夏夜の出来事

青木誠一

「お墓はどこ」だと?

「お墓はどこでしょうか?」

 幽霊がきた。

 窓の外からか細い声で、際限なく呼びかける。

「お墓はどこでしょうか? お墓はどこでしょうか? お墓はどこで……」

 ああ、やだ。

 幽霊なんか大っ嫌い。

 どこがいやかって、なんだか自分の立場に特権的な価値を自覚してるところ。

 出るだけでみんな怖がってくれると思ってるんじゃないの。

 ほんと、うざい。

 夏休みの宿題片付けるのに忙しいとき、邪魔しないでったら。


 しかし。

 なぜみんな、幽霊なんて特別視するんだろう。

 幽霊にかぎらないよ。

 有名人がくれば騒ぐ。

 有力者がくれば騒ぐ。

 美男美女がいても大騒ぎ。

 人間ってなぜ、こういうものに弱いんだろう?

 自分を超絶した存在への憧憬があるからだろうか。


 それはいい。

 幽霊め、とうとう入ってきた。

 入っていいよなんて言ってないのに。

 あたしのそばまできて、耳元で囁くんだ。

「お墓はどこでしょうか?」

 これはほら、あれだ。

 うっかりお墓の場所教えたら、「いっしょにきてください」で連れてかれちゃうやつ。

 あたしは幽霊なんかと目を合わせない。見なくてもどんな風体だか想像つくし。もう無視するから帰ってほしい。

 こいつ。あたしが今、始業日間際で宿題に追われて必死なの、わかってやってるのかな。

 そうとうイヤミだぞ。


「お墓はどこでしょうか? お墓はどこでしょう……」

 うわあ、気が散る。また計算、間違えた。

「お墓はどこでしょうか? お墓はどこでしょうか? お墓はどこでしょうか? お墓は……」

「うるせえ! ここが、てめえの墓場だ!」

 堪忍袋の緒が切れた。

 もう、のさばらせとくわけにいかない。

 セーフティはずしておいた電磁収束砲を向けた。

 発射!

ヒョルンヒョルン! ズバビーーーーッッッ!!


 電磁収束砲は兵器というより投光器に近いんだけど、なんだか男のアレと似てなくもない。メタリックに形象化して抱き枕のサイズまで大きくした感じ。

 撃つときも抱き枕みたいに我が身にしっかり密着させて操作。

 電磁エネルギーが色鮮やかな光条となり標的めがけて発射された刹那は、振動が体の奥まで伝わるのとあいまって17歳のあたしでも昂ぶりをおぼえる。


 これって、隠秘科学なんか研究してる叔父貴が、この家は霊的干渉が強いから役に立つかもしれないとかで置いてったものなんだ。

 たしかに役立ってるよ。もう何度も。

 叔父貴はめったなことで使うなとは言ってたけどさ。いいじゃん。

 かくして霊的存在を構築していた諸要素は分解、亜空間粒子としてあちら側の世界に吸収され、離脱体は収束……科学的原理はまあ、どうでもいい。

 とにかく幽霊は消えてなくなった。

 ザマあ!

 ああ、うざかった。


 怨恨はらしたあたしは再び、机に向かう。

 しかし……。

 夏休みの宿題は終わりそうにない。



†             †             †




 後日。

 電磁収束砲の使い過ぎがあたしの体に影響およぼし、とんでもない結果を招くんだけど。

 それはまた、別の話。





( 完 )

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夏夜の出来事 青木誠一 @manfor

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