第7話 禁断のスキル(完)

 わたしは両手を組み合わせ、祈った。

 念仏のように唱える。


「痩せたい痩せたい痩せたい痩せたい痩せたい痩せたい痩せたい痩せたい痩せたい痩せたい痩せたい痩せたい痩せたい痩せたい痩せたい痩せたい痩せたい痩せたい痩せたい痩せたい痩せたい痩せたい痩せたい痩せたい痩せたい痩せたい痩せたい痩せたい痩せたい痩せたい」


 奇跡が起こった。

 頭のなかで声がする。


「痩せるスキルを取得しました」


 そして頭のなかに表示されるスキルリストの一番下にどうどうと痩せるスキルが表示された。NEWという文字とともにピカーと輝いている。


「よっしゃあああ!」

「え! ほんとにうまくいったんですか! ずるいなあ」

「ハハハ、早速使ってみよう」


 わたしは意識を集中させ、宣言する。


「痩せるスキル!」


 なにごともないようだが、お腹を触ってみる。

 お餅のような部分が消滅していた。

 お腹に力を入れたからではない。


「キター!」


 ついにわたしは無敵になったのだ。


 ケンタウロスとエルフたちに見送られながら、わたしは現実に帰る。

 ドアがあれば、どこからでも帰れる。はじめて異世界に来たとき、お家に帰りたいと真剣に全力で願い、手に入れたスキルである。その名も帰宅スキル。

 そして異世界のことが心底心配になって、クローゼットを開けたとき、異世界に行けるスキルも発現した。


「今日は楽しかったよ、それじゃ、またね、ばいばい」

「つぎは痩せさせるスキルをお願いします!」


 他者のダイエットを真剣に祈れるだろうか。そんなことを考えながら、愛想笑いを返す。レストランのドアを開け、通り、後ろ手にドアを閉める。からんからんという鈴の音は途中で途切れた。


 ――見事、自分の部屋に戻っている。


 やれやれ、と振り返り、鍵を開け、部屋を出る。家の廊下にちゃんとつながっていて、すこし安心する。シャワーを浴びるために、浴室のある一階へ向かうのだ。

 その道すがらの階段で、弟と出くわした。今朝の喧嘩のことを思い出したが、弟がさきに真っ赤になって叫ぶ。


「裸でうろつくんじゃねーよ!」


 わたしは素っ裸だった。魔法のジャージは現実には持ってこられないのだ。逆に現実のものは異世界に持ち込める。まことに奇っ怪だ。


「ねーちゃんのナイスバディに欲情すんなよな」

「ざっけんな、ブタ姉」


 罵倒も今は心地よい。

 目をつむって硬直する弟の横をすり抜けて、階段横の部屋に入る。浴室だ。


「そだ」 


 思いついて、どれだけ痩せたのか、シャワーを浴びる前に、体重を確認することにした。洗面台の下の戸棚に押し込んだ体重計を取り出す。〇〇キロの大台を切っているのではないかと予想される。

 乗っかって、数秒後、表示された数字を見て、わたしは絶叫した。


「ピギャー」


 痩せるスキルで痩せた分は現実には反映されないらしい。

 逆に、食べたものはそのまま反映されたらしい。

 理不尽だ!


「どうした! 姉ちゃん!」


 弟が浴室のドアを開ける。


「あ……」


 弟は静かにドアを閉める。

 察したらしい。


 増減+2

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

JKヨシノ@異世界チートダイエット かんらくらんか @kanraku_ranka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ