第4話

 新盆の法要は初めての体験で勝手がわからなかったが、母に小声でマナーを教えてもらいつつなんとかこなした。家に帰ると、坊さんの長い説法で疲れた身体を、喪服のままベッドに投げ込む。疲れた。ほんと疲れた。信じられなかったが法要が行われたのは確実に千歌の家だったし、お墓参りで訪れたお墓には真新しい文字で千歌の名前が刻まれていた。

 

 本当に千歌がもうこの世にいないのだと実感する。もう埋葬されているわけだから姿を見ることもできない。とてつもない喪失感。胸に穴がぽっかり開くってこういうことなのか。

 

 涙が頬を伝っているのに気付いたのは、教えてもらったからだった。

 

「こんばんは、太雅。泣いているの?」

 

 慌てて起き上がって声のした方を向くと、昨日と同じワンピース姿の千歌がいた。可愛い笑顔に忘れそうになるが、彼女はもう、生きている人間ではない。

 

「千歌……お前、言わなかったじゃないか。もう死んでるんだって」

 

 涙を流しながらも俺は怒った。いろんな感情がまざりまくって、空っぽになったはずの胸の中が気持ち悪い。

 

「私が身体弱いってことは言ってたはずだけど? むしろなんで今まで知らなかったのよ。お葬式にも来てくれなかったしひどい」

 

 千歌の立場に立ってみれば確かにそれはひどいかもしれないが……。

 

「仕方ないじゃないか。年末は忙しかったんだよ……」

 

 言い訳にもならない言い訳でごまかそうとする俺を、千歌は咎める。

 

「年末にそんなに忙しいってどういうバイトよ?」

「こぐまさんだよ」

 

 俺の当時のバイト先は、宅配業界で大手の運送会社だった。こぐまのマークでお馴染みのCMは全国的に知られている。

 

「こぐまさんかあ……年末忙しいもんなの?」

「それはもう。届ける荷物がいっぱいだよ。特に最近はおせち届けるのとか増えたし」

 

 俺はトラックの免許は持っていないからドライバーではないのだが、同乗者として雇われていた。基本的には駐車場のない届け先だったりで路上駐車している間の留守番なのだが、届け先がマンションだったりして同じ建物に複数あったりなどして手が足りないときにはドライバーの代わりに届けたりもする。とにかく忙しいのだ。

 

「でもだからって私が死んだの知らなかったなんてほんとひどいよね、太雅。昨日会ったときも知らなかったわけだ」

 

 千歌は話しながら俺のベッドに腰掛ける。腕組みをして怒っているというアピールまでして。

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