第6話

 空虚な空間だ。一人になった俺の抱いた感想はそれだった。

 一人になって冷静になってみると、様々な記憶が少し色を変えてよみがえってくる。

 

『千歌はいつ戻るの? あっちに』

『お盆が終わったら、だね』

 

 「あっち」それは「あの世」。

 「お盆が終わったら」精霊はあの世に帰る。

 

『太雅なんて土用波にさらわれちゃえばいいのに』

『ひっでぇ……。いくら冗談でもひどくね? それ』

 

 それは冗談というより千歌の本音だったのだろう。同じところに来てほしいという切なる願い。でも、千歌は冗談とした。彼女の優しさが沁みてくる。

 

 ふと思い立ってスマホを手に取った。メールの履歴を遡ってみる。今年の夏……春……今年の初め……そして去年の年末……と画面をスクロールして見つけた一通のメール。

 

「会いたい」

 

 たった一言。十二月二十一日の日付のそのメールの差出人は千歌だった。途端に涙があふれ出た。どんな気持ちでこれを送って来たんだろう。想像すると苦しくてたまらない。

 

 高校時代、受験勉強を言い訳に俺は千歌と距離をとった。千歌も納得して応じてくれたのだと思っていたが、今思えば俺はひどかった。自分のことしか考えていなかった。同じ大学まで受けてくれた千歌のことを何も知らずに俺は今まできてしまった。

 

 このメール画面にも俺からの返信マークはない。きっと忙しさを言い訳にそのままにしていたのだ。なんて身勝手な男なのだろう、俺は。

 

 昨日の千歌との最後の会話がふと脳裏によみがえる。

 

『そっか。また会える?』

『そうね、来年も太雅がこの時期に帰省するならね』

 

 突然訪れたこんな奇跡が来年もまた起こる保証はない。だが、来年の夏は絶対にここへ帰って来ようと心に決めた。

 

 あのとき言えなかった「大好きだよ」の一言を伝えるために。



                             (終わり)

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夏の憂鬱 桜水城 @sakuramizuki

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