第97話 私には負けという文字はないのですぅ……あぅあぅ
テツとドランの戦いが終わるとホーラ達は佇むテツをそのままにレイアとリアナを連れてオークに襲われた集落へと向かった。
ちなみにホーラに縄で縛られたアリア達はダンテに縛られたまま引きずられていた。
ホーラに逆らって行動した罰らしい。ホーラの罰と考えれば非常に優しい部類になるが魔法が主であるダンテには苦行である。
レイアとリアナが手を貸してくれるかと淡い期待もしたがスタスタと去って行く後ろ姿を見送ったダンテが「僕も縛られたほうが良かったかも……」と半泣きにさせられたが2人もいつもの流れで無視した訳ではなかった。
テツのあの戦いをホーラ達に縛られるのを避けた結果、黙って見守った訳だが、消化できない想いを抱えていた。
テツにしろ、ドランにも戦う理由を見いだせなかったからだ。
ドランが自分が戦う理由を告げた。しかし、それをわざわざする意味はない。
レイアが言うように悪党であれば納得は行くが、リアナが言うように辺境の英雄とまで言われるドランにあるはずはない。
しかも、テツが言うように強制労働の期間を終えているのにも拘らず、辺境の冒険者達も寄りつかない場所で危険な戦いに身を投じていたりしないはずだからである。
2人には解に辿りつく道標すら発見出来ない。だが、前方を歩く姉達はその解を知っている。
それを知る機会は先程あったが盗み聞きをしようとしたのを2人に気付かれて追い払われて聞き逃した。
こんなにモヤモヤするぐらいなら縛られる覚悟をして再チャレンジすれば良かったと後悔する2人であるが今更、ホーラ達に特攻しても聞き出せる可能性は皆無である事は頭の悪いレイアですら分かる。
俯きかけた2人であったが同時に顔を上げてお互いの顔を見合わせると示し合せたように背後で情けない声を出してアリア達を引きずるダンテを見つめる。
踵を返してダンテの下に向かう2人。
それに気付いたダンテがパァと表情を明るくする。
「あっ、2人とも手伝いに来てくれたの?」
「いや、そんな事はどうでもいいんだ」
レイアに即答で否定されたダンテが魂が漏れるような溜息を洩らす。
「僕にはとても重要なんだけど……」
「ダンテを見込んで聞きたい事があります」
リアナに詰め寄られたダンテが嫌そうな顔をするのを気にせず有無を言わせないという気迫で質問される。
「テツ兄様とドラン様の戦い、その意義を貴方はどう見ましたか?」
「そうだぜ、ダンテ、そこのところどうなんだ?」
「はぁ……ホーラさん達に聞けないから僕? 僕も分かってる事は少ないから合ってるか保障はないよ?」
そう言うダンテが「答えたらアリア達の縄を一本ずつでいいから引き受けてね?」と告げるダンテに頷く2人。
気が進まないという微妙な表情をするダンテが溜息を零して話し始める。
「ドランさんの事は昔も今も僕は知らないから何も言えない。でも、テツさんはここのところ負けが続いていた。多分、ハッサンさんにも負けたんだと思う」
「えっ!!」
「……」
驚くレイアに口を真一文字に結ぶリアナ。リアナはどうやらテツとハッサンが一戦を交えていた可能性には気付いていたようだ。
ダンテが言うようにテツは勝ちから遠のいていた。
秘密研究所にいたカラシルと互角に戦っていたがアリア達を利用され、膝を付かされ、危うく負けそうになった。ザガンに渡ってきてもテツには白星がない。
土の邪精霊獣に勝ったかに見えたが実質は雄一に破れて急速に復活していたのでスカスカだったからであり、ホウライには逃げられ、セシルにはまだ敵ですらないとばかりに見逃された。
しかも、カラシルに殺されそうになった時に結果的に救ってくれた老人にも惨敗した。
ゼグラシア王国では雄一のクローンのツヴァイとの戦いも勝ってはいない。
そのうえ、ハッサンに負けたと見ているダンテは辛そうに目を逸らして告げる。
「だからこそ、テツさんはドランさんに勝ちたかった。8年間、無駄じゃなかったという事実を確認する為に……」
だが、テツは負けた。
ドランは引き分けだと言ったがダンテ達もそれは理解していた。
3人、いや、引きずられて転がっているアリア達も静かになって重い空気が流れる。
そして、どちらかとなく踵を返してダンテの下からホーラ達が向かう先に歩むレイアとリアナ。
「ちょ、ちょっと待って!?」
アリア達の縄を受け取らずに去る2人に呼び掛けるが振り返らずにそのまま歩き去る。
呼び止める為に腕を伸ばしていたダンテであったが、諦めたように腕を下ろす。
「お約束過ぎるよ……」
「……たまにはダンテも悪い子になって私達の縄を外す事を強く勧める」
猿轡をなんとか外す事に成功したアリアに背後から言われ、本当にそうしようかな、とダンテは真剣に悩んだ。
▼
集落での救助活動を終え、集落の生き残り達をどうしようという時に最寄りのエルフの集落の者達が駆け付けたのでホーラ達は引き継ぐ事にした。
何かあったと分かったすぐ動く辺り、エルフの横の繋がりの強さを感じさせられる。
エルフ達に見送られたホーラ達が風の訓練所に向かう。
その行程で傷心なはずのテツは集落で合流した時にはいつものように柔らかい笑みを浮かべていたが向かう最中の間、遠い目をする事が多くアリア達はやきもきさせられた。
しかし、それ以外、特に何も起きずに辿りつく。
訓練所に入ると土の場所と同じく緩い感じのマサムネに歓迎され、前回同様に扉を潜るように言われ、アリア達から入って行く。
最後に残されたホーラ、ポプリ、テツは顔を見合わせる。
露骨に溜息を零すホーラが頭を掻く。
「アタイ等が入ってもあんまり意味がないそうだけど、あの威圧が緩和されるらしいからとりあえず入っておくさ」
そう言うとホーラが扉を潜り、少し間を置いてポプリが入って行く。
2人が入ったのを見送ったテツが続こうと扉を開きかけた時、背後から名を呼ばれて弾かれるように振り返る。
そこのいた者を見てテツは目を見開き絶句する。
開きかけられた扉は静かに閉じられる。
そう、潜るはずであった者を通さずに音もなく閉じられた。
ウロボロスの尾を断つ神剣ー連理の枝の巫女ー バイブルさん @0229bar
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