第2話
少し期待もしながら俺は答えた。千歌も大学に進んで県外に出ている。残念ながら俺とは違う県だが、こうして帰省すれば会えるのだ。遠距離恋愛も悪くない。
「いないんだぁ。そっかぁ。ふふ」
あからさまに嬉しそうにしながらも、決定的な言葉は言わない彼女に少しもどかしい気持ちになる。これは俺から言わないと進まないのか。しかし、なんだか負けたような気がしてそれはためらわれる。
「なんだよ、そういうお前はどうなんだよ?」
肩をグーで軽くこづきながら訊くと、頬を緩ませながら千歌は答えた。
「えー? ひみつー」
「なんだよ、言えよー」
「教えないもんー」
きゃっきゃっとはしゃぐ千歌に、それ以上のことは訊けなかった。実はもうカレシなんかいるんだろうか、でもあんまり上手くいっていなくて俺には言えないとかなのだろうか。
様々な疑問がわいてきて余裕のなくなった俺は、しばらく黙っていた。すると、千歌も何も言わなくなったので、しばらくの沈黙が流れた。そして、先に口を開いたのは俺の方だった。
「千歌はいつ戻るの? あっちに」
大学の方のことを指して俺は訊いた。「帰る」という言葉は使えなかった。帰るのは実家だ。大学には「戻る」のだ。一時的に。
「お盆が終わったら、だね」
千歌はそう答えた。どこか寂しそうに感じたのは気のせいだろうか。
そうか。お盆だから千歌も里帰りしていたのか。俺は特にお盆という風習は気にせずにこっちに帰ってきたのだが、もしも時期がずれていたら千歌とは会えなかったのかもしれない。偶然だが会えて良かったと思っている。しばらく連絡もとっていなかったのに会えたのは奇跡なんじゃないんだろうか。もしかして運命とか思ってしまう自分の乙女っぽさが気恥ずかしい。
「そっか。また会える?」
「そうね、来年も太雅がこの時期に帰省するならね」
それから千歌とは涙もなく別れた。これからは少しでも連絡をしようと心に決めて。
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