K保育園

雛田安胡

第1話

 ある冬の晩。Sさんが息子を、通わせているK保育園に迎えにいったときのことだ。

 身を切るような寒さの中、Sさんは三歳にもならない息子を後部座席のチャイルドシートに載せ、自分も運転席に座った。

 と、Sさんの息子が車の斜め前あたりを指差し、言った。

 おじいちゃんがわらってる――。

 Sさんの息子が指差した方向には、小さな社があった。その入り口脇には電柱が立っており、それには街灯が付いている。辺りは真っ暗だが、そこにいれば見えないこともない。

 しかしこんな寒い中、出歩く人などいるだろうか。

 直感的に恐怖を感じたSさんは、そちらを極力見ないようにし、車を発進させた。


 実は、K保育園には幽霊が出るともっぱらの噂だった。

 カーテンがひるがえったところにあるはずのない足があった、など他愛のない話がほとんどだが、親や保育士のほとんどが体験談を持っていたり、実際病院の跡地に建っていたりと、一概に笑い飛ばせる話でもない。

 そして、Sさんの息子が指差した社は、病院で亡くなった人を慰霊するために建てられた社だった。

 そういう場所なのである。

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K保育園 雛田安胡 @asahina_an

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