街へおでかけ。

草詩

まほうのことば。

「いいかいメアリー、これからお前は街へ出なければならないけど。お前はかわいいから、きっと沢山の男どもが言い寄ってくるに違いないよ。だからね、魔法の言葉を教えておくよ。いいかい? 話しかけられたらこう言うんだよ?」



「生理的に無理!」

「そ、そんな元気よく言わなくても。わかったよ、変わった子だなぁ」


「いやーおばあさんに教わった魔法の言葉は便利だねメアリー」

「生理的に無理!!」


「いや僕にまで使わないでよ。無理じゃないよ」

「うん。使い魔のくせにうるさい。生理的に本気で無理だけどわかった使わない」


「え、なにそれ本音? 冗談だよね?」

「うん冗談。我慢する」


「え、なにを我慢するのメアリー? 言うのをだよね?」

「使い魔のくせにうるさい」



「やぁお嬢さん。良い朝だね」

「生理的に無理!」

「え。そ、そうなのかい? こんな気持ちが良い朝なのに……」



「どうもお嬢さん。ちょっと道を尋ねたいのだが」

「生理的に無理!」


「おや、確かに地図というやつは細かくてどうもね。集合体恐怖症かもしれないね」

「生理的に無理!」


「えぇ? 地図を破り捨てるほどなのかい? そいつは重症だ。なんか、ごめんね」



「あ、お嬢さんすまないね。今水まきをしているところだったんだ。水を止めるから、その間に通ってくれないか」

「生理的に無理!!」


「ええ? この水はきちんと水道から出した奴だから汚くないよ? あ、戻るのかい? そんなに無理かなぁ」



「ほらメアリー、しぶきが飛んでるよ? ハンカチで拭きなよ」

「……」

「なんでそうやって指先でつまむように受け取ったの!? どうしてだいメアリー、僕の目を見てよ!」

「……我慢我慢」

「ああ、ほらそんな掴み方をしてるから……」



「おっとお嬢さん、ハンカチを落としたよ」

「生理的に無理!」

「え、路に落ちたからかい? 潔癖症って奴なのかな。洗って返そうか?」


「メアリーあのお兄さん、メアリーのハンカチを奪う気だよ!」

「生理的に無理!!!!」


「え、なにそれでっかいんだけど、どうなって――あっ!」

「やったねメアリー、ハンカチは無事だよ! ちょっと赤くなったけど大丈夫さ!」



「どうだいお嬢さん、この銀細工は。プロの職人が趣味で作ったものだから、お手軽お値段のアクセサリーさ」

「生理的に無理!!」


「なんだ、銀アレルギーなのかい? それは困ったね」

「生・理・的に無理!!!」



「お嬢さん、あなたは神を信じますか?」

「生理的に無理!」


「大丈夫です。神はあなたを受け入れてくれます」

「生理的に無理!!」


「あ、ちょっとお嬢さん。朗読会だけでも……。は? ああそんな、神よ」



「おやお嬢さん、服が汚れているよ? ペンキでもかかったのかい?」

「生理的に無理!」


「それは大変だ。すぐに洗わないといけない。うちはクリーニング店なんだが寄っていくかい?」

「生理的に無理!」


「大変だメアリー! その人はきっと人さらいだよ!」

「生理的に無理!!」



「そこの少女、止まりなさい! 君は多くの目撃者のもと確認されているだけでも3人の被害者を出している!」

「生理的に無理……と思ったけど、あなたカッコいいわね」


「はい?」

「待ってね。掃除してくるから。警官っていうんだっけ? あなた以外、邪魔だから」


「な、なんなんだお前は……!」


「ヒトよ? ちょっと長生きで、流水が通れなくて、朝日が苦手で、銀に弱くて。生きるのに生き血が必要なだけの」

「ひ、ひぃ。寄るな……!」


「あなた私の好みだから、眷属にならない?」

「い、いやだ。今も歯の根が合わない……。君は、お、俺の同僚たちを一瞬。一瞬で……!」

「大丈夫。気にならなくなるから」

「生理的に、無理だッ……!!」


「あら、そう」

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街へおでかけ。 草詩 @sousinagi

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