第3話
次の日、朝早くに叩き起こされた……と思ったら十時だった。うん、そんなに早くもない。自堕落な生活を反省しながらも、まだ眠気の残る頭ではすぐ忘れてしまう事柄だった。
「何? お葬式?」
両親は揃って黒いスーツのような服装をしていた。喪服……か? 誰か亡くなったのだろうか。
「お新盆(しんぼん)よ。あんたも支度しなさい」
葬式ではないのか……。でも、新盆ということはこの一年の間に亡くなった人ってことだ。
「え? 最近誰か亡くなったの?」
親戚とかのレベルなら、俺が知らなくても無理はない。何せ今回の帰省までこっちに帰ってないくらい忙しかったのだ。
だが、母の言葉は予想外に俺の頭を殴り倒した。
「兆司(ちょうじ)さんとこの千歌ちゃんよ。あんたも知ってるでしょ? お葬式は来なかったけど」
は? 今……今、なんて? 千歌?
「千歌? は? そんなわけ……」
兆司さんと言うのは確か千歌の親父さんの名前だ。「村田兆治」と字がちょっと違うだけと言うネタで高校時代の千歌と盛り上がったのをよく覚えている。そして兆司さん、更には千歌が俺のちょっと遠い親戚というのを知ったのもその頃だった。
冷や汗が背中を伝うのがわかる。千歌が……亡くなっている?
「去年の年末に急に体調を崩して……って何? あんた知らなかったの?」
「だって、千歌なら昨日会った……ええ!?」
そうだ。だって、昨日会ったばかりだ。元気そうな可愛い表情も見たばかりなのに。
「何ばかなこと言ってるのよ。いけない、もうこんな時間。あんたも支度しなさい」
そう言って母が差し出す喪服をしぶしぶ受け取り自室に戻る。人違いであってくれ、そう祈りながら俺は喪服に袖を通した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます