孤独の探求者

孤独の探求者

「うぅ…ん……」


 寝苦しさに目を開け、ぼんやりと自身の状態を確認する。

 薄暗い部屋に小さな窓。外からしか開けれない頑丈な鉄製の扉に、隅にある、壁一面の本棚と勉強机。机の上には読みかけの本と、真っ暗にフェードアウトしたパソコン一台。

 自分の腕は深紅の手錠で頭上に固定されている。足には深紅の足枷、首には同色の首輪に細長い鎖。


 もちろん…──

 この真紅の枷はだ。


「……趣味の悪い…。」


 ──まぁでなければ拘束すらままならないだろうが…。


「──制限一時解除クォール・エラー。」


 真紅の手錠が付いたまま、室内だけを自由に動けるようにすると、ゆったりとした動きで立ち上がる。

 頭に突き抜けるような鋭い痛みが走り抜ける。


 ──またか…。


 額に片手を当てて熱が無いか確認しつつ、水道を捻り、水を飲む。冷たい液体が、喉を冷やしながら流れ落ちるのを感じる。


 今回は記憶崩御が起きなかっただけ、まだマシだと気を失う前に聞いた。これから一日数回ある、検診だ。そこで記憶崩御が起きた片鱗が無いかなど確認される。


 ──まぁ当たり前か…。


 記憶崩御を起こすのは言わばに近い。

 そんな事を考えつつ、机のパソコンを立ち上げ起動する。


『Hello, Mr.Kukura?』


 早速メールボックスにメールが来ている。このふざけた感じはどう考えても、あいつしか居ない。

 カタカタカタタタタッと高速でキーボードを打つ。


『毎回思うんだが。その巫山戯ふざけた文面、どうにかしろ。』


 送信するとものの三十秒で返事が来る。


『巫山戯た文面だなんて酷いなぁ? 括蘿くくら君相手に巫山戯たことなんて、無いよ?』


 嘘だろ、と思う。嘘ばっか付いてんじゃねぇか、と。

 コイツはいつも俺に与えるのは上に与えていいと言われた情報エサだけだ。

 つまり……ほとんどゴミに等しい情報だけ。


『あっそ。で、今日の予定は?』

『わぁおつれないな?w 今日はスタンダードな予定に沿うつもりだね、イレギュラーが無ければ』

『お前のスタンダードが上手くいく所を見た事が無いがな。了解。』

『えー? 上手くいってるよ、君のお陰で』

『煩い。』


 煩い阿呆のメールを見るのを止め、時計を見る。からだ。

 白い襦袢じゅばんの上に深い蒼色の着物を着て、その上に同系色の羽織を羽織ると扉がノックされた。ジャストタイミングだ。


「…………。」

「行きましょうか?」


 貼り付いた相手の笑顔を見つつ、無言で頷き、歩き出す。


「……。」

「……。」


 暫くお互いの間に会話は無かった。必要とも思わなかった。この人形とは会話したくない話したくない









 そして俺と人形の間に遂に会話が成される事はなく、診療室に着くまでの間無言だった…──。


***

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

時の黙示録〜ジーズ・ビー・アワー〜 幽谷澪埼(第二垢 @yashumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ