第5話
「だって連絡……」
「できるわけないじゃない。私だって自分がこんなにあっさり死ぬなんて思わなかったんだもん」
千歌と最後に連絡をとったのは大学合格を報告し合ったときだった。それから新生活が始まってからは一切こちらから連絡してなかった。千歌の方からも連絡はなかった。なかった……はずだ。あれ……? 何か今脳裏によぎったような……。
それにしても、千歌が死ぬほどに体調を崩していたことなど知らなかった自分が悔やまれる。そんなこと……わかっていたら葬式にだって絶対に出たのに。いやむしろ、病院に入院している時点でお見舞いに行ったのに。
「私ね、本当は太雅と同じ大学受けたの。二次募集のときにね」
唐突に発せられた告白に、陳腐な表現だが目が点になった。え? 千歌は第一志望の大学受かったんだろ? なんでそんな? そこまでして俺と一緒にいたかったのか?
「でも駄目だった。しょうがないよね、不純な動機だもん」
苦笑する千歌の表情に、俺は唇を噛みしめた。そうでないと自分が泣き崩れてしまいそうだった。千歌……千歌……。声にならない想いだけが胸の中で叫んでいる。
「私、本当に好きだったんだ、太雅のこと。ううん、今でも好き」
されてる俺の方が切なくなるような告白だった。千歌……千歌……なんでもう生きていないんだよ。俺は何も言えなかった。なんて言ったら良いのかわからなかったし、穴の開いた胸が詰まって苦しかったからだ。
「ごめん……ごめんね太雅……私……もう行かなきゃ……」
そう口にする千歌の姿は神々しかった。光に包まれだんだん薄くなっていく千歌。
そうだ、昨日は触れたじゃないか。千歌がこの世にいない人間なんて嘘だ。そんなわけない、そんな考えが浮かぶ脳裏をあざ笑うように千歌が消えていく。
「千歌っ……! 行かないでくれ!」
千歌の身体をどこでもいいから掴もうと伸ばした手は空を切った。
「ねえ……太雅は私のこと……ちょっとでも好きだった?」
涙目で微笑みながら訊いた千歌に、俺は答えることができなかった。千歌はその言葉を最後に残して消えてしまったからだった。
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