5
2014年、4月中旬。
相も変わらず朝は読書、なんと休み時間も読書という目を疑いたくなる日々は続いていたが、張り詰めた空気は少しずつ緩み始めていた。
「起立、気をつけ、礼」
『お願いします』
私の号令により、朝のホームルームが始まる。加藤先生はいかにも眠そうな目で生徒達を教壇の上から見下ろしていた。そして徐に口を開く。
「…はい、皆さんおはようございます。えっと今日から授業が始まるんですが、正直言ってかなりキツイです。いきなりコレはキツイと思います。今日帰ったら課題やるどころじゃなくもう寝たくなると思います」
……そんなにキツイのか。私は首を捻った。予定表には"8時限目"の欄があり、英語・数学・国語・自習の4つの単語がそれぞれ埋められていた。月曜日だけは空欄だった。きっと先生は8限の存在の事を言っているのだろう。
しかし、8限ぐらいで疲れるものなんだろうか?それでも日が落ちる前には帰れるんじゃ?それに、部活だってやってみたい。幼い頃から何かになりきる事と物語を作る事が好きだったので、演劇部に入部して、自分の作ったシナリオで劇をしてみたいとずっと考えていたのだ。……後で、聞いてみよう。
「慣れるまでが大変だと思うけど、頑張ってください。じゃあ終わります」
「起立、気をつけ、礼」
『ありがとうございました』
号令を済ませると、皆スクールバッグの中から1限の教科…英語の教科書を取り出した。私は先生を追いかけようとしたが、先生は号令が終わるや否や、教室を出て何処かへ行ってしまっていた。私も仕方なく次の授業の支度をする事にした。
暫くすると、小柄で豆粒みたいなおじいちゃんが教室に入ってきた。少なめの髪はさっぱりと短く切りそろえているその人は、いつも朝のホームルームが始まる前に教室にいて、生徒に混じって本を読んでいた、私にとってよく分からないご老人だった。手には木製の長い棒と、数学の教科書を持っていた。
始業の鐘が鳴ると同時に号令をかけると、先生はニコニコとしながら「お願いします」と言った。
「えー、数学Aを担当する清水です。このクラスは副担任もやらせてもらってます」
副担任だったのか。知らなかった。加藤先生も教えてくれればよかったのに。
「では皆さん、教科書を1ページ開いてください。目次が見えますか?」
真新しい教科書を1ページ開く。先生の言う通り、目次が見えた。
「はいじゃあ、そのまま手を離してください」
言われた通りに手を離すと、新品で折り目ひとつない教科書はパタンと閉じてしまう。それは、この教室の生徒全員が同じだった。その光景を見た清水先生は、深いため息をつく。
「この授業を受けるには、予習と復習が必須!こうして折り目も何も無い教科書を今持ってきているという事は、この授業までに教科書を開いて予習をするというような事を全くしてこなかったという証拠!君達は既に、ここで勉強していく意識が足りないという事です!!」
度肝を抜かれた。そんなに勉強しないと授業に付いていけないのか。先生の言葉はもっともだとは思うが、そこまで厳しい世界だとは思いもしなかったのだ。
「この学校に来て初めての授業でお説教ってね、もうここで萎えた人いるかもしれませんけど、今から授業始めます」
先生の授業は、さっぱり分からなかった。予習していないと分からないことが多すぎた。
1限が終わり、先生が教室から出た途端、生徒は皆全ての教科書を取り出して、静かに最初のページを開き折り目を付け始めた。
両手いっぱいの参考書と 水奈 @mizuna36
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