堅気から逃げた。

 たった一日フルに出席したからか、僕は、疲れ切ってしまい、数日間フルタイムで学校をサボった。母はオロオロ、担任の溝上麗子からは、毎日やんや、やんやと電話が家にかかってきていた。内容は不明。


 僕は体力温存、というか、とくいの昼夜逆転型に体内時計を持っていっていたのだ。

 いよいよ復讐のときが来たのだ。


 前にも書いたが、一般の生徒と不良と呼ばれるヤンキーたちとの差は、覚悟だけである。

 要は、"全身、きも"の趙雲ではないが、胆力の差だけなのである。


 深夜、家族が寝静まったころ、見計らって、昼寝ならびにそこから二度寝の夕寝から起床。簡単に腹ごしらえをして、トイレを済ませ、ごそごそとマンションを出発。

 僕は、遠藤家に一路向かった。手には、近所のホーム・センターで買った日曜大工の安物の金槌カナヅチ一本。いまや、ホーム・センターで爆薬も作れるらしい。 そして、ズボンのベルトに挟んだ、腹には中学の職員名簿。うちの市は遅れてるのか、進んでいるのか、個人情報の扱いが杜撰かつ曖昧で、いまだに電話番号から住所まで記載された名簿を堂々と配布している。個より緊急連絡とかの対応の全体の利益を優先させる保守の政治姿勢らしい。

 

 月夜の中、遠藤宅へ。遠藤とは小学校からいっしょで見知った中だ。

 遠藤は、小学校時代は、どっちかというとスポーツはそれなりに出来ていたけど、リーダーシップのある頭の良いグループに抑えこまれていた方で、いわゆる、中学デビュー、悪い方にだけど、した感じ。暴れてみたら、けっこうみんなビビるじゃん、みたいな感じなのだろう、とは、言え、不良グループ内では最下層に位置する。

 これで、遠藤の家が公営の団地だったり小さな家だったりすると、可愛げもあるのだが父親の職業は知らないが家もでかい。

 怒りが更にこみ上げる。

 これで行こう、怒りは、やる気になる。おびえは更なる恐怖を持ってくる。

 僕は怒りとともに。

 僕の中学生活をぶち壊した、遠藤に天誅てんちゅうを。

  遠藤宅に防犯カメラが設置されていないことは、もう通学中に確認済みだった。僕は、堂々と静かに門扉を開け庭をずかずかとはいかないが、きびきびと玄関に迫る。

 一階のすべての侵入経路、玄関から、大きな窓ガラス、全てが施錠されている場合は、諦めることも折り込み済みだ。

 諦めるのも人生において学ぶべき、重大事項だ。だから15の春に過酷な高校入試をするんだろ文科省さん?。

 この時点で心臓はバクバクいっていたが、気持ちは落ち着いていた。変な感じだ。

 特殊部隊の隊員はこんな感じじゃなかろうか?。

 おどろいたことに玄関が施錠されてなかった。まぁ、よくあることだ、日本は驚くほど治安が良い。ストーカーに付け狙われていない限り、一晩や二晩、玄関に鍵を掛けない家なんて、ザラにあるだろう。

 ちなみに、マンション3階のうちは、365日、ほぼかけていない。

 時刻は、平日の真夜中、午前一時過ぎ、遠藤宅で、家族の誰か、起きていても、諦める所存。

 ノブをゆっくり握りしめ、そろりと開ける。

 灯りはついていない、物音一つしない。

 家に上がる時、靴を脱いだ、そのほうがフローリングの床では音がしないからだ。

 遠藤家の中は正確ではないが知っている。小学生の時、一度誕生会でよばれたから。

 巨大なプラズマテレビのある居間を無音で目指す。

 リビング、広い。カウンターがあって、キッチンと一体化している。キッチンは、ガスコンロでなく、電気だ。すべてが、うちよりワンランク上だ。

 大型薄型テレビには、ゲーム機器は設置されていない。これも、予想の範囲だが、遠藤の部屋までいかなといけない。小学生の時から変わっていなければ、いいが。

 二階にあがる。家族のそれぞれの寝室からは、寝息、いびきすら聞こえてこない。各部屋のドアの建て付けがおそろしくいい。

 小学生時代の遠藤の部屋をゆっくり開ける。居た。暗闇の中、ベッドで遠藤は、寝ていた。静かな寝息を立てて、ゲーム機器を探す、ネット接続は無線LANらしい。

 ゲーム機器を確認。視認コンファーム。小さな一人用の液晶テレビに繋がったまま緑のちいさなLEDがついている、電源はONオン

 眠っている間に経験値を貯めとくというズボラで恐ろしいやり方をとっている。

 馬鹿め、このゲームの恐ろしさを知らないらしい。


 死ね、いや、消えろ、この世界から、永遠に。

 

 僕は、安物の金槌カナヅチを大きく振り構えると、世界中のありとあらゆる外貨を稼ぎ続けているゲーム機器にまっすぐに振り下ろした。

 ボグッ。

 本当に、遠藤の頭に金槌を振り下ろしたときのような音がした。家庭用ゲーム機器はROMを回していたモーターがクィクィと嫌な摩擦音を立ててから、完全に沈黙した。僕は、後ろの遠藤を振り返った。


 ベッドには、誰も居なかった。


 遠藤は、死んでも居ない、これから、怪我をするかもしれないが、今は、怪我もしていない。ただ、ファンタジアの世界に行ったまま帰れなくなっただけだ。ケイ素の境目にいったのか、0と1の間に行ったのか、表現は色々できるだろう。しかし一つだけは、確かだ。

 この世界に帰っくることはない。

 そして、誰も遠藤家は、誰も起きていない。僕は、何一つらず、遠藤家を辞去する。

 ただ、壊れたゲーム機器を一台だけ置いて、、、、。


 次は、職員名簿が必要だった。

 しかし、あらかじめ、もう調べ上げていた。歩いて、二、三十分の距離。

 僕は、深夜の中学校区内を鼻歌まじりで彷徨さまよい歩いた。懸念といえば、新聞配達が始まるまでにませたいぐらいだ、

 担任の溝上麗子は、アパート暮らしだった。最寄りの私鉄の駅からは、かなり遠い、繁華街に出るには、私鉄が最近はじめた、レンタサイクル通いか?。誰が乗ったかわからないサドルにまたがるために毎月、金を払うとは、愚かな女だ、哀れみささえ感じる。

 この女には、未必の故意がある、いや、中学校教師として、生徒を指導する能力に著しく欠けている。生徒が嫌がらせを受け、不登校になり、その親までもが、心療内科にかかってまでも、なんの対策を取らない、無能だ。

 ニュースで言ってる、業務上過失なんとかだ、。こういう生徒を指導する能力に欠ける女は、いや人間は、教師という人を育てる教育する職業についていては、いけない。もっと低レベルの仕事につくほうが、世のため、社会のため国のためだ。

 遠藤と違い、溝上麗子の場合、復讐でなく、世直しだ。

 そういう結論に達した、僕は、狂っているのだろうか?。

{えーそれでは、、、]で、分かった。

 <軍猫ぐんびょう>は、溝上麗子だ。


 しかし、溝上麗子は、生徒を指導する能力には欠けていても、犯罪から自己を守る能力には、欠けていなかった。

 メゾン・ド・パラディスの104号室は、恐ろしくかっちり鍵がかかっていた。やるじゃないか、<軍猫ぐんびょう>。

 僕は、裏へ回った。

 予定では、ここで、諦めるはずだったが、二、三十分も歩くと、変な目的意識が芽生えていた。たぶんこんな感じで犯罪はエスカレートする、と、今では言えるが、そのときは、ちっとも思わなかった。

 鍵がかかっていた段階で、カチンと来ていた。

 僕は、怒りとともに人生を進もう、と数日前に悪魔に誓ったばかりだった。

 怒りは、人を加速させた、いけない方向に。

 ギアはトップに入っていた。

 僕は、この学区で今一番ホットな人間だった。

 僕は、もうすでに前途のある中学生を一人、シリコンか、ケイ素か、微細なコンデンサーの谷間に置き去りにしていた。

 一人が二人になることは、成功だとさえ思っていた。

 僕は、メゾン・ド・パラディスの裏に回り、104号室と思われる、ベランダの柵を気がついたら越えていた。若くはないが、女性の住居だ。ここに、取り込むのを忘れた女性物の洗濯物でも安物のハンガーにかけてあれば、逆に冷静さを取り戻していたかもしれない。

 哀れなほど狭い、ベランダには、なにも、なかった。ベランダから、公務員の安月給がすべてを語られ証明されていた。安物の洗濯機に安物のサンダル、哀れなほど安物ばかりだ。窓の施錠の有無にすっかり気を取られ、安物の枯らしてしまった家庭菜園のプランタに右足を突っ込んでプランタを割り、右足のふくらはぎの下をざっくり斬った時、怒りは、さらに助長された。

「この、アマーッ」

 僕は、おのれの担任をののしりさえしていた。

 多分窓さえ、施錠されていたら、さすがの僕も物理的に諦めていただろう。

 僕は『ザ・グレート・ファンタジア』のプレイヤーを微細なコンデンサーの谷間に送り込む方法は知っていても、鍵の掛かった窓を開ける方法は知らなかった。

 幸か不幸か、窓には、鍵がかかっていなかった。ベランダの柵を乗り越えた時点で十分変質者だ、そこで、誰かが、通報するだろうとか、いちいち、洗濯物のを干しにいくのに、鍵をかけたりあけたりするのは、面倒だったのだろう。

 レースのカーテン一枚のこういったアパートの共通サイズのアルミサッシは、いとも簡単に開いた。

 僕は、月夜と心地よい夜風とともに、溝上麗子の部屋に侵入した。遠藤家に侵入したときと全く同じだった。心臓は、ばくばくいっていたが、気持ちは、落ち着き、冷静だった。特殊部隊の隊員ではなく、真の犯罪者がこういった気分になるのだろう。

 何LDKなのだろう。すぐに、居間で、哀れな小さなテレビがあった。そこに、ケーブルが直結されたままのゲーム機器がもうあった。

 電源が切れていて、ネットにつながっていなかったら立ち上げる予定だったが、溝上麗子も遠藤と同じだった。やはりズボラで無能だ。

 ファンタジアのどこかの丘の洞窟で<軍猫ぐんびょう>は眠っているのだろう。緑のLEDは暗闇の中、ついていた。

 躊躇は一切なかった、この女のせいで僕は、まともな中学生活をおくれなくなったのだ。

 さっと金槌を振り上げた。

 が、そのとき、プランタで斬った、右足のふくらはぎの傷が痛み、ちょっと後ろを気にしてしまった。


 なんと、後ろには、死んだ、黒いタコか、イカが床に落ちていた。


 そんな訳は、なかった。黒いタコかイカは、溝上麗子の突っ伏した頭だった、いや髪の毛だった。

 溝上麗子は寝落ちしていたのだ。

「驚かせやがって、この、アマーッ」

 僕は、女性が正体もなく、うつ伏せになって倒れると、後ろの毛がこんな感じにぶわっと周囲に広がるとは、知らなかった。まるで死体だった。いや、カツラか、チアリーダーのポンポン。

 それに、むせるような、締め切った部屋に満ちた、女臭い匂いも僕をひるませた。

 性的な諸動とか、そういったものでは、ない。

 ただ、ただ、ひるんだのだ。しかし、僕の女性経験の少なさが起因していることは間違いない。

 なにより女性の部屋に入ったのがはじめてだった。 

 突っ伏して、寝落ちしている、溝上麗子を振り向いて、見ている間に、恐るべきことがおこった。

 僕のふくらはぎの傷から、血がたらーっと垂れて、一滴、ゲーム機器の上に落ちたのだ。

 落ちた瞬間わかった。

 ヴィーンと恐るべき、ROMを回す回転数があがり、なにかがこのゲーム機器で起こっていることは、確かで定かだった。

 ゲーム機器の異常な駆動音に溝上麗子がうーんとか、言いながら、ゆっくりと起きだした。

 僕は、文字通り、パニクった。前門の虎、後門の狼とかいうやつだ。

 確か、あの人類史上最強の呂布も最後のときは、門の前に曹操、門の中に劉備を迎えて立ち往生していた。

 本来は正面はゲーム機器のはずだが、僕は、躰をねじっていてどっちが正面かわからなかった。

 溝上麗子はますます変な艶めかしい声を上げ、覚醒し、ゲーム機器は、いまや、バチバチとか、電子を弾ませ、小型の演算処理つきの粒子加速器と化していた。

 まずい。

 ゲーム機器におののいていると、後ろで、声がした。

「森田恭平くん」その声は、教師としての威厳にどうにか満ちていたがどの声よりも小さく怯えていた。

 今、溝上麗子よりおびえているのは、僕だった。溝上麗子より、暴走しているゲーム機器だ。電子がぶつかり、より多くの分子を巻き込み、ゲーム機器のROM収容部の隙間からは、稲光が放ちだしていた。シュバッとか、バッシュとか、放電する音さえしていた。ゲーム機器は光を放ち、熱を持ち、まぶしかった。

 そして、アラジンのランプから魔神が現れるように、ROMの収容部分のありえない隙間から、頭だけ、竜で躰は、マッチョな人間で蛇の尾をもった<竜頭蛇尾>が現れた。

 大きさは、隙間から現れるとあっという間に具現化し、丁度の僕の三倍ほどになり、メゾン・ド・パラディス104号室の天井に頭が支え首をかしげて、僕と溝上麗子を見下ろした。

「もぉーりたぁー、、、てめーーー」

 <竜頭蛇尾>は言った。いやうなった。

 この声は、遠藤でも、南條でもない、学年を取り仕切っている、番長の氏家だ。 

「きゃーーーーーーー」

 溝上麗子が悲鳴を上げた。

 <竜頭蛇尾>は、長い髭や、たてがみをうねらせると、竜の頭をくねらせ、大きく息を吸った。

 火を噴くつもりだと、僕は、とっさに思った。

 好都合なことに、メゾン・ド・パラディスの各部屋は狭かった。

 僕は、テーブルにあった、溝上麗子が汚しっぱなしで、洗えていない、ホットプレートの蓋を手に取ると、溝上麗子とともに、そこに身をかがめた。

 <竜頭蛇尾>は炎を吹いた。

 二人が隠れられるほどの大きさがホットプレートにはなかったが、なんとか、隠れた。

 しかし、104号室のささやかな居間は、蓋で飛び散った炎とともに、二人が立っている場所以外は、火の海となった。

 蓋の取っ手は、一瞬で持てないほど熱くなり、僕は、投げ捨てた。

「てめー遠藤ぅぉを、、、、、、」

 <竜頭蛇尾>はこの世のものとは思えない声で、叫んだ、いや、いた。

 氏家の声には、デス・メタル並のディストーションがかかっていた。 

 <竜頭蛇尾>は、さっきより、大きく、体全体を回しもってくねらせ、息を吸った。

 <竜頭蛇尾>の肺が大きくなっているのがわかった。

 僕は、長年のプレーで身につけた、技を繰り出した。チャージはいっぱいにコンボになっていた。

『メガ・ダンヅストア!』

『メガ・ダンヅストア!』

『メガ・ダンヅストア!』

『メガ・ダンヅストア!』

『メガ・ダンヅストア!』

 <竜頭蛇尾>の回りで炸裂光が何重にも光、<竜頭蛇尾>の斜め上では、きれいな、メイリオのフォントで、効果ゲージの数字が3D化してHPが100から順にどんどん小さくなっていった。

 今度は、<竜頭蛇尾>こと氏家が悲鳴を上げた。

「ぎぃやああああああああ」

 この世の生き物が発する鳴き声とは思えなかった。

 <竜頭蛇尾>の鎧を着た躰は、腕や足は、弾け飛び、炎とともに中から、竜が現れたが、竜も燃えていた。

「ぐぅおおおおおおおん」

 もうキャラやアバターの声ではなかった竜そのものの断末の鳴き声だった。

 竜は、自身の内部に溜め込んだ、炎と吐き出した炎、メガ・ダンヅストアの炎に焼かれていた。竜の背中からは翼が生えはじめていたが、いかんせん104号室は狭かった、羽ばたくことはできなかった。

 断末の叫びとともに、竜は、僕と溝上麗子のほうに翼と一体になった手を伸ばしてきた。「森田くんこっち」溝上麗子は、僕を引っ張った。僕が入ってきたため、開けられている、

 アパートのサッシから溝上麗子は外に出たが、僕は、網戸を蹴破って出た。ベランダの柵をどうやって越えたか、憶えていない。

 竜は、大きすぎて、メゾン・ド・パラディスの部屋から出られなかった。丁度檻に閉じ込められた様になっているのだ。

 メゾン・ド・パラディスの裏から出ると、もう火は、というより炎は、104号室だけでなく、延焼しアパートそのものを焼き尽くそうとしていた。

 黒々とした、煙が天高く、また、大きく大きく広がっていた。誰かが消防に通報したのか、遠くで、消防車のサイレンが聞こえていた。

「森田くん」

 僕は、溝上麗子のほうを見た。髪は焼け、縮れていた。顔は煤で真っ黒だった。僕も同じ様相だろう。僕は、我に返った、僕は、この女<軍猫ぐんびょう>も遠藤と同じく始末しに来たのだ。この女はかしておけない。あの炎であの業火でこの女も焼かれるべきなのだ。

 僕は、この女を火刑に処すため、<軍猫ぐんびょう>の腕を掴んだ。

『こっちだ、この女陰ほと』心のなかでは、何度も叫んでいたが、できなかった。腕が動かなかった。今や、104号室は炎の部屋だった。それより、この竜をどうしたものか考え出した時、音で、分かった。パキーンっとゲーム機器が炎で壊れたのだ。

 それと同時に、アパートを轟々と焼く、業火は消えなかったが、竜は氏家は消えた。

 僕は、呆けたように、なって、しゃがみこんでしまった。

 その時、くすんだ色の防火服の手袋がもう一方の僕の手を掴んでこう言った。

「要救助者一名、発見。君、こっちへ」 

 消防隊員は、一名と言った、二名ではなかった。

 僕は、言われるまま、運ばれるまま、救急車に乗せられ、火災現場を離れた。後のことは、伝聞でしか知らない。

 メゾン・ド・パラディスの火災の炎は、三日三晩、消えなかった。近隣の消防署五署ぶんの応援でも消えなかった。最後は、特殊化学消化車というのをヘリで東京から6台空輸し、米軍の空母からの艦載機が近くに250ポンド爆弾を空爆して爆風で炎を吹き飛ばし、漸く鎮火にいたった。

 火元の特定も不可能だった。ものすごく特殊で高温の炎だったらしく、焼死者の死体の特定も一切不可能だったそうだ。歯型など残っているはずがなかった。

 メゾン・ド・パラディスの建築資材に違法な燃焼物が塗り込められていたのではないかとさえ、警察は疑った。しかし、物質を特定することもあまりにも高温で焼かれたため不可能だった。一部テロ説さえあったが、元住人の特定さえ不可能なのにどうやって、テロリストを特定するのか。

 そう元住人の特定も、そこには、女性の中学教諭が含まれる。


 僕は、幸い、軽い火傷で済み、火災と同じく三日間入院しただけで退院にとなった。僕は、屈することからも、逃げることにしたため、その後、学校に普通に通った。

 中学では、2つの話しが存在した。

 教師が生徒に説明した話と、生徒の間だけで広まる噂とに。

 遠藤と氏家は、転校したと教師は説明した、そして、教師、溝上麗子は産休と育休のため長期に学校を休むこととなり、当分の間は、教頭先生が担任を務め、そのあと産休先生が正式に赴任してきた。

 だれも、遠藤と氏家の引っ越した先を知らなかった。もちろん、溝上麗子先生の行く先も。

 当たり前だが生徒の間では、もっと毒々しく強烈な話が、駆け巡った。

 当然、そこには、僕も脇役だが、しっかり登場する。クラスで僕に嫌がらせをずっとしていたのは、遠藤であることは、誰もが知っていたし、氏家は番長、遠藤の遊び仲間だ。二人が一緒に学校からいなくなるのには、わけがあるはずだ。そして、氏家は違うものの、遠藤と僕の担任は溝上麗子だ。

 教師が嘘をついていることぐらい、誰の目にも明らかだ。マスコミも騒ぎ出したが、メディアを完全にシャッタウトしたまま生徒の保護者会への説明が校長と市の教育委員会で十分に口裏を合わせたのちに、行われた、もちろん、そこには、メディアと同じく生徒は参加できない。

 生徒は、誰も真実がわからない。

 僕は、ますます孤立したが、一種の王とか帝みたいな不可侵の存在としてしばらくあつかわれた、しかし、それも、結局は、前と同じで、仲間には入れてもらえないことは変わらない。

 そこには、僕にしばらく警察がつきまといっていたことも関係する。

 一番強烈な噂は、僕が、学校から居なくなった三人全員を殺したというもの。

 人殺しは、最大のアウトローだ。だれも、殺されたくない、だから人殺しとは、仲良くしようと思わない。

 しかし、それもそんなに長く、続かなかった。中学生は、大人より新しいことを受け入れやすい。

 氏家が去った後の番長の席は、しばらく空席だったが、あっという間に二番手の奴がついた。これも、よくある話。


 本当のことをいうと、僕は、消えた三人の行方を知っている。

 氏家は知らないが、僕は、遠藤や溝上麗子と違い、まだ『ザ・グレート・ファンタジア』をプレー出来る環境にある。

 連中は、いるよ、ファンタジアの中に、<竜頭蛇尾>と<黒の拳ブラックフィスト><軍猫ぐんびょう>として、ただし、永久に出られないけど。

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ザ・グレート・ファンタジア 美作為朝 @qww

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