No.1-3 

「あそこ……」

 少し進むとセピアがそっと人差し指をある方向に向ける。彼らの目の前にボロボロな一件の建物が目に入った。

 外観から見るに木造で、申し訳程度の小さな窓ガラス。屋根は所々剥がれており、一部は木が腐っているのか、割れていた。完全にあの大きな豪邸とは対に値する建物だった。

「あれ……? マジ? 本気? 正直ただの小屋にしか見えないのだが……?」

「……まあ、否定はしないわ」

 ラルフの言葉に多少同情するレクティア。

「めちゃくちゃ金持ってると勘違いしてた俺が馬鹿だった」

「元々ウチお金あまり持って無くてね。ギルド開くにも手続きや色々面倒事が必要で……」

「だとしても、もっとマシな場所無かったのかよ、町中のアパートとかさ……」

「そんなお金は無い!」

「言い切るなよ……」

 呆れながらも淡々と話す二人。するとセピアが二人の会話に入る。

「二人とも……そろそろ……中へ」

「あ、あぁそうだな。すまない」

 ラルフがそう言うとセピアは玄関の前に立ちドアノブを捻る。

 しかし……その直後。

 バキッ!! と。

 何かが折れる音が聞こえた。

「あ……」

「『あ』って……なんだよ今の『あ』は!? あと変な音聞こえたよ!?」

 セピアはラルフ達の方へ体を向ける。彼女の手には丸い金属片――取れたドアノブがそこには在った。

 何故か細い腕の割にはとんでもない怪力を持っているに違いなかった。

「レク、ドア壊れちゃった……どうしよう……」

 頭を抱えるセピア。普段無表情な印象な彼女にもこの時だけはちょっとした焦りの表情を滲ませていた。対してレクティアは、動揺は見せずにまるで慣れた様子で返す。

「え~また壊れちゃったの? 今月何回目よ」

「何回……だっけ? まあいいや……後で修理呼ぶわ」

「いやいや、もう7回よ!! 今月のギルド予算、ドアの修理で幾ら飛んでると思ってるのよ!! もう8割よ!! アンタが毎度ドア壊すからリーダーと大家さんに前にもこっぴどく怒られたの忘れたの!?」

「……ごめんなさい」

「あのさ、お前達の会話聞いてて思ったんだけどさ――」

 二人の会話を聞いていたラルフがここで率直な想いを言う。

「――いや、修理以前にここまで酷くなるなら借金覚悟で黙って拠点変えた方が良くない?」

 ラルフの純粋なまでのド正論。

 しかし彼女たちは揃って即答する。

「「無理!!」」

「何故!?」

 するとレクティアは一度大きなため息を付くと――

「過去にリーダーの浪費癖で家賃滞納、セピアの馬鹿力でドア壊したりと――まあ色々やらかして私たち全員揃いも揃ってブラックリストです!! アハハハハッ!!」

 最早現在の状況に開き直っているのか笑いながら答える彼女。それを聞いたラルフは額に汗を垂らす。

「……マジ?」

「今年のエイプリルフールはとっくに過ぎてるわよ。今更嘘も糞も無いでしょ」

「そこはハッキリ言って欲しくなかった」

「レク……アレ出して……」

「まあいいわ、ドア壊れちゃったなら仕方ないし」

 レクティアがそう言うと、空中にメニューウィンドウを開きタップを繰り返し何かしらの操作をする。すると彼女の下に突然L字状のパールのような物が出現した。

「おいおいおい、なんでそんな物騒な物持ってんだよ。もしかして扉壊す気か!?」

「当たり前よ、ノブ壊れても扉壊れても値段変わらないし入れない以上は壊した方が良くない? はい、セピアこれで開けて」

 レクティアがセピアにパールのような物を渡すとドアとの間にはめ込み、てこの原理で強引に扉を開け始める。扉はメキメキと音を立て、直後に大きな音と共に扉は外れた。

「ふぅ……疲れた……」

 扉をこじ開けたセピアはパールのような物を適当に放り投げ、腕で額を拭う。

「まあ、……どうぞ……入って」

「困っちゃうわよね、この人達のお陰で結構苦労してるのよ。ははっ」

「レクティア、お前も大概やぞ」

 小声でツッコむラルフ。

「……なんかもうお前ら全員がブラックリストに名前載る理由がよく分かった気がするわ」

 呆れた様子でそう独り言を言うと、ラルフも二人の後に続くように小屋の中へ入っていった。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

偽りビギナーの仮想世界 行川紅姫 @yukikawa6022

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ