第3話 世界の形

ロンブス共和国の東部に位置する街、カスター。リーヴァントになるための手続きを終えた俺は、暇ができたので図書館を目指して街中を歩いていた。


手続きを終えたとは言ったが、正確にはまだ手続きの最中で今は審査が行われているところだ。


あの後、受付の女性が持ってきた登録用紙に必要事項を書き、その場で受付の人に渡した。それから証明書用の顔写真を撮った後、簡単な審査が行われて1時間後ぐらいには受付にてバッジと証明書がもらえるらしい。


そんなわけでしばらく暇になった俺は、この世界のことを改めて勉強すべく図書館を目指して街の中を歩いているとというわけだ。なお、グレアさんはまだ支部長と話さなきゃいけないことがあるようなので今は俺一人だ。


ちなみに、支部を出る際に受付の女性が「その格好では目立つから」とフード付きのマントをくれた。本来は支部の売店で売っている商品らしいが、特別に後払いにしてくれるという。渡されて羽織った時にそう言ってくる辺り、やり手だなあの女性………


そんな感じで手に入れたフード付きのマントを身につけて街を歩いているというわけだ。ただ、フードを被ると完全に怪しい人になるので被ってないが。






街を歩いていると、街に入る前にグレアさんがこの国の説明の際に軽く言っていた多民族性がよく分かる。


耳が長い人と短い人、背がめっちゃ高い人とめっちゃ低い人、肌が白い人黒い人青い人、ネコ耳の人にイヌ耳の人。


本当にいろんな民族の人たちが道を行き交い、言葉を交わし合う。多民族国家ゆえの問題とかいろいろありそうだけど、パッと見では本当に仲良くやってるようだ。


しかし、思っていた以上に人が多いな。城壁に囲まれているからある程度の規模の街だとは思ってたが、これは予想外。横に伸びる道に入れば一気に人波は静かになりそうだが、大通りは密度こそ高くはないがひっきりなしに人が歩いていく。見た感じ中規模ぐらいの街でこれなんだから、大都市レベルの街となるともっと凄そうだな。


そんなことを考えつつ、事前に受付の人に聞いた通りに途中で大通りをはずれて横道へ。案の定、人影はまばらだった。






横道に入ると幅が狭くなり、静かになった道を歩いてしばらくすると、一際大きな建物が現れた。あれが目的の図書館っぽいな。入り口の前まで来て、看板を見るとたしかに図書館だった。


両開きの扉を開き、中へ入ると本の匂いと物静かな空気に迎えられた。建物は2階建てのようだが入ってすぐの中央部分とそこから両サイドに伸びる廊下兼読書スペースが吹き抜けになっていた。そこから木の枝のように本棚が1階と2階に分けて両側へと走っている。


チラリと受付の方を見ると、金髪の美人な司書さんと目が合い、笑顔で会釈された。慌てて返したあと、静かで重みのある雰囲気にほんの少しだけ押し出されつつもどうにか足を踏み出して奥へと進む。


本棚は床から伸びて天井に達するぐらいの大きさだった。大体3メートルぐらいか。


まるで森の中にいるような感覚になりながら目的の本があるコーナーを目指して探索する。途中、魔法関連の書籍が並ぶコーナーを見つけた。さすがファンタジックな異世界。


探検気分でしばらく歩いていると、世界や地理に関する書籍が並ぶコーナーにたどり着いた。これが目的地だ。カスターの街に入る前にグレアさんからこの世界について簡単に教わったが、これからこの世界で生きていくならもっと詳しい情報を頭に入れておく必要がある。


本棚に並ぶ本の背表紙を見て、求める情報が書かれてそうな本を適当に数冊ピックアップする。


本の束を抱え、読書スペースにある横長のテーブルの上に置き、席について一番上の本を手に取る。パラパラと軽く読んでハズレだったら閉じて本の束とは反対側の場所へ。これを二回繰り返して三冊目。欲しい情報が載ってる本を見つけた。この世界にある国々に関して書かれている本だ。


しばらくは他の国に行くことはないだろうが、頭に入れておいて損はない。適当にページをめくる手を止めて最初のページへと戻り、真剣かつ丁寧に本の中身を読み込んでいく。






この世界が1つの大きな島と4つの大陸からなることはグレアさんに聞いているが、それらにはいくつかの国があるとそれには書かれていた。


俺が今いる東の縦長なギースト大陸には中央部に今いるロンブス共和国があり、南にはグワニー連合という国がある。この国はどうやら獣人系の種族が北のロンブス共和国に対抗するために集まって出来た国らしい。それ以前は国としての形を成しておらず、種族同士の交流こそあったがそれぞれが別の文化と思想の中で生活していたらしい。


大陸の北側にはリブラン王国というエルフの国があるらしいが、他の国との交流が一切なく、謎多き国だと本には書かれていた。


また、ロンブス共和国から見て東の海の向こうにはアマノ国という独特の文化を持つ島国があるという。この国には他の国と違って騎士はおらず、代わりにサムライやニンジャと呼ばれる人々が国を守っているらしい。それ以外の紹介文も読んで思ったが、完全に日本だここ。


次に北のロウル大陸。大部分が寒冷地にあたるこの大陸には国は一つしかない。この世界において最も大きな力を持つというダリア帝国だ。元々はロウル大陸にもいくつもの国々があったらしいが、帝国が幾度もの侵略を繰り返した結果、80年前には全て飲み込まれてしまったという。そんな歴史と高い国力を持つゆえ、現時点ではもっとも他国から警戒されている国と言っていいらしい。


お次は西のヴェルト大陸。一番北側にあるのがルリタニア王国。その下にあるのがケトルニア王国。この二つの国々は元々一つの国だったらしいが、600年前に双子の王子が生まれ、その後の王の崩御以降、王位を巡る争いから泥沼の内戦に突入し、そして二つの国が出来たという。そんな経緯があるのでこの二つの国の関係は良いとは言えないが、今は北の海を超えた先にヤバい国があるためか、表向きは目立った衝突はないという。


そんな二つの国に挟まれる形で大陸東岸にあるのがヴィルダン王国という国。常に二つの国の脅威に晒されているが、魔法先進国の力と魔力結晶の産出国という立場を上手く利用して器用に生き残っているという感じの国らしい。


一方、ケトルニア王国の東側にあるのがカヌス法国。この世界における最大級の宗教勢力である星導教会の総本山があり、またその教会の法王が治めているという国らしい。


西のヴェルト大陸にあるのが今の4つの国。次に南のファウス大陸だが、この大陸も北のロウル大陸と同じく国が一つしかない。広大な砂漠の中で生まれたラマール王国という国だ。ただし、ロウル大陸全体がダリア帝国の領土となっているのに対し、ファウス大陸においてラマール王国の領土は大陸北西部を流れるケイル川の流域のみ。それ以外のところは灼熱の大地と強力な魔物が跋扈するとても危険な場所になっているらしい。


そして最後、世界の中央に位置するレントラル島。その大きな島全体を領土とするのがハルビオン王国。世界最大の貿易都市を有し、世界最強の海軍を有する海の支配者と呼べる国。その発言力は強く、国際的な場ではまとめ役を担うことも多い。






本から可能な限り知識を得んと一生懸命に読み込み、区切りがつきそうなところで一旦、目と手を休めて背もたれに体を預ける。そして窓の外に視界を向けると、空が橙色に染まっていることに気がついた。




(……えっ?ウソっ!?もうそんな時間!?)




支部を出る前に壁掛けの時計を見た時はたしか午後2時ぐらいだったはず。それで陽が落ちてきているということは、2時間ほど時が経ってるということになる。


バッジと証明書の件を思い出した俺は慌てだしそうになるところでここがどこかを思い出し、慌てず騒がず本を元の場所に戻し、歩いて図書館を出たところで一気に駆け出した。











そして、時が過ぎ空が闇に染まった頃ーーー











支部の隣に併設されている宿酒場の一室に泊まった俺は、ベッドに腰掛けてリーヴァントの証であるバッジを眺めていた。暗い部屋を照らすのは、魔力灯と呼ばれる魔力で燃えるランタンから溢れる灯り。バッジには、支部の前で風にあおられた旗にも描かれていた狼をモチーフとした紋章が象られている。それを親指で弾き、キャッチしてからズボンのポケットにしまう。


窓辺へと近寄り、窓を開けて外を眺める。時刻は午後9時頃。大通りはまだ人の姿がチラホラあり、1階が酒場であるため、賑やかな声が下の方から聞こえてくる。


空を見上げると、元の世界のよりもふた回りほど大きな丸い月が夜の街を優しく照らす。そんなお月様を見上げながらふと思う。




(あいつら、今頃元気でやってるかな………)




召喚されてから今まで、こっちの世界で生きる上での足場作りを優先して動いてきたが、ずっと頭の片隅にはあいつらの姿があった。違う場所へ召喚されているであろうクラスメイトの姿が。


別にすごく仲が良いわけではないと思う。親友と呼べる者はおらず、一人を除けばせいぜい友人止まり。いろんな意味で個性的な連中だから全員揃ってればこっちの世界でも難なくやっていけるとは思う。それでも、ほんの少しだけ心配ではある。特にの場合は違う意味で心配だ。




(すぐに合流するのは難しいだろうが、どこで何してるのかぐらいは知りたいところだよな)




簡単ながら1日で生活の土台部分を整えることはできた。なら、次の段階を視野に入れてもいいかもしれない。活動範囲の拡大と戦う上で必要不可欠な武器の入手。そして、他の街や他の国に関する鮮度の良い情報を得る手段の確保。


これからすべきことは色々あるが、まずはリーヴァントとしてのランクを上げることが目標だな。Eランクのままだと何もできそうにないし。


この先の小目標が決まったところで、窓を閉めてベッドへと戻り、布団に包まる。1階はまだ賑やかなようだけど耐えきれないほどではないし、今日は色々あり過ぎて疲れたからな。グッスリと寝れそうだ。


というわけでおやすみ……zzzz

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巻き込まれ系男子の異世界道中記 鈴井ロキ @loki1985

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