わかった。がんばるっ!」

 道のりは遠そうだけど、やってやるよ!




 こうして、僕は今も綾乃のお隣で、現実世界と精神世界を行き来しながら己に克つことを目指している。

「オラ克己! モタモタすんな!」

「ぐはぁっ! いちいち殴らないでー!」



(了)

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お隣の幼なじみはドリームハンター 御剣ひかる @miturugihikaru

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