遊郭でありそうなこと

シエレレエ

第1話

その女の元には毎日のように大富豪が訪れた。


訪れる大富豪は普通の百姓が一生働いても得ることのできないような大金をその1人の女と共に夜を過ごすためだけに惜しみなく払った。


その女は吉原遊郭の中で1番位の高い遊女、いわゆるトップの花魁であった。その女の容姿は百合のように美しかった。それに遊女としての教養だけでなく芸事にも秀でていた。


しかし花魁は客よりも位が上であるため大金を払った男でも気に入らなかったら床入りどころか会話すらしなかった。


「男に本気で惚れたことはない。」

女の口癖である。そう言うようにその女は客と会話をすることがあっても床入れだけは絶対にさせなかった。


しかし女が床入りさせないと分かっていても客の男達は会話ができさえすればそれで良いと思っていた。それほどその女が魅力的であったのだ。


そんな女の前にある日薄汚い格好をした若い客がやってきた。

どうみても身分は百姓であった。


しかし吉原一の花魁はその小汚い百姓に対して口を開いた。


「あなたは何者ですか?」


その若い男は息を飲むような美青年だった。


女は今までにこんなに容姿端麗な男を見たことがなかった。


端的に言って一目惚れをしたという訳だ。


若い男は女の質問に対してこう返した


「私は百姓です。けれど小紫花魁に会うために大富豪から盗みを働いてお金を手に入れました。そして今こうして会いに来たのです。」

と若い男は爽やかに答えた。


この際盗みがどうこうとかは女にとってはどうでもいい情報だった。


女はもっとこの男の事が知りたくなり会話を続けた。

その若い男は容姿端麗である上に話術も巧みであったため女はいつのまにかその男の虜になっていた。


そして若い男も吉原一の遊女の虜だった。


お互いがお互いのことをもっと知りたいと思った。


それは若い2人にとって初めての感情であった。


そして自然な流れで女は床入りを許し共に夜を過ごした。女が客に床入りを許したのは初めてだった。

お互いがお互いに惚れていたのである。


夢のような夜はすぐに明けて朝が来た


若い男は

「次は自分の力でお金を貯めて必ず会いに来ます。」

と言って帰っていった。


しかしその若い男が女の前に現れることは2度となかった。


女と会った翌日、男は盗みをした事がバレて死罪になってしまったのであった。


そんなことも知らない女は28になるまでの実に12年間もその男を吉原の遊郭で待ち続けた。




















































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

遊郭でありそうなこと シエレレエ @sierere

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る