私の日常

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かっこいい男の子がいた。

背はそれほど高くないけれど、いじめられていた私を庇ってくれた優しい男の子。

差し出された手を握ると、しっかりと握り返してくれた。


それが嬉しくて、私は彼の顔を見ることができないくらい真っ赤になってしまった。


***


家ではいつもポニーテールにしている。

長い髪をさっと纏め上げるにはこれが一番だ。


切ってしまえば扱いに困ることはないけれど、そうするわけにもいかない。

彼が好きなのはこれくらいの長さだから。


***


彼が遠くに行ってしまった。

とても辛かったから思い切って髪を切ってみたけれど、自分には似合わなかった。

これなら、そのままにしておけばよかった。


***


髪の毛はゆっくりと伸びていく。

最近は少し目が悪くなってきたので、お母さんに眼鏡を買ってもらった。

自分の顔には似合ってないかもしれないけど、それでも別にいいかなって思った。


***


嬉しいことがあった。彼が戻ってきたのだ。

あの頃から髪を伸ばしておいてよかった。

普段は三つ編みにしていたれど、これならいつでも元に戻せる。


***


コンタクトに初挑戦してみた。

なんだかむずがゆい。慣れなくちゃ。


でも、普段は眼鏡でいいかな。


***


彼に近付く女がいた。どうにかしなきゃいけない。


だけど、私は何をすればいいのか全くわからなかった。

手荒なことなんてもっての他だし、彼が嫌がることはしたくない。


あの女に辛いことがあったら、きっと彼も悲しむだろうから。


***


友人が恋をした。相手はなんとあの女だった。

その時私は気付いたのだ。

この恋を成就させれば、危険を回避できるっていうことに。


だから、私は全力を尽くして友達の恋をサポートすることにした。


***


その年の冬、友人の恋はとうとう実った。

女の恋愛観から地道に変えていかなきゃならなくて、凄く大変だったけれど、友人もその女も幸せそうな顔をしていたし、とても上手くいったと思う。


笑顔の二人を見て、私もなんだか嬉しくなった。


***


高校を卒業する時期が近づいてきた。

私は進路に悩んでいた。

このままじゃ、彼との距離がどんどん広がっていってしまいそうだったから。


だけど、覚悟を決めた。

一年間を、彼のために費やすと。


***


じっと彼の動向に耳を傾けながら、勉強を続けた一年だった。


***


無事に彼と同じ大学に入ることが出来た。学科も同じだ。

三つ編みはやめて、コンタクトに移行した。

服装も、パンツルックを基本的なファッションにした。

彼は私のことを覚えていなかったけれど、それでもいい。


***


彼が車に跳ねられた。


***


え?


***


なんで?


***


どうして?


***


……


***


救急隊員の人が教えてくれた。

ひとまず、命に別状はないらしい。

それを聞いたとき、膝の力が抜けて、私はその場にへたり込んでしまった。


***


車のナンバーは、しっかりと覚えている。


***


久しぶりに、本当に久しぶりに彼と言葉を交わすことが出来た。

嬉し過ぎて涙が出そうになって、それを堪えるのが大変だった。


***


車の持ち主を見つけた。

あの男だ。


***


大学の講義は面白くないものが多いけれど、ノートは必死で丁寧に取った。

彼に使ってもらうのだから、適当に作るわけにはいかない。

そう思えば、退屈で眠たくなりそうな講義も楽しめる。


***


一度目は失敗した。

男はすぐに店を出て行ってしまった。

わざわざ好みを調べあげてそのスタイルにしてやったのに、臆病なやつだ。


***


彼の隣に座って講義を受ける。それだけで、一日が輝く。

申し訳なさそうにしている彼の優しさが、嬉しい。


***


二度目で成功した。

単純な男はすぐに踊らされる。


***


海へと向かった。あらかじめ用意してあったボートを使って沖に出る。

潮騒の音が心地良い。


男の方は何が何だかわかってない様子だったけれど、そんなのはどうでもよい。

さっさと捨ててしまおう。


一応の餞別として、音楽を添えてあげた。

再び巡り合わせてくれたことには感謝しよう。


***


彼が、お礼をしたいと言ってくれたので、思いきって映画に誘ってみた。

観たいと思ってた映画を観に行ったんだけど、緊張しちゃって内容なんか全然頭に入ってこなかった。

あとでこっそりもう一回観に行こうと思う。


***


彼がディナーに誘ってくれた。

嬉しすぎて、どんな返事をしたのか、どんな話をしたのかも覚えてない。


***


別れ際、今だ、と思った。

ずっとずっと心の内側で燻ぶらせていた気持ちを彼に伝えるのはこの時だ、って。


だから、私は彼と初めて会った公園の高台に彼を誘った。

懐しいのか、景色を見つめる彼を、思いきって名前で呼ぶ。

そして、振り返る彼に不意打ちのキスをした。

そんなことをしてもいつも通りに反応する彼だけど、私はそんなところが好きなのだ。


***


言葉を口にするまで何分かかっただろう。

でも、その間も彼はじっと待っていてくれた。

だからこそ、私は最後の最後、緊張せずに言葉を紡ぐことが出来たのだ。


好きです。


その一言を。


***


彼と一緒に過ごしている。


今までよりも、ずっと近くで見ていられる。


それが、何よりも嬉しい。

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